下出部町内漫遊記

月芝

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081 物語の主役

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 文花の説明を聞いて「なんじゃ、そんなことか」とカクさん。

「よし、とりあえずあれから捕獲するか」とはジンさん。

 骨格標本と人体模型は、さっそく青いスライムみたいなのを捕まえようとする。
 あんなのを目にしたというのに、たいして驚いていないのふたりが同類だからであろうか。
 と、そんなことを考えているうちに、青いスライムが書架と書架の間へと入ってしまった。
 あんな大福のお化けみたいな図体をしているのに、案外足が速い。
 これを前後から挟み撃ちにしようと、ふたりは動く。
 ジンさんが先回りをして前方をふさぎ、相手を足止めしているところをカクさんが背後から「えいやっ」と襲いかかるという寸法だ。
 一枝さんを肩にのせたまま、わたしもこれに続く。

「おっと、ここから先には通さんぞ」

 棚の陰から飛び出し、バッと両腕を広げてジンさんが通せんぼ。
 これに驚いた青いスライムがビクリと固まった。完全に動きが止まったところで、「おりゃっ、観念せい」とカクさんが飛びかかった。
 わたしも微力ながら「えいっ」と抱きつく。

 ムギュとして、ツルン、にゅるん。

 なんとも言えない手応え。
 ほんのり冷やっこい。ベタつきとかはなくてさらりとしており、肌触りは悪くない。感触はゼリーをもっと柔らかくしたみたいな。つきたてのお餅とか、柔らかい低反発の枕とか、そんな感じ。抱いて寝たら、とっても気持ち良さそう。
 だがしかし、グッと掴む手に力を込めたとたんに、グニャリと変形したとおもったら、うにょ~ん。
 カクさんとわたしの腕の中から、青いスライムはあっさり脱出してしまった。
 ばかりか前方に立ち塞がっていたジンさんを踏み台にして、ぽよよ~ん。
 ボールの形となってはポンポン跳ねて、棚の上から上へと伝っては、あっという間にどこぞに消えてしまった。

 まんまと逃げられた!

 床に転がっているわたしたちは、それを呆然と眺めていることしかできない。
 すると「あー、やっぱりね」と言ったのは、様子を見にきた文花だ。

「そうそう、言い忘れていたんだけど、あんなのでも、ひとつの物語の主役だから。あんまり舐めてかからないほうがいいと思うわ」

 物語の主役――
 それすなわち数多のエピソードや試練を乗り越えて、完走し、エンディングまで辿りついた猛者だということ。
 推理小説ならば探偵役とかであり、剣と魔法のファンタジーならば定番の冒険者、歴史・時代小説や軍記物ならば騎士や武士、ホラー小説ならば不可解な現象に翻弄されたり。戦いとは無縁の恋愛系や、個性豊かな登場人物たちが活躍したり、若者の群像劇などを描いたキャラ文芸やライト文芸、宇宙の果てを旅するSF作品などなど。
 誰もが知る大作から、埋もれた名作まで。
 玉石混合、著者や読者の好みにて、いちがいに優劣はつけられない。
 けれどもそこに込められた想い、熱量だけはきっとどれも引けをとらないだろう。
 そしてもっともその影響を受けているのが物語の主役たち。
 作品の看板を背負っている者たちが、ひと筋縄でいくわけがない。

「あと、これはオマケで教えてあげる。逃げたあの子は『青のスーラ』ってファンタジー小説の登場人物よ」

 いわゆる異世界人外モノと呼ばれるジャンルなんだとか。
 なおアレはスライムじゃなくて、作中ではスーラと呼ばれているそうな。
 あんな目も鼻も口もない、ぷよぷよしたゼリーの塊みたいなのが主役?
 世の中にはヘンテコな小説があるものだと、わたしは「へー」

「へ~、じゃない。しっかりしな、ミユウ。はやく追いかけないと完全に見失ってしまうよ」

 一枝さんに言われて、わたしはハッ!
 あわててその姿を目で追えば、スーラはにょろにょろと柱に巻きついては、二階へと向かっているところであった。

「おのれ、逃がすか!」
「あっちに階段があるぞ!」

 してやられたカクさんとジンさんは、すっかりイキリ立っており、さっさと行ってしまった。
 一枝さんも「チチチ」と肩から飛び立ち、逃げたスーラを追跡する。
 わたしもみんなのあとを追う。
 でも、あわてて角を曲がろうとしたところで――

「きゃっ」
「おっと」

 誰かとぶつかってしまった。
 相手は男の人だったらしくって、わたしは尻もちを………………あれ、ついていない!?
 倒れる寸前に、ひょいとのびてきた腕に抱えられて無事であった。
 わたしを助けてくれたのは、垂れ柳みたいな痩せノッポのちょんまげ男!


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