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187 武闘会の受付にて
しおりを挟む剣の丘の試練を見事に成しとげたライムさん。
逆さの塔の最下層にて聖剣をも一刀両断したところで、剣聖さんからほめられたまではよかったのですけれども、うながされるままに奥の一室へと足を進めたところで、彼とルクはとてもヒドイ目にあいました。
いきなり部屋の扉がピタリと閉まったかとおもえば、内部にドボドボ流れこんできたのは大量の水。あっという間に室内は水で埋め尽くされる。
水色オオカミのルクは水の中でもへっちゃらですけれども、いくら強くなったとはいえライムさんは生身の人間。さしもの剣豪も息ができなければ死んでしまいます。
だからあわてていると、急に水流がまきおこって、天井の穴へと吸い込まれてしまった一人と一頭。
縦穴の中をものすごい勢いにて、ずんずんと上へ上へと押し流されていく。
あまりにも強い水のチカラ。なすすべもありません。
そして気がついたときには、剣の丘の小島のあった湖の上空へと、高く打ちあげられておりました。
どうやらはげしい水柱にて、最下層から地上へズバンと放り出されたみたい。
ひさしぶりに見た太陽はとってもまぶしく、青い空は解放感をあたえてくれて、新鮮な空気に全身がよろこび、うちふるえる。
ですがそんな感動に浸っていられたのは、ほんのいっしゅんのこと。
なにせ上がったら下がるのが自然の摂理。
そのまま湖に叩きつけられるようにして落下。
水色オオカミと青年騎士は、そろってドボンとハデな水音を立てる。
じきにプカリとあお向けにて浮かび上がったライムとルク。
あまりの衝撃にて、呆然となり、しばらくは動くこともままなりませんでした。
そんなことがあったのも、はや十日ほど前のこと。
へっぽこ騎士あらため剣豪となったライムさん、彼の腰にあるボロ剣に宿る剣聖さん、水色オオカミのルク、一人と一霊と一頭? というかなり奇妙な一行の姿はコモンダリアの四大公家のひとつ、キャトル家が統治する領地にありました。
ウマの背にのり半月ほどもかかる距離を、まさか延々と走らされることになろうとは。
師匠はとってもきびしい。
日々これ修行、すべてが師であり学ぶべきことがあるとの基本方針なのだそうです。
ようは四六時中、昼夜を問わず、ずっと修行が続くということ。
剣聖への道はとってもけわしい。
でもまさかこの距離を十日ばかりで走破するとはおもいもよりませんでした。これには成し遂げた当人が一番おどろいています。しかも途中で隠しておいた先祖伝来の甲冑をしっかり確保し、これを着こんでいたのにもかかわらず。
どうやらかつてとは比べものにならないほどに、ライムさんの肉体は強化されているようです。
旅先からもどったライムさんは、その足にて、武闘会への参加申し込みへと向かいました。
同行している水色オオカミ、その毛の色は黒。
人里に降りるにあたって、ルクの冬のよく晴れた日のような空の青さは、いささか目立ちすぎる。そこで相談の上、一時的に人間用の毛染めにて色を変えることにしたのです。
ルクはもともと穏やかな顔立ち。雰囲気もほがらかにて、オオカミ特有のけわしさはあまりありません。
だからおとなしく青年騎士につき従っている姿をみれば、猟犬、もしくはイヌとオオカミのあいの子ぐらいにしか見えません。おかげでたいていのところには堂々とついていけそうです。
申し込み受付があるのはコモンダリア国内、西の領都の中央区にある役所の窓口。
この一帯はキャトル家のおヒザ元、武闘会もこの地にて開かれるのです。
役所の中から外にまで鈴なりにのびた列。武器を手にした屈強そうな男たちばかり。
これらすべてが大会への参加を申し込みにきた者たち。
みんな我こそはとの気迫にあふれた腕自慢の猛者。
そんな中に紛れこんだのは、鎧こそは立派ですが中身がいまいちな青年。
彼を見かけた大部分の者たちは、ちょっと小バカにしたような表情を浮かべるか、興味がなくしてすぐに視線を外すばかり。面子を重んじる誇り高い騎士ならば、怒りだしそうな失礼な態度すらもありましたが、それらをライムさんはさらりと受け流す。
へっぽこ騎士としてすごしてきた時間が長いせいか、そんなことにはすっかり慣れっこになっているみたい。
行列はなかなか進みません。
いかにお役所仕事とはいえ、参加申し込みだけなのに対応があまりにも遅すぎる。
おかげでみんなイライラ。なかなかの険悪さにて、周囲の空気が重苦しい。
その原因はようやく建物の中へと入れたところで判明しました。
三つ並んでいる窓口。そのうちの二つがふさがっていたのです。
前に陣取っているのは二人の人物。互いににらみ合っており、一触即発といった雰囲気です。
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