下出部町内漫遊記

月芝

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082 失せ物探し

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 書架の間を抜けた先にて、角を曲がったらところでサムライと遭遇する。

「ご、ごめんなさい。ちょっと急いでいたもので」

 どぎまぎ、ペコリと頭をさげたら相手は「いえ、こちらこそすまなかったねえ。探し物をしていたせいでよそ見をしていたものだから。大丈夫だった? 痛いところとかないかい?」と逆に心配されてしまった。
 わたしはちらりと相手を盗み見る。

 青白いキツネ顔、ひょろ長のっぽの青年だ。
 よく言えばスラリとしている。悪くいえばちょっと線が細くて頼りなさげかも。歳の頃は大学生ぐらいかしらん。
 頭には髷(まげ)を結っており、地味な藍染の小袖に雪駄をはいた姿をしている。
 たぶん武士だ。第二の試練の儀で駆け回った『下出部映画村』で似たようなの格好の人をちらほら見かけたもので、わたしはすぐにわかった。
 でも……腰にあるべき刀の姿ないことが、ちょっと引っかかった。
 まぁ、それはさておき図書館にはそぐわない人物である。
 すぐに私はピンときた。

 ――あっ、この人もきっと物語の登場人物だ。

 服装からして歴史か時代小説の類だろう。
 あのスーラとかいうぷよぷよのことはジンさんたちにまかせて、わたしは目の前の青年から詳しい話を訊くことにした。

  〇

 のっぽな若侍の名前は九坂藤士郎(くさかとうしろう)というそうで、まだ若いけれどもいちおうは伯天流という流派の剣術道場の道場主なんだとか。

「もっとも門下生なんてひとりもいやしない貧乏道場だけどね」

 やや腰を曲げ照れ笑う表情からは、とても剣を生業としている風にはみえない。
 道場の師範代とか、強い人ってばもっとこう覇気があって威張っているというか、肩意地を張っているというか。いかにも強者のプレッシャーやら、達人然としたオーラとかが備わっていそうなものなのに、この青年からはそういったものが微塵も感じられない。
 わたしは内心、首を傾げつつも、藤士郎さんの実力うんぬんについてはいったん脇へと置いておき……

「ところで探し物って何ですか?」と訊ねたら、彼は「いやぁ、じつは愛用の小太刀をどこぞに置き忘れてしまってねえ」と頬をポリポリ。

 伯天流という流派は主に小太刀――刃長が二尺(約60センチ)前後の刀――を使うそう。
 だから藤士郎さんはふだんから大小の二本差しスタイルではなくて、小太刀を一本だけ腰に差しているそうな。
 剣は武士の魂。それを失くした。
 武士にあるまじき失態であろう。
 そのぐらいはわたしにもわかる。
 しかし当の青年は「いや~、まいったまいった」とのほほんとしているものだから、わたしは「なんだかな~」

(う~ん、カクさんが知ったらめちゃくちゃ怒って、説教とか始めちゃいそうだけど……)

 藤士郎さんは大事な小太刀を探しては、図書館内をうろちょろしている。
 ということは、それを見つけてあげたら、自分の世界――本の中へと戻ってくれるのではなかろうか。
 第六の試練の儀、文花より課されたのは『彼らを本の世界に戻すこと』である。でもその方法にはいっさい言及されていない。
 もしかして力づくでどうにかするのではなくて、本から飛び出した彼らの望みを叶えてあげることが正解なのでは?

 というわけで、わたしは藤士郎さんに協力して彼の小太刀をいっしょに探してあげることにしたのだけれども……

 ひとりよりふたりである。
 わたしと藤士郎さんは手分けをして小太刀を探す。
 が、どこにも落ちてない。
 あんなもの、その辺に転がっていたらすぐに気がつきそうなものなのに。
 念のために館内にある貸出カウンター脇の落とし物コーナーも覗いてみたのだけれども、あるのは、キーホルダーとかストラップとかボールペンに老眼鏡、それからなぜだか指輪と、あとこれは……何?

 手の平サイズ、プラスチック製で大きな枝豆みたいな形をしている。色は小豆色だけど。
 いじっていたらパカッとフタがあいて、内部があらわとなったところで、わたしは「あっ」
 わかった!
 これは腎臓だ。いや、より正しくは腎臓のパーツである、それも人体模型の。

「えっ、もしかしてジンさんの!?」

 ジンさんのふたつあるはずの腎臓パーツ、そのうちのひとつは現在遺失中である。
 たまたまの腎臓かぶり?
 いやいやいや、こんなシロモノ、そうそう落ちているはずがない。
 おおかたイタズラをした誰かが、処分に困って図書館の落とし物コーナーに放り込んだのだろう。
 よもやの巡り合わせである。

「どおりで小学校の中をいくら探したって見つからないわけだよ」

 というわけで、これは回収しておきあとでジンさんに渡してあげようとしたのだけれども、その時のことであった。

 頭上でパサリとはばたき音がしたもので、てっきりウグイスの一枝さんかとおもいきやさにあらず。
 なぜだか図書館内にカラスがいた。
 艶のある濡れ羽色にて尾っぽの羽根がピンと立っている。まだ若い個体だろう。
 舞い降りてきたカラスは「カァ」とひと鳴きしたとおもったら、足の爪でひょい。
 器用に腎臓のパーツを掴んでは、バサバサと飛んで行っちゃたもので、わたしは「なーっ!」

 ジンさんのモノとおぼしき腎臓パーツがカラスにさらわれちゃった!


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