水色オオカミのルク

月芝

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 城内の執務室にて。
 パラパラと手の中のレポートの束をめくっては、ざっと内容に目を通していたのは顔右半分の大半が眼帯で隠れている執事服姿の男性。白銀の魔女王の一番の側近であるコークス。
 彼の前にはこのレポートをまとめた、同じく側近であるミラの姿がありました。
 彼女はコークスの指示で、彼の分身体たちからもたらされる水色オオカミの子どもについての膨大な細切れの情報を、精査してまとめていたのです。
 ひさしぶりの事務仕事にて、ずっと机の前にかじりついていたミラ。「あー、つかれたぁ」と首をコキコキ鳴らす。

「と、これで頼まれた仕事はおわったんだから、約束どおりに転移の間を使わせてもらうよ」
「わかっている。ちゃんとレクトラムさまからは許可をいただいてあるから安心しろ」

 転移の間。
 それは色とりどりの十二枚の大きな鏡にて構成された十二角形の部屋。登録されてある十二か所へと、魔法にて直接出向くことが可能な設置式大型魔道具。
 たえず地の国の空の上をフラフラとしている、この浮き島から外部へと出かけるのに重宝しているけれども、いろいろと不便なことも多い。
 まず使用するには多大な魔力を消費する。そして外部とつながっているがゆえに、許可制にてきびしい使用制限が設けられている。
 使用したらしたで飛ぶ先が固定されているので、そこからさらに目的地へと移動する必要があり、帰りはまた別の手段を用いる必要がある。なにせ転移の間は一方通行につき。
 帰りには魔女王さまより支給されている帰還の金の腕輪をもちいればいいのだけれども、これまたけっこうな魔力を消費するし、ほんの数回でこわれてしまうものだから、その都度とりかえる必要がある。そして金の腕輪を造れるのも、管理しているのも、魔女王さまのみ。
 何かあるたびに、おそれながらと、こわいご主人さまの顔色をうかがう必要があるから、とっても心臓にわるい。
 以上のことから、便利だけれども不便な転移の間。
 その点、影を渡って空間を自由に行き来できるチカラを持つ、黒いまだらオオカミのガロンはとっても使い勝手のいい存在だったのですが……。

「そういえばガロンのヤツはどうなんだい? 竜の谷からもどったあとは、ずっと部屋でふせっているって聞いたけど。だいじょうぶなのかい」とミラ。
「あぁ、ケガの方はほとんど完治している。放っておくとすぐにムチャをするから、いい機会なので、すこしゆっくりするようにと言ってある」
「ふーん、そうかい。まぁ、こっちとしてもはやく元気になってもらわなくっちゃ、いろいろとやりにくくってしょうがないからねえ」
「おまえはガロンのチカラをあてにしすぎだ」
「だってしょうがないじゃないか。アタいにはコークスみたいなツバサがないんだから。かよわい女の身の上にて、殿方を頼るのなんてあたり前なんだよ」

 シレっとそんな言葉を口にする赤髪の美女。
 蠱惑(こわく)の紫の瞳にて数多の男どもを手玉にとり、魔女王さまの命じるままに西へ東へとおもむいては悪事をはたらく女怪。事実、真っ赤な大蛇の化身なのですけれども。
 眼帯のない左の目にて、じとっと自分を見つめるコークスの視線には気づかないふりをして、ミラは「アタいはこれからパイロルーサイトに行ってくるから」と言いました。
 パイロルーサイトは宝石の産地としてとても有名な国。
 無類の宝石好きのミラにすれば聖地みたいな場所。そこの市場がここのところやたらと活性化しており、いい品が出回っていると聞いて、のぞきに行くことにしたのです。
 めんどうな書類仕事を手伝っていたのも、すべてはこのため。
 こと宝石に関しては、とってもマジメな彼女。
 大蛇の姿でおしかけて、得意のカミナリ魔法でドカンと一発、欲しいモノをチカラづくで手に入れるなんてマネはしません。だってそんなことをしていたら、宝石業界がたちまち立ちゆかなくなってしまうから。
 だから、これまでためこんでいた金貨にて、きちんと購入します。

「じゃあ、行ってくるから」
「ああ、たのしんでくるといい。ただし通信の魔晶と帰還の腕輪は忘れずにもっていけよ」
「わかってるって、それじゃあねー」

 ふんふん鼻歌まじりにて、ごきげんで執務室を出て行ったミラ。
 パタンと扉が閉じられたところで、ふたたびレポートに視線をもどしたコークス。
 すぐにさきほどまでとはちがって、険しい表情となりました。

「かつて賢者と称えられた西の森の魔女、からくり王クラフトの残したというナゾの神像、グリフォンに聖剣の勇者、あげくにドラゴンまで……。なんなのだ、ヤツのこの引きの強さは」

 まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、水色オオカミの子どもは、行く先々で地の国の世界でも有数の存在との交流をかさねていく。
 ひょっとしたら自分の主人である白銀の魔女王レクトラムさまもまた、同じなのではなかろうかとの考えにいたったとき、コークスはおもわずぶるりと肩をふるわせました。

「あまりのんびりとしているわけにもいかぬか。ことが大きくなりすぎる前に片をつけるべきかもしれん」

 ひと通りレポートに目を通し終えたコークス。
 しばらく考え込んだのちに、彼はある箇所へとペン先にて丸い印をいれました。
 それは野うさぎの兄弟について書かれていたところでした。


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