水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
32 / 286

32 古城の姫君

しおりを挟む
 
 風のように駆け続けた水色オオカミの子どもルク。
 森を抜けて草原へと差しかかり、しばらくするとそこに人の手が入っているとおぼしき街道を見つけます。
 踏み固められた土、細長い二本の溝は馬車が通ったあと。地面の様子からして、多くの人たちが行き来しているみたい。
 とりあえず道なりに進んでいると、背後からやってくる何者かの気配を感じて、とっさにそばのしげみに身を隠しました。

 しげみの中から様子をうかがっていると、目の前を二頭だての荷馬車がゆっくりと通り過ぎていきます。
 荷台には収穫物が山と積まれてありましたが、乗っている人たちにはあまり元気がなくて、なんとなくイヤイヤ進んでいるかのよう。

 荷馬車の姿が完全に見えなくなってから、のそりと姿をあらわす水色オオカミ。
 彼らの暗い雰囲気がどうにも気になって、つかず離れずにて後をつけることにしました。

 街道沿いをひたすら進んだ荷馬車は、夕暮れ前に大きな城門があるところへと到着しました。高い壁の向こうには、さらに高いお城の尖塔らしきモノが見えています。
 荷馬車の一行は門の奥へと消えていきました。
 霧のオオカミのハクサから忠告されていたこともあって、ルクは隠れて遠目に眺めるだけにしておきます。
 本音を言えば、地の国の人間たちの街というものに、とても興味はあるのですが、ここからはなんとなくイヤな感じがします。ニオイもごちゃごちゃしており、あまり好きではありません。
 だからしばらく眺めた後、夜のうちに大きく迂回して通りすぎることにしました。

 都らしき場所をさけて、さらに進むと草原の先の湿地帯を経て、荒地へと景色が変わりました。
 草木の姿はほとんど見えなくなって、あるのは赤茶けひび割れた大地と転がる石ばかり。
 ときおり吹く風は乾いており、砂塵をまきあげて、空気がホコリっぽい。
 生き物にやさしくない、荒々しくも厳しい環境。
 けれども、ルクはここがキライではありません。
 さえぎるものがないので、風が自由に吹いている。
 夕暮れ時になれば、空と大地のすべてがオレンジ色に染まって、とってもきれい。
 なにより自分が思いっきり駆けられる。
 走るほどにドンドンと楽しい気分になってきたルク。
 思う存分にその足を動かすのでした。



 気にいったので、しばらく滞在することにして、心のおもむくままに走り回っていたルク。
 荒地の中にて、ポツンと立つ何かの姿を発見します。
 近寄ってみると、それは古いお城のよう。
 長年の雨風にてすっかり黒ずんでおり、痛々しい跡がそこかしこに残る。きっと激しい戦闘を経験しているのでしょう。
 バロニア王国の古代遺跡とは違う、くたびれ具合。
 かんぜんに廃墟のようにも見えるのですが……。

 スンスンと鼻先を動かすルク。
 風にのって、ほんのりとやわらかい香りがします。
 花の蜜の香りとも、果物の香りとも違う。
 よくわからないけれども、これはきっといいもの。

「なんだろう、とってもいいニオイがする」

 つられるかのように、フラフラと古城へと足を踏み入れた水色オオカミ。
 崩れかけた城門をぬけて、瓦礫(がれき)の散らばる前庭を通り、あちらこちらが欠けた石の階段をのぼり、扉のない開けっ放しのエントランスから城内へ。
 ところどころ天井が抜けた明るい廊下を進み、一階から二階へと通じる階段の踊り場までやってきたところで、ふいに上から声をかけられました。

「夕陽の色をした瞳に冬の晴れた空のような青い毛……、オオカミなのかしら? とってもキレイな子ね。でもここは危ないから、早くお帰り」

 見上げたルクの目に映ったのは、階段の上に立つ淡い黄色のロングドレスを着た若い女性。前髪にて目元が隠れているので顔はよくわかりませんが、立ち居振る舞いのはしばしに品があり、洗練されています。ひと目で高貴な出自とわかる人物。
 そんな人がどうしてこんなさびしい場所に、一人きりでいるのでしょうか?
 それに彼女が口にした「危ない」という言葉。
 気になってルクがたずねようとした矢先、周囲に満ちる圧倒的な何者かの気配。
 まるで空が落ちてきたかのよう。
 思わず全身の毛も逆立ち、シッポもピンとなる。
 水色オオカミがふり返ると、天井にあいた大穴から、その者の姿が垣間見えました。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

処理中です...