水色オオカミのルク

月芝

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37 紫眼のミラ

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「あー、あー、こちらミラ。聞えますか、どうぞー」
「こちらコークス。首尾はどうなっている?」
「それがさぁ、ちょっといろいろあってねぇ。なんだか面白いことになりそう」
「ほぅ、話してみろ」

 ボルバ王国の城内奥、王族らが暮らす区画の片隅に隠れて、通信用の魔晶を手に、なにやらボソボソと話しているのは赤髪の女官。肉感的な美女にて、歩いていると男どもの視線を集めがちではあるが、そんな見た目ながらも仕事はできるらしくて、サブリナ王妃つきである。
 目の上のタンコブだった長姫のティアを首尾よく葬ってからは、目出度く第二から第一へと格上げを果たし、王妃の地位を得たサブリナ。権勢並び立つものなく、もはや彼女の野望を阻むものはいない。
 しかし気まぐれな性質にてカンシャク持ち。側に仕えるほうはとってもたいへん。
 彼女の不興をこうむって、多くの女官らが脱落していくなか、残った数少ない者の一人がミラ。
 いちおうは下位貴族の娘との身元にて王城に勤めていますが、その正体は白銀の魔女王の部下。
 主の命をうけて、わざわざこんな辺境の小国にまで潜入していたのです。
 ミラに言わせれば、本当の主人である魔女王レクトラムのわがままぶりに比べたら、サブリナのなんて、かわいい赤子同然。
 だからこそ、まんまと現在の地位を得られたのです。

 通信の魔晶にてミラが報告していたのは、現在のボルバ王国をとりまく状況。
 二年ほど前に国内の荒地の古城にグリフォンが住みつき、ひともんちゃくあってからは、表向きずっと平穏であったのですが、ここにきてある問題が持ち上がりました。
 それは長年の同盟関係にあるロガリア皇国との婚姻について。
 近隣に並ぶもののないほどの大国が、よりにもよってボルバ王国の姫をヨメに欲しいと言ってきた。お相手は皇族の第三王子。当人たっての希望らしくって、なんならムコに出してもいいとまで。
 小国としてはかつてないほどの縁組。もしもこの結婚話がまとまれば、ボルバ王国の未来は安泰です。
 ですがその姫というのが、じつは生贄としてグリフォンに捧げてしまったティア姫だったから、困りました。
 世間体や対外的なこともあって、長姫を生贄に捧げたことは、秘密にしていたのがここにきて裏目にでました。
 こんなことならば、とっとと病死扱いにでもしておけばよかったと、王妃らが後悔するもすでに手遅れ。
 もしも我が身かわいさに愛娘をさし出したことがロガリア皇国に知られたら、どうなることやら。国民たちの反発もムシはできません。

 そんな最中に一つだけ朗報もありました。
 とっくにグリフォンに食べられたと思っていたティアが、じつは生きていることがわかったのです。
 グリフォンの背にまたがって空を飛んでいるところを、たまたま旅の商隊が目撃したとのこと。
 とはいえ一度差し出したモノを返せとは言えません。しかも相手はあの怖ろしいグリフォン。
 どうしたものかと頭を抱えるルト王と側近たち。
 国の首脳陣は対応を協議して、連日会議室につめていますが、いい案が浮かびません。
 おかげでサブリナ王妃も、ここのところずっとピリピリしています。

「……と、まぁ、こんなわけで。ちょうどいいからコレを利用しようかと」

 ごにょごにょとよからぬ計画を説明するミラ。
 話を聞いたコークス、通信の魔晶の向こうで、うなづく。

「ふむ。それでレクトラムさまの望みの品は手に入るのだな」
「たぶんね。せいぜいお膳立てはしてやるさ。バカどもが首尾よく姫を取り戻すのならばそれもよし、ダメならアタシがバレないようにこっそり殺るさ。いい感じの仲になってるみたいだし、失ったらヤツもさぞや落ち込むだろうから。あとはレクトラムさまにおまかせってね」
「よかろう。ではその手ハズで。こちらも準備を整えておく。すべては白銀の魔女王さまのために」
「白銀の魔女王さまのために」

 通信を終えたミラが物陰から姿をあらわすと、ちょうど向こうから足早やに近づいてくる仕事仲間の女官の姿が見えました。

「あっ! いたいた。探したのよ、ミラ。お願い、またサブリナさまがお冠なのよ」

 手を合わせて拝む同僚に「わかったわ、すぐに行く」と王妃の部屋へと向かうミラ。
 機嫌を損ねると、他の誰もなだめることがデキないサブリナ王妃。ふしぎとミラが顔を見せると落ち着きを取り戻す。
 だからみな彼女を頼りにしているのですが……。

 一人、サブリナ王妃の居室へと向かうミラ。
 その瞳が淡い紫を帯びて妖しくかがやく。

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