水色オオカミのルク

月芝

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161 迷子の子ザル

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 ピーピーと泣く子ザルを前にして、とほうにくれていたのは水色オオカミのルク。
 天の国の御使いの勇者として、地の国にて旅を続けていた彼の耳に、ふと聞こえてきたのは、だれかの泣き声。
 けっこうな山奥にて、この辺りには人里にて煮炊きする煙もあがってはいません。
 狩りやら採掘や採集などを目的として、山へとわけ入ってくる人間たちもいますので、その類かしらと見に行ってみれば、川辺の岩の上で、かなしそうな声をあげていたのは金色っぽい茶色の毛をした小さなサル。
 しばらく近くのしげみの中からうかがっていたのですけれども、だれも迎えにくる様子がありません。
 このまま泣いていると、声を耳にしたお腹をすかせた何者かが寄ってこないともかぎりません。
 だからのそりと顔を出したところ、むちゃくちゃにおびえられました。
 まぁ、ルクは毛並みの色鮮やかさは別として、見た目はオオカミですから……。
 とはいえ、頭ではわかっていても地味にココロが傷つき、シッポがへにょんとなってしまいます。

「あのう、こんにちわ。ボクは水色オオカミのルク。よろしくね」
「ピー」
「えーと、こわがらなくていいんだよ。何もしないから」
「ピーピー」
「その……、どうしてこんなところにいるかな」
「ピーピーピー」
「お母さんとかお父さんはどうしたの?」
「びぃえぇーん」

 ルクが気をとりなおして話しかけてはみたものの、ごらんのとおり。
 しかもどうやらうっかりふれてはいけないところに、ふれてしまったようです。
 いっそうはげしく泣き出してしまい、ますます手がつけられません。
 なんとか機嫌をなおしてもらおうと、ルクが子ザルの周囲にてオロオロしていると、ふらりと近くの木の枝にとまった小鳥さんが言いました。

「あー、ダメダメ。そんなのじゃあ、子どもは泣きやみやしないよ」
「そうなの? じゃあ、どうすればいいの」
「そんなのかんたんさ」

 枝から水色オオカミの頭にちょこんと舞い降りた小鳥さん。ごにょごにょと耳打ち。もう何匹も子どもを育てているベテラン母さんにて、ルクに助言を与えると、そのままチチチと飛んでいってしまいました。

「さてと、では、コホン」

 気を取り直した水色オオカミが、ちっとも泣きやまない子ザルの正面に立つと、深く息を吸い込んでから、一気にこう言いました。

「いいかげんに泣きやまないと、頭からバリバリ喰っちまうぞ」

 牙をむきだしにして、鼻先や眉間にしわをよせ、ギロリと目をいからせては、グルルとオオカミからそんなことを言われた子ザル。
 とたんにピタリと泣きやみました。
 いえ、正しくはショックで気を失ってしまったのですけれども。
 コテっと倒れてしまった子ザルを前にして、「いけない! やりすぎちゃった」とルク。おおあわてすることになりました。



 子ザルが目を覚ましたとき、目の前には山のような森の果実がありました。その向こうにはキチンとお座りをしている水色オオカミの姿も。
 おもわずビクリとなる子ザルに、ルクはやさしく話しかけました。

「さっきはごめんね。小鳥のおっかさんの言うとおりにしたら、効きすぎちゃったみたいで。あらためまして、ボクは水色オオカミのルク。よろしくね」

 さきほどよりも落ちついているらしく、泣いてとり乱すことがなくて、ホッとするルク。
 まだオドオドとはしているものの、なんとかポツポツと口をききはじめてくれました。

「水色オオカミ? おいらの知ってるオオカミたちとは、ずいぶんと毛の色がちがう」
「うん。ボクは天の国生まれだからね。地の国のオオカミとはちがうんだよ。でもちがうのは色だけじゃないんだ。食べ物も水があれば平気だから、だからどうか安心して」
「……おいらをたべちゃわない?」
「食べない、食べない」
「ほんとうに?」
「うん」

 シッポをぶんぶんふりながら、ルクが女神さまに誓ってと口にすると、ようやく安堵の表情を浮かべた子ザル。
 そのとき「クルル」とかわいらしい音がしました。子ザルのお腹が鳴ったのです。
 とりあえず、まずは食事をとるようにうながします。
 よほどお腹が空いていたのか、子ザルは手当たり次第に果実を手に持っては、ガツガツと頬張りはじめました。
 聞けば丸二日ほどもろくに食事をとっていなかったんだとか。
 そりゃあ腹ペコで泣きたくもなるというもの。
 迷子の子ザルはナナカラという名前で、川辺にあった倒木の山にてみんなと遊んでいたところ、ふいにその山がくずれてしまい、そのまま倒木ごと流れに落ちてしまったんだとか。
 ちょうど雨上がりだったこともあり、水の勢いが強すぎて、必死につかまっているので精一杯。
 丸一日ほどそのまま流されて、ようやく流れがゆるやかなところに来たものの、ナナカラは泳げません。だから岸を眺めつつぼんやりとさらに一日が過ぎていき、ようやく浅瀬に流れついたところで、降りたはいいもののかなり下流にまできてしまい、まるで見覚えがない景色。
 お腹も減り、すっかりさみしくなって、かなしくなって泣き出してしまったそうです。
 まだまだ小さいのですからムリからぬこと。
 事情がわかったのでルクはナナカラに言いました。

「話はわかったよ。だったらボクがみんなのところに連れて行ってあげる」


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