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16 アイドクレーズの花
しおりを挟むフィオが部屋にこもったのを見届けた後。
エライザは自分の居室へと入り、ルクとタピカは暖炉のある居間にて、おもいおもいのところに腰を下ろしました。センバはあてがわれたカゴの中にての安静を魔女より命じられています。
三匹はとくに言葉を交わすこともなく、ただ黙って、じっと暖炉の炎を見つめていました。
火にくべられた薪(まき)が、ときおりパキっとはじける。
その音がやけに室内に響き、妙に耳に残りました。
「はっ!」ルクが気がついたとき、すでに窓からは、明るい朝の光が差し込んでいました。
どうやら三匹とも、いつの間にか寝入っていたようです。
ガバっと跳ね起きたルク。
フィオのこもった奥の部屋へと向かいます。
扉を開けるなり「うわっ!」と大きな声をあげた水色オオカミ。
そこには部屋の天井にまで届きそうなほどの、大きな大きな黄色い花が咲いていたからです。表面はツルツルに磨きこまれた大理石のよう。けれども、これは植物。生き物だけが持つ息吹。ふしぎとそれだけは、間違いないと感じられるのです。
命を持った石の花を前にして、おどろくばかりのルク。
ですがおどろいてばかりもいられません。
すぐに我に返って、友だちの姿を探します。
アイドクレーズの花の影に隠れるようにして倒れている野ウサギ。
あわてて彼に駆け寄ります。
「フィオ、フィオ」
友だちの名前を連呼するルク。
するとピクリと彼の鼻先が動くではありませんか!
「生きてる、生きてるよ、フィオが生きているよー」
うれしさのあまり茜色の瞳から、涙が溢れる水色オオカミ。
ポタポタと温かい涙の粒が顔に落ちて来て、「ううーん」と野ウサギのフィオが目を覚ます。
「あれ? 僕、どうして生きてるの?」
寝ぼけまなこのフィオに「生きてるよ、生きてるよ」と顔をこすりつけて喜ぶルク。
ちょうどそこへ騒ぎを聞きつけた、タピカとセンバも姿を現した。
部屋いっぱいもある大きな花と、永遠の別れを覚悟した兄の無事な姿を前にして、すっかり混乱しているタピカ。
腰がよくなったのか、ちょんちょんと軽やかな足取りのセンバ。ツバサをバサバサとして同じく「なんで! どうして!」と大混乱。おかげで黒い羽が何枚も抜けて、床を散らかしてしまいました。
そんなところに、おっとりと顔を出したのは魔女エライザ。
「ほぅ、こいつは見事な花を咲かせたもんだねえ」
感心しての納得顔の魔女は、事態がのみ込めずに、あたふたしている四匹に言いました。
「ほら、騒いでせっかくの雫がダメになったらどうするんだい。あとでいくらでも答えてやるから、とりあえず収穫するよ」
エライザが用意したガラスの小瓶に、慎重に花の雫をうつしとるフィオ。
とても大きな花だというのに、とれた雫は大人の小指ほどの小瓶一本分のみ。
これは世界に一つだけの、野ウサギの末妹ティーのためだけの万能薬。
「これでティーが助かる」
「やったね! 兄ちゃん」
野ウサギの兄弟が感極まって涙ぐんでいる。
旅の仲間であるルクとセンバも一緒になって喜んだ。
するとアイドクレーズの花は、みなが見ている前で、もう自分の役目を終えたとばかりに、色艶を失い、全身に細かいヒビが入ったかと思ったら、あっという間に粉々に砕けてしまいました。
後には少し黄色い砂が床一面に残るばかり。
それをホウキとチリトリで、ていねいに集めはじめる魔女。
「これは魔法の布のいい染料になるんだよ。さぁ、とっとと掃除をすませて朝食にしよう。お前たち、夕べは満足に食べていないから、お腹が減っているだろう?」
エライザに言われて、急に思い出したかのように、「くぅ」とタピカがお腹を鳴らしました。
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