水色オオカミのルク

月芝

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12 魔女の家

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 魔女の家と言えば、もっとこう、おどろおどろしい姿を想像していた、野ウサギの兄弟。
 もしくは立派な館とか、頑強な石造りの塔、あるいは大きな木の上にある家とか。
 とにかくふしぎなモノに違いないと、かってに思い込んでいたものだから、あまりにも普通の小さな家の姿に、なんだかひょうし抜け。
 西の森の魔女の高名ぶりは、ここからいくつもの山を越えた彼らの故郷にも伝わるほど。
 そんな立派なお方が住んでいる風には、とても見えない。
 もしかしたら、自分たちは間違えてしまったのかもと、不安になって立ち尽くしてしまいました。

「せっかくここまで来たんだし、とりあえずドアをノックしてみようよ」

 弟のタピカにせかされて、家へと向かう兄のフィオ。後ろからルクと彼に背負われたセンバもついて行く。
 森の小道にかけられていた迷路の魔法もありますから、用心をしながら近寄りましたが、とくに何ごともなくドアの前へとたどり着きました。
 代表してフィオが、控えめにトントンと扉を叩きます。
 ですが返事がありません。
 もう一度叩いてみましたが、結果は同じ。
 野ウサギの兄弟は、よく聞こえる長い耳をピンと立てて、家の中の様子をうかがいましたが、物音ひとつ聞こえてきません。どうやら留守のよう。

「いないみたいだ。兄ちゃん、どうしよう。どっかに出かけちゃったのかな」
「わからない。とりあえず周辺をみなで手分けして探してみよう」

 野ウサギの兄弟は家の裏手の方を見に行きました。
 カラスのセンバはルクの背から降ろされ、玄関先で待機。
 ルクは畑の方へと向かいます。
 畑には小さな赤と黄色の実をつけた野菜? らしきモノがなっていました。
 鼻先を近づけて、クンクンとニオイをかいでみる。
 すると赤い野菜が「かってにとったら、おばあさんに怒られるよ」

「とらないよ。ちょっと近くで見てただけ。それよりも、おばあさんはどこに行ったの? ボクたち、お願いしたいことがあるんだけど」
「おばあさんなら、森に薬草を摘みにいったよ。そろそろ帰ってくると思うよ」

 ルクがたずねると黄色い野菜が教えてくれました。
 魔女の行方を知ったルク。野菜たちにお礼を言って、センバのいる玄関先へと戻りました。
 すでにフィオたちも戻っていたので、得た情報をさっそく彼らに伝えます。
 とりあえず遠出とかではなかったとわかって、ほっとひと安心する野ウサギの兄弟。

 しばらくはのんびりと待っていたのですが、これに早くも飽きたのがタピカ。
 かってに家の扉を開けようとしたので、あわててフィオが止めます。

「いいじゃないか、ちょっとぐらい。それに兄ちゃんだって魔女の家って、どんなのか気になるだろう?」
「それは、そうだけど……。ううん、やっぱりダメだよ。かってにお邪魔するだなんて。それに魔女を怒らしたら、花をわけてもらえなくなるかもしれないぞ」
「うーん、それもそうか。オレ、ティーのためならガマンする」

 兄のフィオは落ち着いて思慮深いのですが、弟のタピカは大きいのは体だけで中身はまだまだヤンチャ盛り。だからじっとしているのは少々苦手。でも大切な妹のためならばとがんばれる、いいお兄ちゃん。
 そんな二匹の微笑ましいやりとりを、見つめているルクとセンバ。

 やがてみんなの前に姿を現したのは、一人の黒髪の老婆。

「おや? お客さんかい」

 手には薬草が入ったカゴを持ち、服装は農婦のやぼったい格好。白い前掛けに白い頭巾をつけている。
 背中が少しだけ丸まっているものの、足取りはしっかりとしており、かくしゃくとして、こちらをみつめる瞳も髪と同じく黒だけど、目にはずいぶんと艶がある。
 その双眸を見たフィオ、思わず「きれいだ。まるで夜の宝石みたい」とポツリ。
 これを聞いた老婆、きょとんとした後に、くつくつ笑って肩をふるわせた。

「くくくくっ。やれやれ、まさかあの人と同じことを野ウサギの坊やに言われるとは……。長い生きするもんだねぇ。どれ、私に用事があるんだろう? とりあえず家の中にお入り」

 老婆が手をかざすと、玄関扉の前に光る魔法陣が浮かび上がり、にじんで消えた。
 どうやら用心のために、なにがしかの魔法がかけられてあったみたい。
 これを見たタピカ、丸いシッポの毛が逆立ちイガグリのようになって、顔は真っ青になりました。


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