水色オオカミのルク

月芝

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188 両雄と臥竜

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「あれは……、レオンさまとダレムさまじゃないか。よりにもよって、こんなところで鉢合わせをしたのか。なんてめいわくな」とライムさん。

 三つの窓口のうち、二つを占拠するような格好にて対峙している男たち。ともに腰のモノに手をかけて、いつでも抜ける態勢になっている。
 右端の窓口の前に陣取っていたのは、スラリとした銀髪の麗人。
 彼こそがレオン・アンビ。四大公家のひとつ、アンビ家の次男にして、ライムが仕えている家の姫君ナクア・キャトルの想い人。
 真ん中の窓口の前にいたのは、ガッチリとしてよく引き締まった体格の黒髪長身の青年。
 全身から自信がみなぎっており、威風堂々な彼こそがダレム・ドゥカ。四大公家のひとつ、ドゥカ家の三男にして、キャトル家の跡目を狙っている野心家。

 彼らがにらみ合っている詳細はわからないけれども、どうせ姫さま絡みにはちがいあるまい。
 きっと恋のさや当ての前哨戦。
 両名ともに国内外に広く知られた実力者。
 双方の間には張りつめた空気が漂っており、うっかりつついたら一気にはじけてしまいそう。
 大会前の大切な時期ゆえに、つまらぬ騒動にまきこまれたくない。もしくはいっそここで二人がつぶし合いでもしてくれたらとでも考えているのか、周囲の猛者たちはだれも介入する素振りを見せずに、高みの見物を決め込んでいる。
 相手は貴人ゆえに、どうにも声がかけづらいのか、役人たちもすっかり困り顔にてオロオロするばかり。

 上がモメると苦労するのはいつも下っ端ばかり。
 おかげで大会の受付業務がちっともはかどりやしない。
 これを見かねたライムさん。ひょこひょこと列から外れると、窓口をふさいていでいる二人に声をかけました。

「どうせ来週には剣を交えるんですから、こんなところでいがみ合ってもしようがないでしょう。それにつまらない騒動を起こして、もしもロンバルさまのお耳にでも届いたら、最悪、大会の出場資格を失うかもしれませんよ。レオンさまやダレムさまはそれでもよろしいのですか?」

 諭すのでもなく、諫めるのでもない。
 声を荒げることもなく、ごく自然に、想定されることを口にされて、先に態度を軟化させたのはレオン。

「……それもそうだな。どうやら大会を前にして、いささか気分がたかぶっていたようだ。すまなかった、みなにも迷惑をかけてしまったようだな」

 そう言って周囲に向けて頭を下げる。ひょうしに銀の髪がさらりとゆれた。
 謝罪の言葉がスラスラと口から流れ、腰を曲げる仕草もどこか絵になる麗人。まるで物語の中に登場する人のよう。
 対してダレムの方はチッと軽く舌打ち。「つまらん」とつぶやきそのまま立ち去ろうとしました。ですが途中でくるりとふりかえると、急に「貴公、名は?」と口にしました。
 彼の視線がまっすぐに向けられていたのは、仲介にはいった冴えない青年騎士。
 あわてて自分の名前と所属を伝えたライムさん。
 するとダレムはグッと目にチカラを込めてひとにらみしつつ「そうか」とだけ答えて、スタスタと行ってしまいました。

「なんだったんだろう」

 意味がわからず小首をかしげているライムに、レオンも軽く会釈をしたのちに役所をあとにする。
 こうして騒動も無事におさまり、いっきに受付業務が進むことになったのですけれども、その功労者であるライムさんは、途中で列を抜けたのでふたたび最後尾に並ぶはめに。
 マジメというか、要領がわるいというか。
 おかげで大会参加申し込みがすんだのは、はや陽が暮れかけたころ。

「なんとも損な性分だな」

 呆れともからかいともとれる剣聖さんの言葉に、ぽりぽりと頭をかいてみせたライムさん。
 いかにチカラを身につけたとはいえ、根本的な性格はそうそうかわるものではないようです。
 これにはちょっと安心した水色オオカミの子ども。
 だって少しばかり強くなったからって、とたんに勘違いをして態度がおおきくなるような友だちなんて、イヤなんですもの。


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