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085 一冊目・狐侍こんこんちき
しおりを挟むわたしたちは一階フロアの中央寄りにある閲覧台のところで作戦を決行した。
この場所を選んだのは周囲から丸見えだから。
にしても……
「ごくり、本当に美味しそう」
包みを解いたとたんに、ふわっと。
えもいわれぬ香りが鼻孔をくすぐり、よだれがじゅるり。
とろみのついた飴色の醤油餡がからんだ白い団子は艶々していた。
う~ん、さすがは大妖をも虜にするだけのことはある。こんなの絶対に美味しいに決まってる!
するとさっそく効果があった。
パサリと羽音が聞こえてきた。
カラスは目が良いから、はや団子の存在をみつけたか。
な~んておもっていたら、舞い降りてきたのは黒いカラスではなくて緑のウグイスだった。
一枝さんである。
さっき見かけなかったとおもったら、ここでまさかの合流にて。
「ふぅ、あちこち飛び回ったせいでつかれちゃった。ちょうど甘いモノが欲しかったのよねえ」
なんぞと言っては「チチチ」と団子を勝手についばみ始めたものだから、わたしは「あきれた!」
しかしよほど美味しいのか、小鳥の身である一枝さんがあっという間に一本目をペロリと完食してしまったばかりか、さらにもう一本へとクチバシを向けたものだから、わたしはあわてて「これ以上はダメ!」と取り上げたところで――
バサバサバサッ。
大きな羽ばたき音が降ってきた。
同じ翼でもウグイスのものとはまるでちがう。
烏丸だ。しばらく物陰からこちらの様子をうかがっていたようだけど、一枝さんがパクパク食べちゃうからあせって出てきたらしい。
足のカギ爪にて掴んでいた腎臓のパーツをポイっと放り出しては、夢中になって団子をついばみ始めたところで、うしろから藤士郎さんが「ほいっ」と両手で包み込むようにして捕獲完了。
〇
結局、わたしは団子のお相伴にはあずかれなかった。ぐぬぬ。
だって一本貰おうと手をのばしたら、とたんに鳥丸が「ガァーッ」って威嚇してくるんだもの。そのくせ一枝さんには分け与えるのは、鳥同士の友情ゆえか。
五本あったみたらし団子は、すべて二羽の胃袋におさまった。
「けふっ」
満足気にげっぷする二羽。
わたしが恨めしげに見ていたら、「さてと烏丸、そろそろお暇しようか。帰りにもういちど茶屋に寄って団子を買わないといけないからねえ」と藤士郎さん。
彼がそう言うなり「カァ」と烏丸がひと鳴きしたとおもったら、ポンっと小太刀の姿になった。
「本当に付喪神だったんだ」
ぽかんとするわたしを横目に、藤士郎さんは小太刀を腰に差す。
不思議なことに、その立ち姿が妙にしっくり。
まるでパズルのピースが合わさるみたいにして、あるべき所にあるべき物が戻った。
わたしはそう感じた。
「お世話になりました。いろいろたいへんみたいだけど、どうか頑張ってください。ミユウ殿ならばきっと大丈夫ですよ」
そう言ってにこり、微笑んだ藤士郎さんの姿がにじんでぼやけたとおもったら、そのまま消えてしまい、あとに残されていたのは一冊の本。
タイトルは『狐侍こんこんちき』
表紙には藤士郎さんといっしょに、黒銀毛のトラ柄をしたでっぷりネコのイラストが描かれてある。
ふてぶてしい面構えだ。おそらくこれが銅鑼なのだろう。なるほど、いかにも食い意地が張ってそうである。
本の裏表紙のあらすじに目を通してみたら……
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
と、あった。
「へー、ちょっと面白そう。今度図書館で借りて読んでみようかな」
なにはともあれ、一冊目のミッションをクリア。
残るは二冊、さてジンさんたちの方はどうなっていることやら。
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