水色オオカミのルク

月芝

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177 ゆきだおれの騎士

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 天の国の御使いの勇者として、地の国の旅を続けていた水色オオカミの子どもは、古い街道沿いを歩いていました。
 かなり昔に敷かれたとおぼしき石畳は、ところどころがめくれたり、くだけたりしてデコボコ。石のすき間から雑草がちょろちょろ生えていて、あまりヒトが通っていない様子。
 陽気もよく、ほどよく吹く風が心地よい。
 なんともおだやかな旅路。
 ここのところいろいろあったので、たまにはのんびりするのもわるくありません。
 それに冬のよく晴れた日の空のような毛色をした身としては、このさびれ具合はかえって他人の目を気にしなくていいのでありがたい。
 そんな風に考えていたら、いきなり向こうから荷をかついだウマが駆けてきたものですから、あわわててルクはわきへとよけました。
 ものすごい勢いにて、走り抜けていったウマ。あっという間に見えなくなってしまいました。足場がわるいのでヒヅメを痛めなければいいのですけれども。
 それにしてもこの先にて、なにごとか起こったのでしょうか?
 気になったルクは少し歩みをはやめました。
 しばらく進むと、道の真ん中にて大の字になって目を回している甲冑姿を発見。
 ボサボサ頭の黒髪の青年騎士がゆきだおれている。
 彼があのウマのご主人さまなのでしょう。何らかのひょうしにおどろいたウマにふり落とされたみたい。そして重たい鎧がアダとなって受け身もとれずに、ビタンと背中から地面にまともに叩きつけられ気絶したと。

 水色オオカミのチカラによって、びしゃりと顔に冷たい水をあびせられた騎士の青年が、おどろいてはね起きました。

「アイタタタ……うぅ、腰が。って、あれ? 僕はどうして……。そうだ! ウマがハチにおどろいて急にあばれだして、ふり落とされたんだった。どこのどなたか存知ませんが、ご親切にありがとうございました。おかげで助かりました」

 ていねいに頭を下げようとしてピキリと固まった青年。
 なにせ彼の目の前にいたのは、シッポをふさふさゆらしている水色オオカミでしたので。
 とっさに腰の剣に手をのばしたのは、日頃の鍛錬のたまもの。
 ですが、シャランと勇ましくぬいたはずの剣は、手からすっぽ抜けて、離れたところに落ちて、カランコロンとマヌケな音を立ててしまう。
 ウマから落っこちたことといい、剣を手放したことといい、なんとなくですけれども、この青年がどんな人物なのかがわかってしまったルク。

 ……しばし気まずい沈黙。

 とりあえず、いつまでも無言でにらめっこをしていてもはじまらないので、ルクは自己紹介をすませておくことに。

「えーと、ボクは水色オオカミのルク、よろしくね」
「それがしはコモンダリアのキャトル家に仕える騎士ライム。って、青いオオカミがしゃべった! あぁ、なんだ、そうか、これは夢なんだ。うん、きっとそうにちがいない。ははは、ウマから落ちたときにヘンなところでも打ったのかなあ」

 自分はまだ寝ぼけているようだと現実逃避をするライム青年。
 よろよろと立ち上がると、飛んでいった剣のところにまでいき、これを拾いあげて鞘におさめました。
 それからしばらく空を見上げたのちにスーハ―と深呼吸。
 ふたたびルクの方へと顔を向けながら、目元をゴシゴシこすったり、ほっぺたをむにゅっとツネり、ペチンと叩いたり。
 そうしていやがうえにも理解するしかない、目の前の不可解な現実に頭を抱えてしまいました。



 けっこうな時間を費やして、なんとか落ちつきをとりもどしたライムさん。
 ですけれども冷静になった分だけ、自身の現状を理解して呆然自失。
 なにせ旅先にて、おカネも食べ物もその他いろいろと積んでいたウマが、どっかにいってしまったのですから。
 残ったのは我が身と重たい鎧と剣ばかり。
 その剣もさっきの大暴投によって、ちょっと刃先が欠けてしまっています。

「どうしよう……、せっかくここまで来たってのに。いまさらもどっていたら間に合わない。いそがないと姫が」とライムさん。

 なにやら青年騎士には事情がありそうです。


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