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105 選択
しおりを挟む池のほとりにて――
抹茶色をした水面に映っている自分の情けない顔を、わたしはしゃがんで眺めている。
第七の試練の儀を通じて知った真相に、少なからずショックを受けた。
なにが代理人だよ! 試されていたのは、わたし自身……
助けを求めてきた佳乃さまも、一枝さんも、ジンさんもカクさんも、勝負を挑んできた連中も、みんなで示し合わせてわたしをダマしていたの?
だとしたら壮大なドッキリにもほどがある! とんだピエロもいいところだ! 挙句の果てには「神座を継げ」とか意味がわかんない!
いきなり選択を突きつけられて、わたしの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
パニックになったわたしは、なだめようとする仲間たちの制止を振り切り、鳳凰堂中堂から飛び出した。
かといってここは碓氷の作った十円玉の世界だ。どこにも逃げられない。
外へと出たとたんに勢いはたちまちしぼむ。カッと燃え上がった怒りの炎はすぐに消えた。あとからやってきたのは悲しい気持ちだ。
あんまりにも悲しくて、寂しくて、気持ちがズンと沈む。
にじむ視界、手の甲でグシグシと乱雑に涙をぬぐう。
目元が赤く腫れちゃうかもしれないけれども、かまうもんか。
わたしはフラフラとお堂の前に広がる池のふちにまで来たところで、ペタンとへたり込んでしまった。
……
…………
………………
気づいたら背後に人の気配があった。
水面越しに確認すれば碓氷だ。
ふくれっ面にて無視していたら、ふっと人影が失せる。
替わりにあらわれたのは白いヘビ――これが碓氷の正体、彼はヘビの化身であったのだ。
「どうして正体を明かすの? わたしは最後の燭台の火を消してない。消さずに逃げた。だからそっちの勝ちのはずなのに」
負けたら正体をさらすのが試練の儀のルール。
するとシロヘビは「いいや」とかま首を振る。「決着はまだついていない。燭台はそのままお堂の中に置いてある。それよりもいくつか誤解があるようだから、それを先に訂正しておこうとおもってな」
まず大前提として……
今回の試練の儀において。
こと佳乃さまに関しては、一切の偽りはない。
彼女は何も知らずに本当に結界内へ幽閉されており、海夕が代理人としてがんばってくれていると思っている。
すべては八人の従者たちが勝手に行ったこと。そうなるように仕向けたのも、主導したのも碓氷だ。
しかし八人のうちでひとりだけが、最後までこのようなやり方に異を唱えていた。
それが一枝さんである。
あまりにもアンフェアにて理不尽すぎると、海夕の付き添い役として参加することを表明した。そうして海夕をサポートするかたわら、みんなが暴走してムチャをし海夕の身に危険が及ばないようにと、ずっと目を光らせていたのだ。
ジンさんとカクさんに至っては本当に何も知らされずに、一枝さんから請われての参戦であった。
あのふたり、じつは付喪神のなりかけ。
それを見込んでの助っ人要請であった。
「えーと、それってつまり……」
「やれやれ、にぶい娘だな。すくなくともおまえの仲間たちに関してはウソはないということだ。イチエも、ジンとカクとやらも、おまえのために懸命に働いていた。だから我らといっしょくたにしてやるな」
そう言ってシロヘビはニョロリとそっぽを向く。
なんだかわかりにくいけど、彼なりにダマしたお詫びがてら、わたしを励ましているっぽい。
にしたって、なんてわかりにくいんだろう。
――この男、じつはかなりめんどくさいヤツなのではなかろうか?
あまりのわかりにくさに、わたしはおもわず「プッ」と吹き出してしまった。
これにムッとする碓氷を横目に、わたしは「えーいっ」
勢いよく立ち上がっては、膝やお尻についた土ほこりを払い、スタスタとお堂の方へと向かう。やることはもちろん決まっている。
「……本当にいいのか?」
うしろからの声には、ふり返ることなく手をひらひらと振り「わかんない……でも、とりあえず一度、ヨシノさまとちゃんと話がしたいかな。助けてもらったお礼も言わなきゃね。どうするかはそれから決めさせてもらう」
お堂内へと戻ったわたしは、心配していた仲間たちに「ごめんね、もう大丈夫、落ち着いたから」と声をかけ、真っ直ぐに燭台の方へと近づいていった。
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