下出部町内漫遊記

月芝

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036 幽玄の狭間

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 ………………ヘンである。

 いや、いまのこの状況――しゃべるウグイス、人体模型と骨格標本を連れ歩いては、行く先々でキテレツな勝負を挑まれる――がおかしいのは、いまさらにて。
 わたしが首をひねっているのは、自分の体調全般についてである。

 これまでに第一の試練の儀『学校迷宮』と第二の試練の儀『下出部映画村』をクリアしてきたわけだけど、どちらもたいへんだった。
 よりどちらがしんどかったかといえば、断然学校の方だ。
 理由は、いきなりわけがわからない状況に放り込まれて、理不尽なゲームに参加させられたから。いろいろ呑み込み慣れるまでに相応の時間がかかった。
 その点、ある程度の免疫ができた状態で挑めたから、映画村の方はわりと上手くやれたとおもう。
 とはいえ、追いかけられまくりの逃げまくりだったわけで、終盤はけっこうへとへとだった。いまだから白状するけど、最後に弁慶役の人と対峙したときなんて、じつは膝がぷるぷる震えていたものである。

 それが試練の儀が終わったとたんに気分爽快!
 とまではいかないけれども、疲労がかなり軽減されている。おもいのほか動ける。体が軽い。
 空腹や喉の乾きについては、合間合間にお茶だけでなく団子にイモ羊かんにカステラにと、いろいろご馳走になったことで、お腹もかなり膨れている。
 そのことを差し引いても、やはりおかしいのだ。
 いかに佳乃さまから神通力をちょびっと分けてもらっているとはいえ、わたしはただの小娘である。超人じゃない。とっくに動けなくなっていないと、どうにも計算が合わないのだ。

 試練の儀七番勝負が始まってからこっち、時間の経過から何から、すべてがおかしくなっているので、そのせいなのかしらん。
 教えて一枝さん。

「チチチ、おやミユウ、ようやく気がついたのかい。まぁ、試練に挑む代理人への特典というかオプションみたいなもんさ。そもそもが無理くりなのは承知の上だからねえ。
 さすがに七連続でやったらフェアじゃないだろう?
 だから事前の取り決めで、ひと勝負ごとにリセットされてミユウが元気になるよう、おまじないをかけさせてもらっているよ」

 とはいえ、すべてが元通りとはいかない。
 とくに精神的負担は頑固な油汚れみたいなもので、チビチビこびりついておりなかなか取り除けない。当人も気づかぬうちに、心の奥に降り積もっている。
 だから……

「次の第三の試練の儀が終わったら、本日はおしまい。用意した宿でのんびり英気を養い、明日以降に備えてもらうつもりだよ」

 肩にとまっている一枝さんの説明に、わたしは心中複雑である。
 ご配慮はありがたい。
 けど、最初っから泊まり前提だったことを知って、少しうんざりしちゃった。
 あと他にも気がかりなことがある。

「勝手に外泊とかしたら、お母さんたちが心配しちゃうかも。交通事故にあってから、うちってばちょっとピリピリムードなんだよねえ」

 当人よりも両親の方が神経質になっており、ややもすれば過保護気味だったりする。
 そのことをわたしが口にしたら、一枝さんが「心配いらないよ」と言った。

「いまあたいらがいるのは幽玄の狭間だからね」
「ゆうげんのはざま~って、何?」
「あー、ようは現実であって現実じゃないっていうか。影とか鏡のなかみたいなもんかねえ。だからこそ、七葉の連中があれこれ好きにいじれているのさ。
 これがもしも現世(うつしよ)だったら、さすがにあそこまではできやしないよ。そしてここの時間の流れはあってないようなものだから」

 昼にもなれば夜にもなるし、朝かとおもったら夕方になっていることもある。
 ゆえに七番勝負を終えて戻るときには、現実世界ではほとんど時間は経っていないから案ずることなかれ。
 なんだかわかったような、よくわらないような……
 ともあれ家の方は心配しなくていいっぽい。
 だからわたしは「へ~そうなんだぁ」とだけ。

 以降はジンさんやカクさんも交えて、とりとめのないおしゃべりをしつつ歩くこと十分ほど。
 見えてきたのは『下出部銀座商店街』の入り口である。
 夏の日の陽炎のようにゆらめいており、近づくほどに周辺に異変が生じる。
 まるでオセロの石が黒から白へと一斉にかわるようにして、パタパタと景色が変わっていく。


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