水色オオカミのルク

月芝

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269 遭難者

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 砂漠の遭難者の看病は夜通しつづきました。
 ずっと付きっきりで面倒をみていたルク。
 何度目かの口移しにて水をのませていたとき、彼女がうっすらと目を開けました。
 そしてたいそうおどろき、やわらかな琥珀色をした瞳を泳がせて狼狽する。
 もうダメだと砂漠に倒れて気を失い、目覚めてみればいきなり口づけをされているのですから。
 なんとか逃れようとするもカラダにはまるでチカラが入らず、言うことを聞いてくれない。
 と、ノドを伝う感覚にようやく気がついて、彼女は彼が自分に水を飲ませてくれていることを理解しました。
 ストンとココロにはまり込んだのは安堵感。
 とたんに疲労がどっと押し寄せて、ふたたび微睡むことに。
 浅い眠りと深い眠りをくり返すごとに回復を実感しつつ、自分を助けてくれた相手をぼんやりと見つめては、ふたたびまぶたを閉じる。
 ついには夢の中にまで登場するようになった、ふしぎな毛の色をしたオオカミの青年。
 黒まじりの茶色でゴワゴワ、ややくせっ毛のある自分とはちがって、とっても肌ざわりが良さそうな姿をしている。
 こんなオオカミ、見たことがない……。
 そんな彼の姿に、「きれいだなぁ」と感心しつつ、同時に気恥しすらもおぼえてしまう。そのせいか何やら胸のあたりがザワついて、どうにも落ちつかない。だけれどもイヤな感じじゃない。むしろココロが浮き立つような、なんともいえないフカフカした気分。
 毛の色といい、チカラといい、すごいけどヘンテコな奴。
 夢と現の狭間にて、彼女がそんなことを考えているうちにも、時間はゆっくりと過ぎてゆく。

 ルクが彼女の身柄を保護してから丸一昼夜がたち、カラダはともかく意識がしっかりと回復したオオカミの娘は、感謝の言葉を口にするとともに「クルセラ」と名乗りました。

「それにしたって、どうしてこんなところに一頭きりで」
「じつは……」

 ルクがたずねると、クルセラはおずおず事情を口にしはじめました。
 ここの砂漠は彼女の所属する群れを何代にもさかのぼったころからあって、ほんの数年まえまでは、オアシスが点在しており、緑もあって、いまほど過酷な場所ではなかったそうな。
 それが突如としてオアシスが次々と枯れ、緑も失われてしまい、まともな生き物たちはとても住めない状況に。
 こうなっては群れとしても移動するよりほかに存続の道はありません。
 とはいえ、故郷を捨てるのはかんたんなことではありませんでした。
 新天地を求めた先に待っているのは、はげしい抗争の日々。
 もとより快適な環境であればあるほどに、先住している者たちも奪われてはなるもかと、決死の抵抗を示す。そして戦いの矢面に立つ若者らから先に倒れていくことになり、結果として、たとえ居場所を獲得したところで、それを維持できずに、じきに奪い返されてしまう。
 修羅地獄の果てに、群れは衰退していく一方。
 これではあまりに不毛すぎる。
 また心情的にも故郷からは遠く離れがたく、女や子ども年寄りをつれての移動もきびしい。
 だから砂漠の外縁部にある密林周辺にて、ひっそりと暮らすようになったのですが、砂漠化はより深刻さをますばかり。
 これまでもジリジリと勢力を拡大していた砂たちが、ここにきてその進軍速度をあげており、その都度、群れは追われるように移動を余儀なくされている。
 いくら女神さまの慈悲を願い、奇跡が起こるのを待っていてもラチがあかない。
 そこでクルセラは砂漠化の原因を確かめるべきだと考えました。
 過去にも同じような考えにいたった者がおり、実際に砂漠へ調査隊をおくったこともあったのですが、ほとんどが過酷な道程のあまり逃げ帰るか、あるいは二度ともどってくることがなかった。
 いつしか群れにはあきらめムードが漂い、「これもまた運命」だなんぞと無条件に受け入れる風潮がはびこるように。
 だけれどもクルセラは、そんな現状をよしとはしませんでした。何度も長老方にかけ合い調査隊の派遣を要請する。しかしその要請が通ることはなく、ついにシビレをきらした彼女は単独にての砂の海の踏破に乗り出したというのです。
 でも途中で砂漠に生息する数少ない生き物の一つ、砂甲虫(さこうちゅう)の巣にうっかり足を踏み入れてしまい、命からがらなんとか逃げおおせたものの、ケガと疲労、暑さにやられてついにはチカラ尽きたという。

「なんて無茶なことを」

 クルセラの話しを聞き終えたルクの率直な感想がコレ。
 いかにやむにやまれぬ事情があるとはいえ、勇ましいを通り越して無謀な挑戦。単独で挑んだクルセラに、ルクはあきれるばかり。ついついジト目にもなろうというもの。
 そんな目で見つめられて、プイと顔をそらしたクルセラ。

「うぅ、わたしだってちょっとムリかなぁとはおもってたんだ。でもだれかが行かなければ、うちの群れに未来はないんだからしょうがないじゃないか」

 反省はしているものの、まだまだ懲りていない様子の彼女。
 想像以上にお転婆なお嬢さんみたいです。
 これにはルクも内心で「やれやれ」とタメ息をこぼすのでした。


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