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146 隠れ家
しおりを挟むウワサの出所を調べて、だれがフランクさんをヒドイ目にあわせたのかを突き止めることに決めたまではよかったのですけれども、いかんせんルクは水色オオカミ、そしてフランクさんにいたっては銀の髪飾り。「お忙しところ、ちょっとすみません」と村中をたずね歩くわけにもいきません。
ここは協力者が欲しいところですけれども、辺境の村にてそんな人物を得たところで、すぐに評判になってしまうことでしょう。
どうしたものかと悩んでいると、またもや足音が。
あわててまた身を潜めるルク。
しばらくすると廃屋の前に姿をあらわしたのは母親と二人の子連れ。ジルさんとその子どもたちです。
すき間から様子をのぞいていると、ジルさんは少しだけ立ち止まり廃屋を見つめた後に、子どもらに急かされてひっぱられて行きました。
なんとなくその表情が気になったルクは、こっそりとあとをつけることにしました。
村で唯一の小さな教会。
辺境ゆえに神官は常駐しておらず、小さな女神さまの木像が安置されているだけ。
裏手にある共同墓地のすみっこの方に、ひっそりとたたずむ二つのお墓。
その前にジルさんの姿がありました。
彼女がかがんでお墓のまわりの掃除をしていると、そこに小さな兄妹がかけよっていく。
二人の手にはつんだばかりのお花。これをお母さんにさしだす。
受け取ったジルさんは墓前にそなえて手をあわせる。それをマネするように幼子たちも手をあわせていました。
母子たちの姿がいなくなってから、トコトコと彼女たちが参っていた墓のところに近づいたルク。
墓石に刻まれた名前を見て、フランクさんが「おやじ、おふくろ……」とつぶやきました。
どうやらここが彼の亡くなった両親のお墓みたい。
でもちょっとヘンです。
なにがおかしいのかって、他のお墓たちは、みんな規則正しく並ぶようにしてあるというのに、この二つだけがその列からまるでのけものにされているかのように、ポツンと離れているんですもの。
「これか? たぶんさっきの男たちの話のせいだろう。ルクにはのんびりとした、いいところだって言ったけど、田舎にはこういう側面もあるんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、身内と認めた相手にはとことん甘いかわりに、いったん敵となったらもうダメさ。村をあげて排除される。それは死んだからとてかわらない。むしろすみっことはいえ、ちゃんと墓石が用意されているだけマシなほうさ」
生きているうちから、みんなからのけものにされて、死んでからもずっとのけものにされる。ちょっとヒドすぎると口をとがらしたルクに、フランクさんは「たしかにね。でもきびしい辺境ではしかたがないことさ。そうやって結束を固めないと、とてもやってはいけないから」と答えました。
その土地にはその土地ならではの事情があると言われては、よそ者のルクにはもう何も言い返せません。
彼らはしばらく墓前にて黙とうをささげてから、ここをあとにしました。
足を向けたのは廃屋ではありません。あそこはわりと人通りがあり、いつだれの目にとまるかわかりません。しばらく村に滞在するとなると、いまいち落ちつけない。
そこで向かったのは、村のはずれにある森の中を流れる小川のほとりに建つ水車のある粉ひき小屋。フランクさんの話では、いまの季節は使われることがないそうで、隠れ家にはぴったりとのこと。
ここを拠点にして、ルクたちはがんばることにしました。
「とはいえ、どうしたもんかなぁ」とはフランクさん。今朝のように物陰にひそんで情報を集めるしかなさそうですが、これってものすごくたいへんそう。あと運の要素が強すぎて、ちっともはかどらない気がします。
しかしルクは「ふふん」と得意気に鼻高々な表情。
「ボクもそう思っていたんだけどね。人間がダメなら他のみんなに聞けばいいだけだと思いついたんだよ」
「他のみんな?」
「村にいるウマとかウシとかヤギとかイヌとかネコとかニワトリとか、あとはこの近くに住んでいる動物やムシたちのことだよ」
自分には真なる言葉があって、地の国にいるすべての種族と会話をかわせることを説明すると、フランクさんは「水色オオカミってのはたいしたもんだね」と感心しておおよろこび。
これでいっきに調査もはかどるかとおもわれたのですけれども……。
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