36 / 106
036 幽玄の狭間
しおりを挟む………………ヘンである。
いや、いまのこの状況――しゃべるウグイス、人体模型と骨格標本を連れ歩いては、行く先々でキテレツな勝負を挑まれる――がおかしいのは、いまさらにて。
わたしが首をひねっているのは、自分の体調全般についてである。
これまでに第一の試練の儀『学校迷宮』と第二の試練の儀『下出部映画村』をクリアしてきたわけだけど、どちらもたいへんだった。
よりどちらがしんどかったかといえば、断然学校の方だ。
理由は、いきなりわけがわからない状況に放り込まれて、理不尽なゲームに参加させられたから。いろいろ呑み込み慣れるまでに相応の時間がかかった。
その点、ある程度の免疫ができた状態で挑めたから、映画村の方はわりと上手くやれたとおもう。
とはいえ、追いかけられまくりの逃げまくりだったわけで、終盤はけっこうへとへとだった。いまだから白状するけど、最後に弁慶役の人と対峙したときなんて、じつは膝がぷるぷる震えていたものである。
それが試練の儀が終わったとたんに気分爽快!
とまではいかないけれども、疲労がかなり軽減されている。おもいのほか動ける。体が軽い。
空腹や喉の乾きについては、合間合間にお茶だけでなく団子にイモ羊かんにカステラにと、いろいろご馳走になったことで、お腹もかなり膨れている。
そのことを差し引いても、やはりおかしいのだ。
いかに佳乃さまから神通力をちょびっと分けてもらっているとはいえ、わたしはただの小娘である。超人じゃない。とっくに動けなくなっていないと、どうにも計算が合わないのだ。
試練の儀七番勝負が始まってからこっち、時間の経過から何から、すべてがおかしくなっているので、そのせいなのかしらん。
教えて一枝さん。
「チチチ、おやミユウ、ようやく気がついたのかい。まぁ、試練に挑む代理人への特典というかオプションみたいなもんさ。そもそもが無理くりなのは承知の上だからねえ。
さすがに七連続でやったらフェアじゃないだろう?
だから事前の取り決めで、ひと勝負ごとにリセットされてミユウが元気になるよう、おまじないをかけさせてもらっているよ」
とはいえ、すべてが元通りとはいかない。
とくに精神的負担は頑固な油汚れみたいなもので、チビチビこびりついておりなかなか取り除けない。当人も気づかぬうちに、心の奥に降り積もっている。
だから……
「次の第三の試練の儀が終わったら、本日はおしまい。用意した宿でのんびり英気を養い、明日以降に備えてもらうつもりだよ」
肩にとまっている一枝さんの説明に、わたしは心中複雑である。
ご配慮はありがたい。
けど、最初っから泊まり前提だったことを知って、少しうんざりしちゃった。
あと他にも気がかりなことがある。
「勝手に外泊とかしたら、お母さんたちが心配しちゃうかも。交通事故にあってから、うちってばちょっとピリピリムードなんだよねえ」
当人よりも両親の方が神経質になっており、ややもすれば過保護気味だったりする。
そのことをわたしが口にしたら、一枝さんが「心配いらないよ」と言った。
「いまあたいらがいるのは幽玄の狭間だからね」
「ゆうげんのはざま~って、何?」
「あー、ようは現実であって現実じゃないっていうか。影とか鏡のなかみたいなもんかねえ。だからこそ、七葉の連中があれこれ好きにいじれているのさ。
これがもしも現世(うつしよ)だったら、さすがにあそこまではできやしないよ。そしてここの時間の流れはあってないようなものだから」
昼にもなれば夜にもなるし、朝かとおもったら夕方になっていることもある。
ゆえに七番勝負を終えて戻るときには、現実世界ではほとんど時間は経っていないから案ずることなかれ。
なんだかわかったような、よくわらないような……
ともあれ家の方は心配しなくていいっぽい。
だからわたしは「へ~そうなんだぁ」とだけ。
以降はジンさんやカクさんも交えて、とりとめのないおしゃべりをしつつ歩くこと十分ほど。
見えてきたのは『下出部銀座商店街』の入り口である。
夏の日の陽炎のようにゆらめいており、近づくほどに周辺に異変が生じる。
まるでオセロの石が黒から白へと一斉にかわるようにして、パタパタと景色が変わっていく。
10
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる