下出部町内漫遊記

月芝

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088 ダメな大人

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 逃げる探偵、追う助手。
 もめている原因は『プリンを盗み食いした』という、じつにしょうもないモノだった。
 それでも探偵の四伯さんが必死に逃げ回っているのは、助手の芽衣さんがちんまい女子高生の身にもかかわらず、拳法の達人にて「アチョーッ!」だから。
 自分よりもずっと大きなクマ男をぶっ飛ばすほどの猛者。
 そんな彼女からの鉄拳制裁をイヤがっての緊急回避……みたいな。
 まぁ、気持ちはわからなくもない。
 もしもわたしが四伯さんでも、きっと同じように逃げ出していただろう。

 だが、これもまた第六の試練の儀の一環にて。
 同情はするけれども容赦はできない。
 というわけで……

「とりあえずヨンパクさんってどういう人なの? あー、動物が化けているからヒトじゃないのか。なんだかややこしいな。だったら何の動物なの?
 えっ、よくわからない珍妙な生き物?
 一説によると地球外生命体の可能性もある? んんん?」

 逃亡犯の容姿は写真からわかるけど、どういう人物なのか、趣向や考え方などを知っているとより追跡しやすいだろう。
 と考えての質問であったが、芽衣さんからは予想の斜め上を突き抜けるような回答があったもので、わたしと一枝さんは不思議がるばかり。

 なんでも動物の時の姿は、タヌキのようであり、イヌのようでもあり、ありゃりゃネコかもと首をかしげ、尻尾は畑から抜きたてのゴボウの根みたいだし、毛はくすんだ黒の縮れ毛にて、尻尾と四肢の先が白くて、これが縁起がいいだの悪いだのと、とにかくわけがわからない。「ヨンパクおじさんって何なの?」と訊いたところで、当人も「さぁ」ってなもんだからどうしようもない。
 ちゃんと調べたらしいのだが、遺伝子的にも該当する生物がいなくって、専門家も「みょうちきりんなやっちゃなぁ」と首をひねるばかりなんだとか。

 なお人柄については……
 探偵業はまじめにこなしているものの、プライベートはすこぶるだらしがない。「どこかにオレをデレデレに甘やかしてくれる、おっぱいと包容力のある未亡人はいないものか」と真顔でつぶやくほどに、残念な大人だ。
 ヘビースモーカーにて過度の喫煙や飲酒、不規則な食事、睡眠不足などなど。
 不摂生が服を着て歩いているような人物。ちょっと走っただけですぐに息切れするし、腰痛持ちでもある。腕っぷしも頼りにならない。素手のケンカだと、ちょっとガタイのいい小学生相手でも負けるかも。
 はっきり言って最弱である、てんで話にならない。
 かつて芽衣さんの拳法の師である祖母に弟子入りしたこともあったが、「あきれた! こんなダメダメなヤツがいるだなんて」と即行で破門された経歴を持つ。
 ただし、化け術だけは天下一品にて、たいていのモノに化けられる。
 それを活かした何でもアリの戦いならば最強かもしれないけど、とにかく当人にやる気がない。

 芽衣さんの口からつらつらと語られる尾白四伯の人物像。
 聞けば聞くほどにわけがわからなくなっていく。
 あと途中から、たんなる愚痴になっていたような気がしなくもない。

「……とりあえず、ダメな大人だということだけはわかったけど」
「はぁ~、ハードボイルド系の渋い探偵じゃないことだけは、あたいにもわかったよ」

 とにもかくにも芽衣さんから得た情報を元にして、四伯さんの行方を追いたいところなのだが……わたしは自分の周囲をちらっとしては、しかめっ面となる。

「ヨンパクさんって化けるのが得意なんだよね? 本に化けて棚にまぎれこまれたら絶対に見つからないとおもう」

 木を隠すならば森のなか、そしてここは膨大な蔵書数を誇る大図書館である。
 もしも自分が化け術を使えたら、わたしだってきっとそうする。
 だってそれが一番簡単だもの。

「まさか一冊ずつ全部、調べるわけにもいかないし」
「せめて見分けがつけばいいんだけど」
「……それはムリね。ヨンパクおじさんってば、そっくりに化けるだけじゃなくて、化けた対象の能力もコピーするから」

 クルマやバイクに化けたらギューンと走るし、ヘリコプターになれば空も飛べる。鉄板や鉄柱になれば重く固くなる。生き物には化けられないけれども、無機物だったらなんでもござれ。
 だから本に化けたらちゃんと読めちゃう。
 ゆえに本物と偽物との見分けがつかない。
 さすがに火とかつけたら「あっちぃ!」と正体をあらわすだろうけど、館内は火気厳禁にて。

 芽衣さんとわたしと一枝さんで「さて、どう探したものかしらん」と相談しながら、館内をブラブラしていた時のことである。

 わたしは本館奥へと続く通路に設置されている案内パネルを目にして、「あっ」とおもわず声をあげた。

「そっか。ヨンパクさんってばヘビースモーカーなんだよね? だったら……」

 一枝さんもパネルに気がつき「あぁ、なるほどね。そういうことかい」と察する。
 わけがわからずきょとんとしている芽衣さんに、わたしは言った。

「喫煙室に行ってみよう」

 案内パネルは離れにある喫煙室の場所を示すモノであった。


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