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057 独走、猛追、デッドヒート
しおりを挟む追い風を帆に受けて、阿蓮がグンと加速する。
引き離されまいとウマさんチームも懸命に追いかけるが、なかなか差は縮まらない。
とおもったらウマさんチームはドアをバンッと全開にした。彼らの船体はフォルクスワーゲンタイプのボートである。それが両扉を開けたことにより、まるで水鳥が翼を広げたような格好となった。
その意図はすぐにわかった。
ウマさんチームの速度もじょじょにあがっていく。
これは即席の帆、扉が風を受けて代わりをしているのだ。
とっさにこんな方法を思いつくだなんて、ウマさんチームのふたりは賢い! やっぱりマスクの中身は銀行マンか役所の人で正解だろう。
でも、その機転をもってしても、阿蓮との差をこれ以上開かないようにするので精一杯であった。
どうやら阿蓮は波だけでなく、風の流れをも巧みに読んでいるらしい。
そのため彼女が駆るマガモボートは水面を滑るようにしてスイスイ進んでいく。
この二艇を猛追するのはゴリラチームだ。
持ち前のパワーをいかんなく発揮しては、「うぉおぉぉぉぉ」「どりゃあぁぁぁぁ」
気合いにて、漕いで漕いで漕ぎまくる。
カヤック型のボートが水をジャバジャバ掻き分け突き進んでいく。
そして最下位に転落してしまったわたしたちはというと……
三人で協力しては「「「せーのっ」」」
どうにか引っくり返った船体を元に戻し、ふたたびサドルにまたがってはキコキコとペダルを漕ぐ。
折り返し地点のブイの周辺には脱落したチームのボートの残骸が散乱しており、万が一にも水輪や舵(かじ)に巻き込んだらたいへんだ。
なので、ちょっと遠回りにて危険地帯をかわす。
タイムロスは痛いが、あせって動けなくなるよりかはマシだろう。
ジンさん、苦渋の決断であった。
とはいえ、このままではどうやっても追いつけそうにない。
がんばったとて、よくて三位に食い込めるかどうかといったところ。
まさか阿蓮のマガモボートのシークレット機能が帆だったなんて……
〇
独走態勢に入ろうとしている阿蓮。
これにどうにか食らいついているものの、差がいっこうに縮まらないウマさんチーム。
そんなウマさんチームの背後には、ゴリラチームが迫りつつある。
みな大なり小なり、追い風の恩恵を受けているので速度が増している。
でも、わたしたちはさっぱりだ。
なぜなら、うちのボートは特殊な形をしているから。
船体は外殻のない剥き出しの構造。ようは三人乗りの自転車でサイクリングをしているのと変わらない。
ゆえに、せっかくの追い風が、後ろの席にいるわたしの小さな背中に当たっては、真ん中の席にいるカクさんの骨々な体をすり抜け、一番前にいるジンさんの人体模型なつるんとした体表を撫でるようにして越えていくばかり。
え~と、ごちゃごちゃと述べたけど。
ようは、追い風の恩恵がほとんど受けられていないということ!
「完全に読みちがえた。風のことはわかっていたはずなのに……。ちくしょう、こんなことならば布の一枚でも腎臓のところに仕込んでおくんだった」
悔しがる人体模型。ジンさんはふたつある腎臓パーツのうちのひとつを失くしているので、そこにはつねにぽっかりとスペースが開いている。
とはいえ、たいして広くはない。薄いブランケットぐらいならば丸めたら、どうにか収まるかといったところ。
「ムムム、それがしとて骨身を惜しまぬつもりであったが、よもや躬(み)がないことで、こんなにスースーしようとはおもわなんだ」
同じく悔しがる骨格標本。
カクさん、ちょっとうまいこと言った。
よっ、座布団一枚!
「う~ん、トップのアレンからずいぶんと離されたねえ。さすがにここから追い上げて逆転するのはちょいとキビシイか」
船首からジンさんの頭の上へと移動した一枝さんが、彼方を眺めつつ「チチチ」と目をほそめる。
三位のゴリラチームとの差は、すでに30メートルほど。
そのさらに前を走る阿蓮にいたっては、70メートル近くも離されてしまっており、友情と努力と根性だけでは、ちょっとどうにもならなさそう。
「ねえ、こうなったらうちもアレ……使わない?」
わたしは提案した。
アレとはわたしたちのボートに搭載されているシークレット機能のことだ。
もはや出し惜しみをしている場合ではないだろう。
それでもなおジンさんが渋っているのは、アレがアレでアレしちゃうもので。
「それはわかっている。だが吾輩やカクはともかく、ミユウの身にどのような影響がでるのかわからんからなぁ」
この期に及んでジンさんが使用を躊躇しているのは、わたしの身を案じてのこと。
じつは機能についての説明書に、こう書かれてあったのだ。
『推奨年齢15才以上』と。
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