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086 タヌキ娘とクマ男
しおりを挟む青いスーラという珍妙な生物を追いかけているジンさんとカクさん。
ふたりと合流すべく、わたしが館内をうろちょろしていたところ……
突如として、言い知れぬ不安に襲われた。
あるいは虫のしらせとでも言おうか。
うなじの毛がゾゾゾと逆立つ。
直感? 第六感? よくはわからない。
けど……とにもかくにも、ものすご~くイヤな予感がしてしょうがない。
それは肩にとまっていた一枝さんも同じだったらしい。
わたしたちはおもわず顔を見合わせた。
「……ミユウ、あんたもかい?」
「うん、イチエさんも?」
だから一刻もはやくその場から離れようとしたのだけれども――
突如として聞こえたのは、誰かと誰かが言い争うような声と物音。
棚の向こうからだ。
図書館に似つかわしくない荒事にて、わたしはいぶかしむ。
と、次の瞬間のことであった。
ドンッ! ときて、ぐらり……
バサバサと頭の上から降ってきたのは本たち。
棚がこっちに傾いたせいで零れ落ちてきたのだ。
たとえページ数の少ない軽い本とて、背表紙の角に当たると痛いし、当たり所が悪いと怪我もする。
だからわたしはとっさに一枝さんを掴むと、懐に庇うようにしてしゃがみ込む。
そこへゆっくりと書架が倒れてきて………………ドスンときたもので、わたしは「きゃあーっ」
……
…………
………………
もうもうと垂れ込める埃が濃霧のよう。
一見するときれいな場所でも、細かな塵芥(ちりあくた)がけっこう溜まっているもの。
それらが棚が倒れたひょうしに一斉に舞い上がったがゆえの現象だ。
「げほげほげほ、うぅ~埃っぽい、ノドがイガイガする~」
涙目でぷつぷつ文句を言いながら、棚の下から這い出てきたのはわたしだ。
倒れたのはひとつではなくて、いくつもの棚がドミノ倒し。
でも、そのおかげで棚と棚の間にすき間ができたもので、どうにかつぶされずに助かった。
「イチエさん、大丈夫? ちゃんと生きてる?」
「……ははは、どうにかね。ミユウのおかげで助かったよ、ありがとう」
「うん。にしてもいったい何が? 地震……とかじゃないよねえ」
「だね。――って! あれをごらんよミユウ!」
一枝さんが「チチチ」とさえずり、クチバシを向けたのはドミノ倒しのスタート地点の方である。
そこにはふたりの人物の姿があった。
ひとりは制服姿の女子高生っぽいけどちんまいから、もしかしたら中学生なのかもしれない。
いまひとりは大柄な男性にて、まるでクマのようだ。
子どもと大人、あるいは小人と巨人。
それほどまでに体格差のあるふたり。
そんな男女が、なぜだか正面切ってドカドカと殴り合っていた。
拳と拳がガツンガツンとぶつかる音がする。
しかも信じられないことに、小さい女の子の方が大きいクマ男を押しているではないか!
「ウソでしょう、なにアレ?」
「ありえない……ということは、アレらも本から抜け出した連中か」
コンプライアンスなんぞ知ったこっちゃねえとばかりに、激しい応酬にわたしと一枝さんは目をぱちくり。
そうしたら聞こえてきたのが――
「狸是螺舞流武闘術、突の型、城門破り」という声。
気迫のこもった声にて、瞬間、ピリリと一帯の空気が張り詰めた。
とおもったらパン! 何かがはじけるような気配がして、「ぐわっ」
吹き飛ばされたのはクマ男である。
プロレスラーとか力士ほどもあるような巨漢が、わたしたちの頭上を越えていき、離れたところにドサッと落ちた。
「「はぁあぁぁぁぁーっ!?」」
あまりの光景にわたしたちは素っ頓狂な声をあげた。
するとそこへたったいま大男を吹っ飛ばした女子高生が近づいてきては、「巻き込んじゃったみたいだね、ごめんごめん」とテヘペロ。
彼女は洲本芽衣(すもとめい)と名乗り、へたり込んでいるわたしに手を差しのべながら「じつは、いま凶悪な逃亡犯を追っているの」と言った。
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