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80 風の儀、中盤!
しおりを挟む荒地から湿地へと入ったところで、さしものダイアスのペースも落ちました。
つかれたからではありません。他のウマたちよりも頭一つ以上もおおきな、その立派な体躯。全身が大地を駆けるためだけに鍛え上げられた筋肉。それにともなう重量ゆえに、ぬかるんだ地面では、どうしても足が沈みがち。
踏み込むチカラが強いほどに深くめり込み、一歩進むごとにドロがまとわりついてくる。
くっつき、ひっぱられ、すがりつかれて、それがドンドンとひどくなる一方。
毛も濡れて、いっそう体を重くする。
思うように進めないことにイラ立つ。ですがここで感情的にならないのがダイアス。この地帯では、しかたがないと割り切って、ムリをせずにできうるペースで歩み、ムダな消耗をおさえるように、体を動かしていく。
少し後方から追う格好となっているノット。
彼は足下の状態がかわるやいなや、歩幅をせまくして、小刻みな走りに切り替えました。
位置も、ダイアスの真後ろから外れて、ややななめ後ろを進みます。
全身のバネをつかい、四肢をのばして大きく駆ければ、それだけ速さがまし距離もかせげます。ですがソレは草原などで思い切り駆けるときのこと。
もしもこんなぬかるんだ場所で、同じことをしようものならば、たちまち足をとられて、体力をガリガリ削られて、身動きがとれなくなってしまいますから。
その点、動きをおさえ、小刻みにリズミカルにすることで、足が完全にドロに沈んでしまう前に、次へ次へと進められる。おかげで疲労は最小限ですみます。
なお位置をかえたのは、ダイアスが地面を耕した形となっている箇所を避けるため。ふつうならば踏み固められるはずの土が、ここでは掘り返されてかき回したような状態になっており、よりやわらかさをましています。うっかり足を踏み入れようものならば、ズブリと奥までいって、なかなか抜けなくなってしまうことを、ノットは警戒したのです。
スタート直後から、つかず離れずにて、ずっとダイアスに喰らいついているノット。
ちらりと後ろにいる対戦相手に目をやったダイアス。
湿地での走り方を熟知している、その様子を見て「ほぅ」と感心した声をこぼしました。
「やるな。だが、まだだ。もっとキサマのチカラを見せてもらうぞ。オレとともに風の草原の未来を担うにふさわしいのかどうかを」
誰にも聞こえないほどの小さなつぶやき。
ダイアスは再び前だけをみると、走りに集中する。
その視線の先には大池がすでに捉えられていました。
「いそげ、いそげ。思ったよりもずっとダイアスたちの足が速い。じきにここにも来る。ちんたらしてたら、バッタリなんてハメになるぞ」
ココムさんに急かされて、ぐったりのびている人間たちを、大池よりせっせと運びだしていたのは、水色オオカミのルク。
えりくびをくわえて、何度も大池と原っぱを往復するのは、とってもたいへん。いちどに運べるのはせいぜい二人ぐらいなので。
「そうはいっても数が多いんだよ。十人ぐらいっていってたのに、倍もいるだなんて聞いてないよー」
「文句をいってるヒマがあったら、せっせと働け。しかし面倒だな。いっそのこと丸ごと氷づけにして、池に沈めてしまおうか」
「それは、さすがにイヤかなぁ。でも氷づけかぁ……。そうだ! いいこと思いついた」
必要は発明の母。ピンチはチャンス。せっぱつまるとピコンと閃き。
ココムさんの言葉にヒントを得たルク。
大池から悪漢どもの放置場所となっている原っぱへと、氷の道を出現させました。
道にはゆるやかな傾斜がつけられてあります。
表面にうっすらと水をはって、スベリをよくしてから、のびてる男を氷で造ったソリっぽいヤツにのせて、「えいや!」と気合を込めて蹴飛ばせば、シャーと勢いよくすべっていきました。
狙い通りになって、「やったー」とルク。これにはココムさんも「すげー、ちょっとおもしろそう」
氷と傾斜を使った運搬方法。
これはかつて野ウサギの兄弟たちとやった犬ゾリと氷の橋、バロニア王国の地底湖から、ガァルディアさんの心臓を運び出したときの方法の応用です。
これによって、人間たちの運び出しがいっきにはかどりました。
おかげで、どうにか間に合ったルクたち。
なんとかダイアスとノットが大池に到着する前に、撤収することに成功。
「ふぃー、ちょっとあぶなかったねー」とルク。
しかし彼らにのんびりとしている時間はありません。
「ほら、次いくぞ。今度は東の方だ。そのあとは連中が逃げ帰った野営地にいって、最後のひと押し。それがすんだらすかさずゴール地点に引き返して、ダイアスとノットが戻るのを待たないと。なにせルクは見届け役だからな」
びっちりとつまった予定に、げんなりする水色オオカミの子ども。
せっかくの風の儀だというのに、裏方の仕事が忙しすぎて、ちっとも見物できないルクなのです。
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