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114 悪夢の始まり
しおりを挟む避難するために弓の街を発った商隊から消えたリリア。その姿を求めて駆けだした水色オオカミのルク。
森に入り、街へと近づくほどに、モウモウと煙をあげている火の山の姿が、いやでも視界の中で大きくなっていく。
首のうしろ辺りがちりちりして、全身をぞわぞわ。体のうえを細いヘビでも這いまわっているかのような感覚が強まっていき、胸の奥がキュッとしめつけられる。
予感がする。いや、もはやこれは確信なのでしょう。
だからこそルクはいっしょうけんめいに足を動かしました。
本気の水色オオカミは大地を風のように駆け抜けます。
だから探し人の姿をじきにとらえることに成功しました。
ちょうど街道から弓の街へと通じる門のところで、リリアの後ろ姿をみつけたルク。
人目も気にせずに「リリア!」と叫びました。
その声に立ち止まって、ふりかえった弓姫。目元が真っ赤になっている。きっと何度も泣いては、涙をぬぐうをくりかえしながら、ここまできたのでしょう。
彼女の中では、それだけ故郷に対する思い入れが強いということ。
それでもルクは言わねばなりません。
「ダメだよ、リリア。みんな心配しているよ。すぐにベスさんのところに戻ろう」
「……ごめん、ルク。あたいは、やっぱりお父さんの森を捨てられない。だからあの森と運命をともにする」
「そんな、そんなのいけないよ。フレイアさんも言ってたじゃないか。すべては生き残ってこそだって」
「それはわかっている。きっとフレイアさんが正しい。でもね、あたいはダメなんだ。ダメなんだよ。お母さんが死んで、お父さんも死んで、ひとりぼっちになって、それでもなんとかがんばれたのは、あの森があったから。あのお父さんの森があったから。だからあたいは家に戻るよ」
「リリアっ!」
少女の固い決意を前にして、なんとか説得を試みるルク。
街の出入り口にて話題の弓姫と水色オオカミの子どもが、言い合いをはじめて、何ごとかと、周囲には人だかりが出来ていました。
「ヘンな色のオオカミだな」「うん? あれはリリアじゃないのか」「おい! それよりもオオカミが人の言葉を話しているぞ」「森がどうとかって」「そういえば火の山が噴火するとかデマがながれてたな」「気持ちわるい」「ライトテール商会は全員避難したとか」「あれは棚おろしじゃなかったのか」
リリアとルクのやり取りを聞いた野次馬の中から、ざわざわとそんな声があがりはじめる。
そのときです! まるで地の底から巨人が槍の石突きで、ドンとうちつけたかのような震動が起こりました。
ついに始まってしまったのです。
そのしゅんかん、まるで世界中から音が一斉に消えてしまったかのように、ルクには思えました。
激しい揺れに、みんな立っていられません。
視界が上下左右にふられて、自分が立っているのか座っているのかすらもわかりません。
そんな中で、とっさに水色オオカミの子どもがとった行動は、リリアの服の袖をくわえて思いっきり引っ張ること。
少女とオオカミはもつれるようにして、転がり倒れました。
直後に崩れた正門。石で組まれたアーチ状の天井が歪み、形を維持できなくなって瓦解していく。ルクのおかげでリリアは助かりましたが、これにけっこうな数の人たちが巻き込まれてしまいました。
それだけではありません。街中のいたるところで、石造りの壁や建物が崩れ、門と同じような状況がそこかしこに。
ですがこれは悪夢の序章にすぎませんでした。
地震が来て、次に火の山の煙の色が、濃さが、高さが、これまでとは比べものにならないぐらいに膨れ上がり、空をおおい尽くしました。
昼間なのに急に暗くなった世界。
そんな中にあって、ただひとつ、煌々(こうこう)と赤く世界を照らしていたのは火の山。
人々は見ました。
火の山が、鉄を溶かしたような色の赤い水とともに、ゲホっとノドにつまった何かを吐き出す姿を。
それが何かはすぐにみんなが思い知ることになります。
大小さまざまな焼けた石が、街や森へと飛来。
屋根を貫き、壁をこわし、木々をへし折りなぎ倒す。
人も物もおかまいなしに、容赦なく破壊の雨が降り注ぐ。
それはルクたちとて例外ではありませんでした。
もしも彼が氷の壁で防がなければ、リリアをはじめ近くにいた多くの人たちにも、被害が及んでいたことでしょう。
「あぁ、ルク、どうしよう……、街が森が、みんなが……」
あまりの惨状を目の当たりにして、涙を流し、うろたえるばかりのリリア。
そんな彼女の横っ面をシッポでペチンと叩いたルク。「しっかりしろ」と叱咤しました。
「リリア! いいかい、よく聞いて。きみの大切な森はボクが必ず守るよ。だからきみはみんなをお願い」
「えっ! 守るってどうやって、ちょっと待って、ルク」
そう言うと駆け出した水色オオカミ。
彼が目指すのは街の中央付近にあった大きな噴水のところ。あそこは地下深くから水をくみあげていると、以前に街を見学したときに教えてもらったことを覚い出したのです。
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