下出部町内漫遊記

月芝

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050 海夕の苦手なこと

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 ゆったりお風呂につかり、たらふく飲み食いをし、フカフカのお布団でたっぷり寝たおかげで気分爽快! 元気ハツラツ!
 見よ、この脅威の回復力を。
 これが十代前半の若さだ!

 わたしはすっかりリフレッシュした。
 でもジンさんとカクさんは「うぷっ、胃がムカムカする」「いかん、ちょっと呑み過ぎた」と少し辛そう。
 子どものわたしや千歌は早々に就寝するも、大人たちは遅くまでお酒を飲んでいたらしい。
 なお昨夜はお好み焼きパーティーであった。
 第一の試練のおりに、大玉キャベツを抱えたわたしが、しきりに「お好み焼き、お好み焼き」と連呼していたもので、一枝さんが宿側にリクエストしてくれたのである。
 というか、ウグイスのお宿のオーナーは一枝さんであった。

「そこはふつう女将さんとかじゃないの?」

 わたしが二枚目の豚玉モダンスペシャルをハフハフ頬張りながら言えば「いやだよ、めんどうくさい」と一枝さんは「チチチ」とさえずる。
 いわく「裏でふんぞり返っては、ときおりオーナー特権で上げ膳据え膳、宿をタダで利用するぐらいがちょうどいい」だそうな。
 まぁ、よくよく考えてみれば、わたしもそっちの方がいいとおもった。

 かくして万全? にて二日目を迎えたわたしたち。
 ウグイスの宿の女将さんや仲居さんらに見送られ、いよいよ一行は宿を出立する。
 その際には、千歌、尾白、牙寿郎も顔をみせてくれた。

「あんたなんか、さっさとまけちゃえ。あっかんべ~だ」

 舌をだしては憎まれ口を叩く千歌。
 う~ん、ツンデレさんかな?

「この先もいろいろお手数をおかけしやすが、どうかご無事で」

 渡世人の格好ではなくて、宿の寝巻姿をしている尾白。
 枯れ具合がいい塩梅に渋くて、大人の色気にちょっとドキドキ。

「仮にもオレの試練を超えたのだ。無様なマネをしたら承知せんぞ」

 眼帯をつけた伊達さまな牙寿郎が、そう言いながら肩や背中をバンバン叩いてくる。
 ちょっと……いや、かなり痛いんですけど。
 ジンさんなんてはずみで目玉がポロリとしちゃったし、カクさんは肩の骨がはずれて腕がだらり。

 と、こんな感じで三者三様の檄をもらって、わたしたちは次の試練が行われる場所へと向かった。

  〇

 さて、意気揚々と歩き出したのはいいけれど。

「どこに向かってるの?」

 行先を聞かされていないので、肩にとまっている一枝さんに訊ねたら「すぐにわかるよ」とだけ。
 ほどなくして聞こえてきたのが……

 パーン! パーン!

 運動会や陸上大会などの屋外イベントのときに、開始の合図を告げるために打ち上げられる音花火だ。
 音がする方へと向かう。

「あっ、こっちの方角ってばもしかして……次は古城山公園(こじょうやまこうえん)が舞台なの?」

 とのわたしに、一枝さんはこくりとうなづく。

 古城山公園。
 廃城となってからずっと放置されてあったのを、近代に入ってから公園にした場所。
 小高い丘と大きな池があり、園内には三百本もの桜の木を植えられている。春になると全体が薄桃色に覆われる。
 わたしの住む町および近隣でも屈指のお花見スポットにて、付き合いたての健全なカップルならば必ず一度は訪れるというデートスポットでもある。

 パーン! パーン! パーン!

 次々と青空に打ち上げられる音花火。
 大きなアドバルーンが浮かべられており、垂れ幕には『古城山公園水上フェスタ』と書かれてあった。
 それを見てわたしは「えっ!」

 じつはわたし……水泳があまり得意じゃない。
 どうにかクロールで50メートルは泳げるけれども、あっぷあっぷ。100メートルはまだムリ。
 でもってクラスで100メートルを泳げなかったのは、女子ではわたしだけ、男子もひとりきりだったりする。
 ほら、わたしってば佳乃さまから神通力をわけてもらうまでは、よく熱を出しては寝込む虚弱体質だったでしょう。そのため一二年生の頃はまだけっこう保健室のお世話になるような子どもだったのだ。
 その頃は水泳の授業も見学しがち。

 ろくに息継ぎの仕方も教わらないままに進級していったもので、四年生になったらいきなり「はい、50メートル泳ぎましょう」とか言われたってできるわけがない。
 これでも努力はしたのだけれども、もともと向いていないのか、さして上達もせず。わたしのなかで水泳に対する苦手意識だけがプク~と膨らんでいったと。

 第四の試練の儀は水にちなんだものだと知って、わたしの足はとたんに重くなった。
 そんなわたしを見かねてカクさんが言った。

「なぁに、それがしにまかせておけ。これでも水練を積んで、古式泳法をばっちり身につけておるからな。
 おぉ、そうじゃ、いい機会じゃからミユウにも伝授してやろうぞ。これさえ身につければ重たい甲冑をつけたとて、余裕で堀を渡って城に突撃できるぞ」

 いや、気持ちはありがたいけど、そんな予定もつもりもないから!


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