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058 凪のまにまに
しおりを挟む『推奨年齢15才以上』
わたしの誕生日は七月二十五日にて、現在の年齢はまだ12才である。
たかが三才、されど三才。
とくに十代における歳の差は大きい。
タイミング次第では、サナギとチョウほどの差が生じかねない。
いかに勝つためとはいえ、子どもの健やかな成長に害を及ぼすかもしれない行為に手を染めるのは、いい大人のすることではない。
というのがジンさんの見解だ。
カクさんも同じ意見らしく「最悪、このまま負けても、また挑めばいいだけのこと」
一枝さんは「……」珍しく無言にて。
彼女は声高に反対はしないけど、賛成もしないといったところか。
話し合いは平行線。
さりとて結論が出ないままでも時間は止まってくれない。
レースは継続しているし、わたしたちもせっせとペダルを漕いでは、少しでも追いつこうと躍起になっている。
でも、そのうちに「あれ?」
ゴールまで残り250メートルほどの地点でのことであった。
わたしはあることに気がついた。
レース参加者の中で誰よりも先に気づけたのは、おそらくわたしが最後尾に位置していたからだろう。
風に煽られて視界のすみをチラチラしていた、自分の髪の毛がいつの間にか見えなくなっていた。近くの水面に浮かぶ木の葉を眺めてから、空を見上げる。
「えっ、ウソ。ひょっとして……風が…………やんだの」
ここにきて追い風がピタリと止んだ。
それまで吹いていた風がしばらくの間なくなってしまう現象――凪(なぎ)だ。
こればっかりは、さしもの阿蓮も読めなかったらしく、彼女の船足がたちまち鈍くなった。
独走状態に翳りがみえた。
それを追う後続の勢いも衰えた。
なぜなら彼らも追い風の恩恵を受けていたから。
ずっと背中を押されて楽をしていたところに、突然ハシゴをはずされたようなもの。
とたんに重くなるペダル。思うように速度が出せないボート。足にかかる負担も増した。蓄積された疲労もある。
急激な変化に意識が戸惑い、体の方もついてこない。
このためレース全体に急ブレーキがかかったかのようになった。
いよいよ終盤というところで、またもやレースの流れを左右しかねない事態が勃発する。
このまま決まるかとおもわれたレースの行方がわからなくなった。
各チームが対応に苦慮しているさなか。
まったく影響を受けていなかったチームがひとつだけあった。
誰あろう、わたしたちである。なにせ追い風の恩恵がほとんどなかったもので。
みんながモタモタしているうちに、ずんずん距離を稼いでは、差をどんどん詰めていく。
自分たちでもびっくりするぐらい快調に飛ばせたのもまた、凪のおかげ。
無風状態にて波がほとんどなくなり、ほぼまっ平となった水面。これが自転車型ボートとすこぶる相性が良かった。
それこそ陸上を走るかのごとく、ペースアップする。
ぶっちゃけ「ちょっとムリかも」と諦めかけていたところへ、降って湧いたチャンスにわたしたちは俄然やる気となった。
そして決断する。
温存していたシークレット機能をここで使うことを。
ただし、使用前にジンさんとカクさんから「もし、少しでも体に異常を感じたら、すぐに知らせろ」「ぜったいにガマンなんぞするではないぞ」とくどくど言われ、一枝さんからも「くれぐれもムリをしないように」と念を押された。
ジンさんがハンドルについたボタンをポチッとな。
とたんに自転車の上フレームの一部がカパッと浮いて、なかからチョロっと顔をだしたのはストローである。
シリコン製のやわらかいロングストロー。
それをくわえ、三人そろってチュウ~~~~~~~
思い切り吸うなり、管のなかを流れたのは怪しげな黄色い液体である。
その正体は『ハイパーエナジードリンク』だ。
エナジードリンクはカフェインやアミノ酸、ビタミン、糖分などの成分を含む飲料で、体力や集中力を一時的に向上させる。疲労を軽減するための栄養補給にも優れている。
ちなみに栄養ドリンクとはちがって、医薬品でも医薬部外品でもなく、食品分類上はあくまで清涼飲料水となっている。
だから本来であれば年齢制限はない。設けられているのはむしろ栄養ドリンクの方だ。
にもかかわらず、わざわざ注意書きが添えられていたということは、今回提供されたエナジードリンクが市販のモノとはいささか質が異なっているせいなのかもしれない。
ハイパーを冠するのは伊達ではないということ。
ちなみにハイパーの意味は『超越』とか『向う側』である。
なお、たとえ市販のものでもエナジードリンクの飲み過ぎはダメ!
糖分やカフェインの過剰摂取は、かえって逆効果になるから注意が必要だ。
過ぎたるは及ばざるが如し。
何事もほどほどに。
ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ぷはーっ。
味はパイナップルのような、レモンのような、リンゴのような、ブドウのような、オレンジのような、モモのような、マンゴーのような、キウイのような……
とにかくいろんな味が混ざっており、とってもトロピカル。
さりとて美味しいかと問われたら、「うう~ん」
首をかしげるような複雑な味である。
しかし効果はてきめんであった。
そりゃあもう血沸き肉躍り、カッカとなってギンギンである。
「「「うぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ」」」
なんだコレ?
未知の感覚だ。とてもじゃないけど、じっとなんてしていられない。
わたしたちは雄叫びをあげては、身の内にてグツグツと煮えたぎるマグマのような衝動に突き動かされるままにペダルを漕いで、漕いで、漕ぎまくる。
それに応えて水輪もシャカシャカ回っては、かつてないほどの勢いにてバシャバシャと水を掻き出す。
強力な推進力を得た船体が急加速を開始、矢となりまごついている先頭集団へと向かっていく。
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