下出部町内漫遊記

月芝

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056 赤いブイの衝撃

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 互いを牽制しながら目まぐるしく順位が入れ替わる。団子となったまま、トップ集団は折り返し地点のブイへと近づいていく。
 これに遅れること20メートルあまり。
 わたしたちも懸命に追いかけているけれども、あと少し届かない。
 場が荒れている。先を行く連中により波が暴れているせいだ。そのために気持ちとは裏腹に速度がのびない。
 できればブイのところまでに追いついておきたかったのに。
 こうなったらしょうがない。いかに無駄なくターンを決めて、後半戦へと繋げるかが大事となる。
 だからハンドルを握るジンさんが的確な進入角度をとるために、位置を確認しようと周囲に素早く視線をめぐらせたところで「げっ!」

 ジンさんがおもわず二度見したのは、最後尾にいるゴリラチームだ。
 猛烈な追い上げにて、いっきに差を縮めてきており、こちらとの距離はもはや10メートルを切ろうかとしている。
 それはべつにかまわないのだけれども、問題はそこじゃない。
 いったい何を驚いているのかと、釣られて首だけひねってふり返ったわたしとカクさんも「なっ!」「うぬ!」

 シュバババババ……
  シュバババババ……

 水中をもの凄い速さで疾駆しては、みるみるこちらへと近づいてくる影ふたつ。

 ――魚雷だ!

 ゴリラチームが乗るカヤック型のボートから射出された模様。
 どうやらこれがあの船艇に搭載されていたシークレット機能らしい。
 真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
 魚雷の方が速くて、これからハンドルを切っても間に合わない!

「このままでは当たってしまう。えぇい、イチかバチかだ! みんな右へ体をおもいきり寄せろ」

 言うなりジンさんが立ち漕ぎの姿勢にて、グーっと体を右側へと倒した。
 カクさんとわたしもそれに倣う。
 たちまち船体が大きく傾きはじめ、ついには左半分が水面を離れた。
 車でいうところの片輪走行みたいな姿勢にて。
 ふつうの足漕ぎボートではさすがにムリだが、わたしたちの乗っているボートは特殊なモノ。二枚の大きなサーフボードに三人乗りの自転車をくっつけたような形をしているからこそできる芸当だ。
 最悪、転覆してもかまわない覚悟で臨む。
 えっ、一枝さん? もちろんとっとと逃げたよ。だって彼女はかよわいウグイス嬢、翼が濡れたらたいへんだもの。

 思い切った判断が功を奏す。
 二発の魚雷は持ちあげた左舷(さげん)の下をシャーッ、シャーッと素早く通過していく。さすがに自動追尾機能まではなかったようで助かった。

 回避成功、やったね!

 と、喜んでばかりもいられない。このままだと本当にひっくり返っちゃうので、わたしたちはあわてて左側へと身を寄せて、傾いた船体をもとに戻そうとしたのだけれども――

 シュバババババ……
  シュバババババ……

 遠ざかっていく魚雷の行方をなんとなしに目で追っていたわたしは、おもわず「あっ」と声が出た。
 なぜなら魚雷が向かっていたのは、ちょうどブイがある辺りにて、いまそこでは我先にターンをしようと競っている四艇がいたから。
 このままだとぶつかるんじゃないかな~とおもったら、案の定であった。

 ドンッ! ドドンッ!

 水中にてくぐもった爆発音が鳴って、衝撃が生じる。
 赤いブイのすぐそばで、それはそれは立派な水柱が二本あがった。高らかに舞い上がった飛沫が一帯に降り注ぎ、陽光を受けてキラキラ虹がかかる。

 魚雷が第一集団を直撃!

 起こった高波をザブンと受けて、どうにか持ち直しかけていたわたしたちの船艇は、あっさり引っくり返された。

「わっ」「なんと」「きゃっ」

 のっていた面々はそろって水中に投げ出される。
 でも安心してください。ちゃんと救命胴衣はつけてあるので落ちても大丈夫。

 一方で、これをやんやと喜んでいたのが最下位のゴリラチームだ。
 狙ってやったわけではないけれど、自分たちよりも前にいた全チームにひと泡ふかせたものでニヤリ、してやったりである。

 それでは魚雷を喰らった先頭集団はどうなったのかというと……
 放たれた魚雷は二発。
 うち一発の直撃を受けたのはオオカミさんチームのハクチョウボートであった。ちょうどターンをしようとしていたところを、横っ腹にモロに命中する。
 船体は衝撃で派手にごろんと横転し、水面に打ちつけたひょうしにハクチョウの長い首がポキリと折れた。

「ぐえっ」「ぎゃっ」

 バカップルはそろって船外に放り出され、べちゃっと腹打ち、溺死体のごとくプカプカ浮かんではグロッキー状態となり即リタイアとなった。

 もう一発が命中したのは、ウマさんチームのフォルクスワーゲンタイプのボートである。
 しかしながらこちらは大破せず。当たり所が良かったこともあるが、車体を模した船体が頑丈な造りであったことも運がよかった。

 けれども運がなかったチームもいる。
 それはポメラニアンチームだ。
 卵型機雷群を強行突破しただけでなく、搭載されていた飛行機能をも駆使したことにより負ったダメージがあったところへ、魚雷を受けて飛ばされてきたウマさんチームがぶつかってきたのである。
 いわゆる玉突き事故というやつだ。
 これがトドメとなり船体に穴が開いてしまい浸水、たくましいオバちゃんたちはそれでも懸命に水をかきだしレースの続行を目指すも、どうにもままならず。
 ついに彼女たちの乗るアヒルさんボートはブクブクと沈んでしまった。

 各チームの明暗がくっきり分かれるなか、アクシデントをものともせずに飛び出したのはマガモ型のボートを単身操る阿蓮であった。
 水柱の蔭からあらわれた時、ボートの形状が変わっていた。
 マガモの背、ボートの屋根に相当する部分がパカンと跳ね上がり、あらわれたのは帆である。
 これが彼女の船艇に搭載されていたシークレット機能にて。
 魚雷の爆発を掻い潜った阿蓮が、追い風を受けてついにトップに立った。


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