水色オオカミのルク

月芝

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115 噴火

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 弓の街は最初の地震と飛んできた燃える石のせいで、ひどいことになっていました。
 無事な建物なんて数えるほど。通りの石畳にはおおきな亀裂が走り、いくつも火の手があがっています。
 人々の悲鳴や苦痛、嘆きの声があふれる中を駆ける水色オオカミ。
 瓦礫を飛び越え、一目散に中心部の噴水へと向かいます。

 ルクが壊れてしまった噴水のところへとたどりつくのと、時を同じくして、火の山から赤い水が、のそりと姿をあらわし、山をくだりはじめました。
 ふれるモノすべてを焼き尽くす死の流れ。
 遠目にこそ、その歩みはとてもゆっくりに見えますが、けっしてそんなことはありません。もしも街に到達すれば、あっという間にまるごと呑み込んでしまうことでしょう。
 もはや一刻の猶予もありません。
 弓の街を、人々を、リリアを、彼女が大切にしている森を守るために、ルクは天に向かってチカラいっぱいに「ワォーン」と吠えました。
 御使いの勇者の呼びかけにこたえて、参じてくれたのは空に浮かぶ雲、それから街のずんと地下を流れる水、森の木々の中に潜む水の精。

 火の山が吐き出した粉塵と混じり合った雲が、黒い雨を降らせる。
 ですが赤い水を止めることはとてもかなわない。雨粒がふれたさきから、ジュッと音を立てて、消されてしまう。
 さらに水色オオカミのチカラをふるって、雨脚を強めるルク。
 やがて嵐のごとく横なぎの大粒の雨となるも、二千年もの長い間、ずっとチカラをたくわえてきた相手には、まるでかないません。
 勢いが衰えることなく、斜面を流れ続ける赤い水。
 ならばと次にルクが打った手は、かつて荒地の古城をおおったような氷の壁を造り出すこと。

『大切な何かを守りたい、その気持ちがお前のチカラとなる』

 師匠である翡翠(ひすい)のオオカミのラナに言われた言葉。
 その言葉を信じて、チカラを使い続けるルク。
 彼のその想いにこたえるかのように、噴水から水柱が立つ。それはここだけにはとどまらず、街中の井戸という井戸、すべての水場からも。
 それらの加勢を受けて、赤い水の正面に高く、厚い、氷の壁を出現させました。
 さしものマグマもこれにはいったん、動きを止める。
 しかし……。

「うぅっ、ダメだ。出したはしから、えぐられ、くいやぶられていく。それにふせいでも流れがちょっとよこにそれるだけ。きっと他の三つの街にも赤い水は向かっているハズ。このやり方だと、守れてもここだけ。でもそれだと、きっとダメなんだ。なら!」

 全身の毛を逆立て、腹の底からチカラをふりしぼり、さらなる水色オオカミのチカラを引き出そうとするルク。ですが、それは己の限界をはるかに超えた行為。そんなマネをしてタダですむはずがありません。
 歯を食いしばるあまり、口もとが切れてポタポタと血がしたたり落ち、夕陽のようにキレイな茜色の瞳は充血のあまり、沈む直前の太陽のように濃い赤とかわり、耳や鼻からも血がたれていました。
 大地にふんばる四肢はガクガクとふるえ、リキむあまり、足の爪は割れたり欠けたりして、そこからも血がにじんでいます。
 それでもかまわず彼はチカラを使い続けました。

「ボクが、ボクが、まもるん……だ。ボクが……」

 かつてないほどのチカラの行使。
 嵐を呼び、雨を降らせ、なおかつ氷の壁を築く。
 それも火の勢いがすさまじい山の近くにて。
 あまりにも負担がおおきすぎて、じきにルクの視界がぼやけはじめ、ついには意識を失ってしまいました。
 でも、それでもなお水色オオカミの子どもは立ち続けました。


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