水色オオカミのルク

月芝

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106 弓術大会八日目 義兄弟

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 なかなか姿を見せないリリアに、気をもんでいたヌートとクロフォード。
 開始直前になってようやくあらわれたので、ほっと胸をなでおろし、「あまりにも遅いから、なにかあったのかと心配したよ」とやさしい声をかけたのはクロフォード。
 ヌートは「てっきりオレさまにおそれをなして、逃げたのかとおもったぜ」とあいかわらずの素直じゃない態度。
 ですがそれはいつものことなので、リリアはとくに気にしません。

「いろいろあってね。それよりも、ヌート。あんた、ルシアーノって名前に心当たりある?」

 ルシアーノという名前が出たとたんに、ピクリと片眉を動かしたヌート。
 どうやら知っているみたいですが、浮かんだ渋面からして、いい印象を持っていないのは明白。

「ヤツか……。二番通りの奥のほうでわりと大きな店をかまえている男だが、あまりいい評判は聞かねえ。なにかと黒いうわさがつきまとっているんで、うちの母さんなんかも気をつけてはいるんだが、なかなかシッポをつかませやしねえ。でも、そんなヤツのことをどうしておまえが気にするんだ? まさかヤツが何か!」
「ちがうちがう。知り合いが質の悪い矢を売られたって、ボヤいていたから。ちょっと気になって」

 みょうに鋭い反応をみせるヌートに、あわててごまかすリリア。

「それにしても、あんた、そんなことまで知ってるなんて、すごいね。ベスおばさんに付いてしっかりと勉強しているんだ。さすがはライトテール商会の跡取りなだけはあるよ」

 急にリリアからほめられて、照れたヌートが「こんなのたいしたことない」とぶすっと顔をそらす。
 そのタイミングで二人の会話に混ざったのはクロフォード。

「なんと、きみはライトテール商会長の息子さんだったのか! きみのところの弦や矢は品質がいいんで、いつも利用させてもらっているよ」
「そいつは、どうも」

 客からそう言われて、しぶしぶちょっとだけ頭を下げたヌート。
 あまりよい態度ではありませんでしたが、クロフォード青年はまるで気にしません。

「ふむ。でもそんな大店の跡取りが、どうしてまた弓術大会なんかに?」
「どうしてって、それは弓が好きだから」
「おぉ! それでは私と同じではないか。私もよく周囲の連中から、『騎士ならばまずは剣か槍だろう』と言われたものだよ。でも私は弓矢を持って野山を駆け回るのが、子どもの頃から楽しくってね。そうか、そうか、キミもそうだったのかー」

 貴族と商家、少し立場は違えども、同じような境遇ながら弓を手に取った者。
 同好の士を得てよほどうれしかったのか、機嫌をよくした青年がさわやかな笑顔を浮かべて、バシバシとヌートの背中をたたく。
 はたから見ていると、まるで仲のよい兄貴分とその弟みたい。
 だからリリアが「よかったね、ヌート。いいお兄ちゃんができて」と茶化したら、すっかりその気になったクロフォード。

「おぉ、それはいい。よし、きみは今日から私のかわいい弟分だ。これからは私をお兄ちゃんとでもアニキとでも呼んで、えんりょなく頼るがよい」
「ええーっ!」
「はっはっはっ。私は末っ子でねえ。ずっと弟か妹が欲しいとおもっていたんだよ。あぁ、今日はなんていい日なんだろう。かわいい弟ができた。それも同じ趣味を持つだなんて、最高じゃないか。そうだ! なんならリリアくんもついでに妹になるかい?」

 いきなり風向きがあやしくなって、自分の方へも火の粉がふりかかってきた。それをリリアはさらりとかわす。

「いえ、あたいはえんりょしておきます。男同士の付き合いに女が首をつっこむなんてヤボなんで。その分、ヌートをどうぞ存分にかわいがってあげてください」
「おお、なんとつつしみ深い……。しかしそれもそうだな。わかった、では存分にヌートをかわいがるとしよう」
「ええ、どうぞ、よろしく」

 ていねいに頭を下げたリリアに、まかせておけと自分の胸をドンとたたいたクロフォード。
 あれよあれよという間に、かってに義兄弟っぽい関係にされてしまったヌート。まるでおどろいたハトのような表情を浮かべるばかり。
 なにせ相手は商売の上得意にして、高位の貴族。本気でよろこんでいるみたいだし、とてもイヤだなんて言いだせません。
 まんまと自分だけ逃げおおせたリリアを、キッとにらむヌート。
 これに、にへらと笑ってみせたリリアなのでした。

 そうこうしているうちに、馬射競技の開催を告げる鐘がリンゴンと打ち鳴らされました。


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