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17 魔法の袋
しおりを挟む焼きたてのパンに温めなおした昨日のシチューの残り、ミルクにチーズ、見たことのない甘酸っぱい味のする緑色の果物。蜜を垂らした水。
魔女エライザが用意してくれた朝食を、もりもりと食べる四匹たち。
一晩中、頑張ったフィオはお腹がペコペコ。
夕べは悲しみのあまり、満足に食事がのどを通らなかったタピカもお腹がペコペコ。
センバやルクも同じ。
昨夜とは一転して、にぎやかで楽しい食卓。
ひと段落ついたところで、エライザは、みんなに「すまなかったね」と頭を下げ、事情を説明しはじめました。
アイドクレーズの種を開花させて、薬となる花の雫を収穫するのに、本当に必要だったのは、他者の命などではなくって、心の底から助けたいと相手を想う強い気持ち。
種に気持ちを込めるだけ。
言うのは簡単だが、これがじつはとてもムズかしい。
当人がどれだけ真剣に願っているつもりでも、心というものは、とっても不安定。
湖の水面のごとく、たえずさざ波、ゆらいで、波紋がおきる。
いくら集中していても、ちょっとしたことで気がそれる。気が迷う。気が散る。
その度ごとに、花の雫が得られるはずの薬の効果が、どんどんと薄まり失われていく。
だからこそ決死の覚悟をもって、一心不乱に開花の儀に挑ませるために、魔女はあえて、「命を捧げる必要がある」とのウソをついたのである。
詳しい事情を知った一同。
はじめのうちは、ダマされたと、ちょっと怒っていたタピカも、妹のティーを助ける薬のためだとわかって、すぐに機嫌をなおしました。
フィオはただただ感謝しかないと、なんどもお礼の言葉を口にして、ルクとセンバは友だちを失わずにすんだことを、ただただ喜び合いました。
「さて、おわびついでに帰りのことだが、帰りはこれを使うといい」
そう言ってエライザが取り出したのは、首から下げられるヒモのついた小さな袋。
「これは?」とフィオ。
「こいつは私が作った魔法の袋さ。小さな見ためだが、中にはこの見た目よりもずっと多くのモノがいれられるようになっている」
「この家みたいに?」
「そういうこと」
なんでも袋の内部が、ちょっとした広さとなっており、荷馬車一台分ぐらいのモノがすっぽりと入ってしまうんだとか。
それはたしかにスゴイ魔法の道具。だけどこれを帰り道に使う? 小首をかしげる四匹に魔女は言いました。
「なぁに、簡単な話だよ。こいつの中にフィオとタピカとセンバが入って、ルクが首からぶら下げて駆けて行くだけのことさ。なにせルクは水色オオカミの子だ。本気を出したら風のように速く走れるからね。その足ならばフィオたちの家まで、あっという間だろう」
すぐに帰れると聞いて野ウサギの兄弟は大喜び。
自分も友だちの役に立てるとわかって、ルクもシッポをぶんぶん。
センバも目出度いとカァカァ鳴いた。
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