水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
147 / 286

147 調査開始

しおりを挟む
 
「考えがあまかったみたい」
「あぁ、まさか連中があんなことを考えていただなんて。ある意味、生きてるうちにオレは知らなくてよかったよ」

 すっかりグッタリとしている様子のルク。
 すっかりげんなりとした調子のフランクさん。
 真なる言葉を武器に、水色オオカミは意気揚々と、さっそくウワサの出所の調査を開始。
 森の連中を通じて、村にいる連中にも渡りをつけてみたものの、かえってきた答えは、どれもこれもまるで役に立たないものばかりだったのです。

「村のこと? さぁ」とは小鳥さん。
「北の畑がそろそろ食べ頃かな」とはちがう色の小鳥さん。
「うわさって何? それっておいしいの」とはリスたち。
「村には近寄らないよ。毛皮になんてなりたくないからね」とはキツネさん。
「ダメダメ、見つかったら喰われちまうから」とはイノシシさん。
「あいつらオレたちを目の敵にするからな。いくなら人目のない夜中にこっそりだから」とはネズミさん。
「去年、うちのばあさんがやられた」とはウサギさん。
「連中、なんでも食うからおっかないんだよ」とはヘビさん。
「喰われるならまだしも、こっちは遊びで生きながらに足とか羽をむしられるからたまらんよ」とはムシ代表のキリギリスさんのお言葉。

 これらは森の動物たちから提供された情報から、ごく一部を抜き出したもの。
 辺境の人間たちはとってもたくましく、森の恵みはひとしく貴重な資源と考えているようで、ウサギどころか、ムシですらもモノによっては食べられちゃうんだとか。
 わざわざ倒木をひっくりかえしては、地中から幼虫たちをほじくりだすなんて、あんまりだとムシさんたちが泣いていました。
 森の民たちの意見をまとめると「村の連中は悪食」なんだそうです。

「フランクかい? ああよくおぼえているよ。あの子のフエやタテゴトは、そりゃあみごとだったからねえ」とは村でも古株のネコさん。
「ジルはいい人だよ。いっつもホネをくれるんだ」とは牧場にて番をしていたイヌさん
「ビグとマーサねえ。ごめんよ。ちょっとわからないね。なにせ人間なんてみんな同じ顔にみえるから」とはニワトリさんたち。
「オレたちは基本的に柵の中からでないから」とは草をむしゃむしゃ食べていたウシさん。
「ビグか。あのオヤジさん、息子が帰らないと知って、すっかりヤケになっていたよ。昼間から酒ビン片手にウロウロしている姿を何度も見たから」とはウマさん。
「たまには高地にはえてるやわらかい草がたべたいねえ」とはヤギさん。
「ウチは干したやつのほうがスキだよ。香りがちがうからねえ」とはヒツジさん。

 と、かんじんの村の方もこんな調子ばっかりで、あちこちにて話を聞くほどに、真相からますます遠ざかっている気がしていた水色オオカミの子ども。
 ですが、そんな中にあって一つだけ有益な情報がありました。
 それをもたらしてくれたのは、村の教会の鐘楼を根城にしていたカラスさん。

「人間についての情報かい? だったら村に一軒だけある酒場をのぞいてみな。あそこには村中の男たちが夜な夜な集まるから、きっと知りたいことがわかるだろうよ」

 長いこと村を留守にしていたせいで、すっかり酒場のことを忘れていたフランクさん。カラスの言葉に「あっ」と短い声をあげました。
 そんなわけでいったん隠れ家まで戻ってきたルクたち。
 しばらく休憩をしてから、日が暮れたらさっそく酒場にくり出してみることにします。



 陽が暮れて静まりかえる村の中にあって、にぎやかであったのが、村の中心部にある唯一の酒場の建物。
 鐘楼のカラスが言っていたように、ゾロゾロと男たちが建物の中へと入っていく。
 酒場は村の男たちの社交の場。女性たちにとっての井戸のそばや商店の軒先と同じ。ここで一日のウサを晴らし、ときにグチをこぼし、女子どもの前ではとても聞かせられないような話に興じたりしながら、盃を交わし、おおいに友好を深めるのです。

 酒場のある建物へと近づいた水色オオカミ。
 さすがに室内へと足を踏み入れることはかなわない。だから自身は建物の陰に身をひそめて聞き耳をたてるのみ。ですがこれだとあまり声が拾えないので、ちゃんと協力者たちを用意しておきました。
 その協力者たちとは、この村に住みついているネズミの一家。

「それじゃあ、たのんだよ。でもくれぐれもムリしないように」
「わかっているって。ドンとまかしといてよ。それよりもお礼の品を忘れないでね」
「それはもちろんだけど、ほんとうに氷の塊なんかでいいの?」
「いいっていいって、夏場に飲み水を確保するのって、けっこうたいへんなんだよ。それを気にしなくていいんだから。こんなにうれしいことはないもの。じゃあいってくるから」

 総勢十匹のネズミたちが、サッと散ったかとおもったら、あっという間にいなくなってしまいました。
 空を征くドラゴンやグリフォン、草原を駆けるウマや大地を風のごとく走る水色オオカミともちがった速さを持つネズミたち。
 しかも人里に住む彼らは森の野ネズミたちとはちがって、建物潜入の達人。
 姿を隠し、気配を消して、人間たちの会話を盗み聞きするのなんて、台所から食べ物をとってくるよりも、ずっと楽な仕事と、なんとも心強いお言葉。
 頼りになる援軍を得たルクとフランクさん。
 あとはいい情報がもたらされればいいのですけれども……。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...