水色オオカミのルク

月芝

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35 グリフォンと生贄の姫

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 グリフォン。
 それは天空の覇者にして、ドラゴンとも渡り合うほどの強者。
 人間にとっては絶望にも等しい存在。
 古城にてその存在を確認したという騎士たちは、傷だらけの体を引きずって、どうにか都まで命からがら辿りついたという。
 性質は狂暴にして残忍。
 古城へと足を踏み入れた一団が、退治しようと勇敢にも立ち向かったのですが、あっという間に蹴散らされたとの報告を受けて、王城内はパニックにおちいりました。
 都から荒地までには距離があるとはいえ、それは人やウマの足でのこと。
 空を飛ぶグリフォンにしてみれば、ほんのひと息にて辿り着ける距離です。
 気まぐれにて、やってきたグリフォンに蹂躙(じゅうりん)される都の姿を想像して、みなふるえあがりました。

 ですがこの話には裏があるのです。
 古城にてのんびりと昼寝をしているグリフォンを騎士団の一行が見つけたのは事実。
 ですが、興味本位にて捕まえようとしたところ、逆にあっさりと返り討ちにあったのが、ほんとうのこと。
 勇敢に戦ったなんて、まっかなウソ。
 昼寝をじゃまされた寝起きのグリフォン。「うるさい」とほんの数度、ツバサを軽くはためかせた。たったそれだけで小さな竜巻が発生。
 その風におどろいて、あわてて逃げ帰る途中にて、転んだり、ウマから落下してケガをしただけのこと。
 名誉を重んじる騎士としては、かなりみっともない話。だからそれっぽく話を作ったのですが、それが大ごとへとなっていきます。

 国の危機を前にして、座して待ってはいられないと、騎士団長がありったけの兵を率いてグリフォン討伐に向かうことに。
 勇んだ貴族の若者らも自分の兵を連れて、こぞってこれに参加。
 かつてないほどの動員数。彼らにしてみれば数を頼みにした、お祭りさわぎのつもりだったのでしょう。
 ですが、そんな考えが甘かったことを、すぐに思い知ることになりました。

 荒地の古城へと押し寄せた二千ほどの軍勢。
 あっさりとグリフォンに打ち負かされました。
 かなり手加減をしてくれたらしくって、ケガ人だらけですが死者はでていません。
 ですがそれゆえにグリフォンの強さが際立つ結果となります。
 あまりにも圧倒的な存在。
 総力をあげた軍勢がなすすべもなかったとの報告を受けて、ルト王は顔面蒼白。
 サブリナ妃も、あせりを禁じられません。いまにも怒り狂ったグリフォンが飛んでくるかもしれない。このままでは国が滅びてしまいます。そうなっては自分の野心を叶えるどころの話ではないのですから。
 と、ここでふつうならばあきらめて逃げだすのでしょうが、彼女はちがいました。
 狡猾で奸智に長け、しぶとい性質がサブリナを助けます。
 自分の願いを叶え、なおかつ面倒事を回避し、邪魔者をも排除できる、妙案を閃いたのです。

「あなた……、こうなってはしかたありません。古城のグリフォンに生贄をさし出して、ゆるしを請いましょう」

 青い顔をして、ふるえるばかりのルト王の耳元でささやくサブリナ。

「いけにえ、しかし、いったい誰を」
「そうですわね。かの獣が満足するに足る貴人でないと、かえって相手の機嫌をそこねるかもしれません。となれば……」

 ティアかファラのどちらかを捧げるしかないと口にしたサブリナ妃。
 我が子をグリフォンの供物にする。
 恐ろしい提案を聞いて、いっそうふるえが止まらないルト王。だがそうするしか国を救う方法はないと諭されて、ついにはしぶしぶうなづくことに。
 そうなると、今度はどちらの姫を生贄に捧げるのかという問題になります。
 通常であれば国を継ぐべき長姫ではなくて、次姫が選ばれるはず。
 ですが、そうはなりません。
 さらなる一手もサブリナはちゃんと用意していました。

 わざわざ玉座の間にて、城内の主だった者たちを一同に集めます。
 その場にて生贄の話をティアとファラに告げるルト王とサブリナ妃。
 いきなり国を救うために命を投げ出せと言われても、毅然(きぜん)とした態度を崩さないティア。一方のファラは泣きじゃくるばかり。
 まだまだ幼い子どもが「イヤだ」と泣きじゃくる。
 ましてや、みんなからの愛情を一身に集めている美姫ファラのこと。「かわいそう」との同情が自然と起こり、おのずとティアの方が荒地にむかうべきだとの気運が高まる。
 これらはサブリナ妃が予想した通りの流れ。手にした扇子にて隠された口元が、しめしめとにやりと歪む。
 ティアは抗いませんでした。
 いいえ、抗えないことすらもサブリナ妃は計算に入れていたのです。
 なにせこの子には母親ゆずりの愛国心と、強い責任感が備わっているのがわかっていたのですから。
 国や民を守るためならば、きっと我が身をさし出すとの確信がサブリナ妃にはあったのです。
 一切をのみ込み、「わかりました。ではわたしが参りましょう」とティア姫は言いました。


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