水色オオカミのルク

月芝

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74 デュカ族

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 風の草原の東にある大きな池のほとり、そこがデュカ族の現在の拠点。
 彼らは季節や草の生育などに合わせて、適度に拠点を移動しています。それにあまり一か所に長いこと留まっていると、それだけキケンが高まりますので。
 いかに周囲の見晴らしがいいとはいえ、つねに見張りをおこたらずに警戒しています。
 群れの中には女、子どもに年寄りもいます。いくらウマとはいえ足にも差はあります。
 ですから、よからぬことをたくらむ連中に、おそわれてはたいへん。
 だから居所が特定されないようにとの、生きるための知恵。

 ウマたちにかこまれている、水色オオカミのルク。
 みんな気さくにて、ふつうに話しかけてくれますので、気兼ねはいりません。
 とはいえ、フェルナ族がどう出るかわかるまでは、とくにすることもないので、久しぶりにのんべんだらりと過ごしていました。

 夜更けになり、すっかり静まりかえった池のほとり。
 何者かが動くかすかな物音にて、目を覚ましたルク。
 翡翠(ひすい)のオオカミのラナとの修行のおかげで、つねに無意識に周囲の気配を探るクセが染みついていたせいです。
 見れば、黒馬のダイアスと紺色の牝馬。二頭が連れだって群れより離れていくではありませんか。
 気になったルクは足音を殺して、こっそりとあとをつけました。



 群れのいる所より離れた池のほとりにて。
 夜空を見上げるダイアスに、スラリとした首すじの紺色の馬が話しかけています。

「ダイアス、あなた、本気でシルビアをお嫁さんにするつもりなの?」

 しばしの沈黙ののちに、短く「ああ」と答えるダイアス。どうやら先の風の儀についてのことのよう。でも彼の表情はどこか暗く、金の瞳にもいつものチカラ強さはありません。
 そんな声音や態度を見て、なにやら核心を持ったのか、紺色の馬は「とくにスキでもないのに?」と言葉を続けます。
 それにも「ああ」とうなずいたダイアス。「それでもだ。連中のあの様子をセレンも見ただろう? このままだとフェルナ族は遅かれ早かれ群れとしての形を失う。もしも、そうなったら……」
「そうなったら?」
「オレたちは速い。だがそれだけで生きていけるほど、世界は甘くない。群れが散りぢりになればどうなると思う。多くの同胞たちがきっと命をおとすか、人間どもの虜囚となってしまうだろう」
「ひょっとして、あなたは!」
「みなまで言わないでくれ。だけどこれはけっして別の群れの問題で済ましてはいけないことなんだ。一つの群れの崩壊は、数多の不幸の呼ぶ。いったん火がついたら最期、きっとすべてが焼き尽くされる。だからオレは」

 セレスを見つめながら、辛そうな表情をするダイアス。
 彼のそんな顔を見てしまっては、もう彼女は何も言えませんでした。
 しばし見つめ合った後に、黙ってその場を後にするダイアス。
 じきにセレスも群れのところへと戻っていきました。

 彼らがいなくなってから、付近のしげみよりひょっこりと顔を出したのは、水色オオカミのルク。
 と、小さな茶色のヘビのココムさん。
 気がついたら、いつの間にやら、足下にていっしょになってのぞいていました。

「ルクが風の儀に巻き込まれたってウワサを聞いて、ちょいと顔を出して見れば、こんな事情があったとはねえ」
「ウワサって、まだ半日ぐらいしかたってないのに、もうココムさんのところにまで届いていたの?」
「ふふん。小さき者をなめてもらっちゃあ、いけないよ」

 ちょっと得意気なココムさん。
 彼によれば、自分たちには彼らみたいに大地を駆ける足はない。チカラだってしれたもの。ひと踏みでペチャンコになってしまう。でもだからこそ情報をとても大事にする。
 いち早く危機を察知すること。それが彼らの速さ。
 ムシやヘビ、地を這う者たちで構成された情報網は、草原のすみずみにまで及んでいるんだとか。

「まぁ、ダイアスの心配もわからなくはないんだよ。実際、ここのところ人間どもの姿がちょろちょろしているからね」
「ウマたちを狙って、人間たちが草原に?」
「あぁ、なんでもトリたちの話によれば、風の草原のウマってのは、よそのと比べても頭ひとつふたつもとび抜けて優秀らしい。だから前々から時どき、ちょっかいを出してくる輩はいたんだよ」

 古きよき時代には、人間たちはいまのように強引な手段ではなくて、きちんとウマたちにあいさつをし、互いに気に入れば共に生きるという道もあったそうですが、それも絶えてひさしい。
 おそわれても群れでいれば助けられますが、一頭でいるところをおそわれては、ひとたまりもありません。
 そして一頭を奪うことに成功した人間たちは、味を占めて、きっとこぞって草原に現れるハズ。そうなることをダイアスは危惧していたようです。

「だからあえて自分が憎まれ役を引き受けて、群れをまとめようとダイアスは考えたんだろうな。これでフェルナ族の連中が一枚岩にまとまればよし、ダメならば本当にシルビアを嫁にとって、二つの群れを合わせて一つにしてしまう考えなんだろう。ホレてる幼馴染みをあきらめて、リーダーとしての道を選ぶとは、男だねぇ」とココム。
「ホレてる幼馴染み?」
「さっきの首のスラリとした姉さんだよ」

 どうやらダイアスとセレスは幼馴染みにして、憎からずお互いを想い合っている間柄のよう。
 ただの嫁とり競争なのかと思いきや、いろいろと複雑な背景が潜んでいました。
 ですがそれはなにもデュカ族だけの話ではないようです。
 そのへんの事情も、ココムさんから教えてもらうことになるルクなのです。


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