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087 逃亡犯
しおりを挟むいろいろとツッコミどころが満載な芽衣さんは、女子高生をしているかたわら探偵助手をしている。
そう自己紹介をされて、わたしは密かに「あー、お次は探偵モノのミステリー小説なのかしらん」とおもった。
「じつは、いま凶悪な逃亡犯を追っているの」
と言った芽衣さんがポケットから取り出したのは一枚の写真。
ちょっとクチャクチャになっている写真に映っていたのは、ひとりの男の人である。
漬け込んだオリーブの実の色をしたヨレヨレのジャケットを着た、草臥れた無精ひげのおっさんだ。
容姿だけで人を判断するのはよくないことだけど、いかにもだらしない生活をしており、タバコ臭そうでもある。
「名前は尾白四伯(おじろよんぱく)、この辺に潜伏しているはずなんだけど、あなたたち見かけなかった?」
冴えない見た目のわりには、インパクトのある名前であるが、見覚えのないわたしたちは首を横にフルフル。
にしても、おっかない話である。
クマ男をぶっ飛ばすような探偵助手が血眼になって追いかけるほどの犯罪者が、自分たちの周辺をうろついているだなんて……
「ねえ、このオジロって男、いったい何をやらかしたんだい?」
一枝さんが訊ねた。
するとキッと鋭い目つきとなった芽衣さんは「こいつは許されざる罪を犯した大悪党よ」と言った。
「まったく信じられない! ヨンパクおじさんってば、ひとが大切にとっておいた高級プリンを勝手に食べちゃうんだから!」
わたしと一枝さんはそろって「「んん?」」
あれ、気のせいかな? いま『プリン』とか『おじさん』って聞こえたような……
聞きまちがいかもしれないとおもって、わたしがもう一度訊ねたら、芽衣さんははっきり「そうよ」とフンスカ。
「一個千五百円もする、ホテルのプリンだったのに! テスト終わりのご褒美にと楽しみにしていたのに! ムッキーッ!」
一個千五百円のプリンか……
そんな品を勝手に食べられたら、そりゃあ怒るよね。
もしもお父さんが同じことをしたら、わたしだってツーンと無視して一週間は口を利かないだろう。
なんぞと納得しつつ、わたしと一枝さんはヒソヒソ。
「てっきり次は探偵モノかとおもったんだけど……」
「あぁ、探偵モノは探偵モノでも、本格ミステリーやハードボイルドとはほど遠い、ドタバタなコメディ作品っぽいね」
ちなみに尾白四伯と洲本芽衣との関係は、たんなる探偵と助手なだけでなく、その背景にはいろいろとややこしい事情もあるというが、今回はざっくり割愛するとして。
この状況下、わたしたちのするべきことは探偵の助手の助手として働き、逃亡犯の確保に協力することである。
まかりまちがっても、芽衣さんを本の世界に強制送還するとかではない。
というか、絶対にムリだから!
それからさっき芽衣さんにぶっ飛ばされたクマ男の姿はすでにない。
彼もまた本の登場人物らしく、倒されたひょうしに自分の世界に戻ったようだ。
かくしてお次のミッションは『逃げた尾白四伯を追え!』となった。
しかしこれはわりと楽勝かもしれない。
なぜなら現在、この大図書館のなかにいるのは関係者のみだから。
一般の来館者はいないのだ。
よって、見知らぬおっさんがうろついていたら、いやでも目立つ。
でも、そんなわたしの甘い考えはすぐに打ち砕かれた。
芽衣さんが四伯さんを探す際の注意点として、こんなことを口にしたから。
「おっと言い忘れるところだった。ヨンパクおじさんはダメダメなおっさんだけど、化け術だけはピカイチだから」
化け術――
それは動物たちが他の生き物やモノに化ける術のこと。
もとは擬態から派生進化したといわれている。
妖怪変化とはちがう。あくまで動物ベースの能力にて。
とどのつまり、芽衣さんも四伯さんも、さっきぶっ飛ばされたクマ男も、みんなみんな人間じゃなくって動物が化けたモノだったということ! なんてこったい!
ちなみに芽衣さんはタヌキなんだってさ。
でもクマを倒すタヌキって、いったい……
『ひとつの物語の主役だから。あんまり舐めてかからないほうがいい』
との文花の忠告、その意味がいまさらながら身に染みる。
藤士郎さんと烏丸と同じで、きっとこの探偵と助手もひと筋縄ではいかないだろう。
トホホ……
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