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097 十円玉の世界
しおりを挟む下出部町一丁目にまでやってきた。
小高い丘の上へと続く石段をわたしたちは見上げている。
ついにここまできた。これをのぼれば咲耶神社がある。
これまで本当にたいへんだったと、わたしはしみじみ。
交通事故に遭って卒業式をドタキャンするハメになったかとおもったら、突如としてわけのわからない状況に放り込まれて、咲耶神社の佳乃さまの代理人に選ばれて試練の儀に挑むことになった。
第一の試練の儀『学校迷宮』での迷宮攻略。
第二の試練の儀『下出部映画村』でのケイドロ遊び。
第三の試練の儀『ウエスタンストリート』でのサバイバルゲーム。
第四の試練の儀『古城山公園水上フェスタ』での足漕ぎボートレース。
第五の試練の儀『ブロックランド』での防衛戦。
第六の試練の儀『大図書館』でのお悩み相談?
クマネズミの千歌、ハチワレネコの尾白、カイケンの牙寿郎、マガモの阿蓮、ホンドタヌキの方谷、ヤコの文花。
試練の儀を執り仕切っていた彼ら彼女らは、みなクセが強くて、試練はどれもひと筋縄ではいかないものばかり。
それらをクリアしてここまで辿り着けたのは、ひとえに仲間たちの存在のおかげ。
ウグイス嬢の一枝さん。
人体模型のジンさん。
骨格標本のカクさん。
みんなの手助けがあったからこそである。
咲耶神社の神座を巡る七葉なる集団との争い――試練の儀もいよいよ最後のひとつを残すのみとなった。
わたしたちは互いの目を見てコクンとうなづくと、石段をのぼり始めた。
〇
石段の数は四十七。
半端な数だけど傾斜は緩やかにて、お年寄りや子どもでも上まで行くのにさして時間はかからない。中央には手すりも設置されてあるので安心だ。
一行が石段を半分ほどのぼった時のことである。
チャリン、チャリン、チャリン。
耳に聞こえたのは小銭が落ちる音。
ハッして見上げれば、ちょうど上からコロコロと十円玉が転がってくるのが目に入った。
十円玉はわたしの足もとまできたとおもったら、そこでクルクルと踊るようにして回る。それもすぐに勢いを失い、ぱたりと倒れた。
数字が下になるような形で停止した十円玉。
硬貨の反対側に刻まれてある絵柄は『平等院鳳凰堂』だ。
まだ行ったことはないけれども、京都にある歴史ある寺院ということぐらいは、わたしでも知っている。まぁ、それぐらい超有名だということ。
まぁ、それはさておき……
「どうしてこんなところに十円玉が?」
参拝客の落とし物であろうか。
それが何かのひょうしに転がってきたのか。
なんにせよ放っておくのもなんなので拾おうと、手をのばしたところ――
「!」
十円玉に指先が触れたとたんに、ズブリ。
わたしの指先が絵柄の中へとグイグイ吸い込まれていくではないか。
驚きあわてて手を引っこ抜こうとするも「ふんぎぃ~、ぬ、抜けない!」
ジタバタしているうちに、手首が呑まれ、肘までもが。
この時点でようやく異変に気がついたジンさんたちが、なんとか救出しようとするもまるでダメであった。
それどころかついには……
「きゃっ」
「わっ」
「うぬっ」
「なっ」
三人と一羽はまとめて十円玉の中へと取り込まれてしまった。
暗転と沈黙。
闇と無が満ちた空間。
落ちているのか昇っているのか。
手足をバタつかせても何も掴めない。すぐそばにいるはずの仲間たちの存在も感じられない。
とたんに恐怖に襲われてパニックを起こしかけたわたしであったが、その次の瞬間のことであった。
暗闇が払拭されて光の中にわたしはいた。
あまりのまぶしさに、とてもではないが目を開けていられない。
しばらく待って、ようやく目が慣れてきたところで、おそるおそるまぶたを開けたところで、まず最初に目に入ったのは水面である。さざ波ひとつない緑色の水鏡が空と周囲のモノを映している。これは池だ。
顔をあげたわたしは、ぽかん。
とたんに目に飛び込んできたのは、朱色の柱に白壁、瓦屋根の立派な建物。
大きな中央のお堂より、まるで両翼を広げるようにして南北に配置されてあるふたつの廓(くるわ)。
それは十円玉の表に刻まれてある姿とそっくりであった。
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