水色オオカミのルク

月芝

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75 フェルナ族

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 デュカ族から風の儀を申しこまれたフェルナ族。
 勝負を受けるかどうかを相談するために、いったん話を持ち帰ったのですが……。

「何を悩むことがある! 勝負を挑まれて、おめおめと引き下がれるか」
「そうだ。個人を名指しした場合とちがって、これはフェルナ族に挑まれたモノ。逃げたとあっては末代までの恥じだぞ」
「だが、誰が儀に応じるのだ? 相手はあのダイアスだぞ」
「それは……、若いのから選りすぐればよい」
「勝負うんぬんよりも、お嬢さまをモノのように扱うことが許せん」
「もしも負けたらどうするんだ。うちの跡目はお嬢さましかおらんのだぞ」
「なんだってヤツはあんなムチャな条件をつけるのだ?」
「おそらくは勝負を受けさせるために、わざわざ部族同士としたのであろう」
「こちらが断れないことを見越して、なんとこざかしい」
「ダイアスなにするものぞ。フェルナ族の誇りを見せつけてやるべきだ!」

 部族みんなで円座を組んでの話し合いはモメにモメました。
 ただでさえ族長不在にて、ぐらついているところに、ふってわいた難題。跡目問題とからんで、いろんな思惑がかさなり、どうにもまとまりません。
 相手に事情を説明して、頭を下げて、断るのは簡単です。
 ですがそれをしてしまえば、フェルナ族の結束に確実にヒビが入ります。それこそバラバラになりかねないほどの。
 また風の草原にて、これまで築いてきたすべても、瓦解してしまうことでしょう。
 影響力や求心力の低下はさけられません。
 黙ってみんなの意見に耳を傾けていたシルビア。
 おもむろに立ち上がりました。
 族長代理が発言するとあって、みな口を閉じます。

「このたびの風の儀には応じる。なおフェルナ族の代表は、希望者らを集い、競わせて決める。我こそはと参加を望むものは、明日の昼までに私のところに申し出よ。午後から選考会を行う。それから……、代表となり、見事ダイアスに勝利したあかつきには、私はその者をムコにとり、その者を次期族長補佐とすることを、ここに名言する」

 シルビアは、よく通る凛とした声にて、高らかに宣言しました。
 いっしゅんの沈黙の後に、「おぉー!」と歓声がおこり、わき立つみんな。
 勝利すれば、後の世にまで語り継がれるほどの最高の栄誉と、美しい姫、そして地位が手に入るとあって、がぜんヤル気を出しては色めき立つ若い衆。
 こうしてフェルナ族としての方針は決せられました。



 風の草原の西の川辺にて居留していたフェルナ族の群れ。
 少し下流へと言ったところにある、沢にて水面に浮かぶ月を、静かに見つめていたのはシルビア。雪のように白いその体が、月の光のドレスを身にまとい、より幻想的な美しさとなっています。
 そんな彼女の後方にて、じっと控えていたのは、灰色に近いくすんだ白毛の青年馬。

「ノットは……、明日の選考会には出てくれないの」

 ポツリとつぶやくようにこぼれた彼女の言葉。その声は族長代理のときの気を張った、凛々しいものとはちがって、ふつうの年頃の娘のもの。
 だけど、うしろにいた彼は答えようとはしない。
 静かに振り向いたシルビアから、真っ直ぐに見つめられて、思わず顔をそらしたノット。

「ぼくは、ぼくなんて……」

 それを聞いたシルビアは、キッとノットをにらみつけ、「あんたは、いっつもそう。どうして自分を、自分の足を、『必ず風になれる』という私の言葉を信じてくれないの?」
「それは、でも、ボクには、やっぱり」
「ほんとうに私がダイアスや、他の誰かのお嫁さんになってもいいの? ノットのバカっ! もう知らないっ!」

 怒って行ってしまったシルビアを見送るだけのノット。
 すぐにでも追いかけて、本心を伝えるべきなのに、その一歩が踏み出せない。
 そんな意気地なしの自分が、たまらなく嫌いなノットは、けっきょくうなだれることしかできませんでした。



 ……と、いったことが、あちらさんでも起こっていたと、水色オオカミのルクに語って聞かせたのは、小さなヘビのココムさん。
 デュカ族のダイアスとセレンの深夜の密会を、ともにのぞき見したルクとココム。
 ついでとばかりにフェルナ族が抱える事情も教えてくれました。

「えーと、ココムさん。それも例の情報網から?」
「そういうこと。ちなみにシルビアとノットも幼馴染みさ」
「ええーっ! だったらどっちもスキな相手とくっついたらいいのにー」
「だよなぁ。勝っても負けても女が泣くなんて、なんともやるせない。だがとりあえずはノットくんには、男の意地を見せてほしいところだね」
「あー、そっかー。たとえフェルナ族側が勝ったとしても、ちがうウマさんだと意味がないんだ」
「そういうこと。どのみちシルビア嬢が泣くことになる。それでもさ、たとえ負けるとわかっていても、ムダだとしても、スキな相手が自分のために必死にがんばってくれたっていう想い出があれば、まだ救われるかなぁ、なんて思っちゃうわけさ」

 しみじみとそんなことを口にするココムさん。
 微妙な色恋については、いまいちうといルクは、「うーん、そんなものなのかなぁ」
「そんなもんだよ。で、どうする?」
「どうするって、何を」
「自分は明日、とりあえずフェルナ族の選考会を見物するつもりだけど、ルクはどうする?」
「そうだねえ。ボクは……」


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