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278 地底の建造物
しおりを挟むそれは巨大な門でした。
扉はありません。もとからないのか、悠久のうちに失われたのか。
ポッカリと口を開けているところを潜ると、奥は真っ暗。
ですがずっと向こうに光が見える。
どうやらトンネルのようになっているみたいです。
闇の中に六つの目が光る。
オオカミは夜目が利きます。その中でも特殊なチカラを宿す茜色の瞳を持つルクが先頭に立ち、クルセラを挟んで、最後尾にシュプーゲルが並ぶ。
一行は警戒をしつつ、奥へ奥へと。
エサとなる砂がないせいか、ここには砂甲虫(さこうちゅう)たちの気配もなく、静かなものです。
それでも油断することなく歩きつづけて、ようやくトンネルを抜けたとき、ルクたちの目に飛び込んできたのは、とてもおおきな建造物。
中央には天地をつなぐ塔のようなモノがそそり立っており、それを幾重にもとりかこみ、ドレスのすそのようにひるがえっているのは、表面が歪に波をうっている壁。
「これは……、人間たちのお城かな?」クルセラが首をかしげる。
「……のように見えるが。オレはあいにくと長老たちから伝え聞いた話でしか知らない。どうなんだ、ルク殿」
「うーん、たしかに似てるといえば似ているけれども」
ルクが言いよどんだのには理由があります。
パッと見にはたしかにそう見えなくもありません。
ですが、よくよく見れば塔も壁もすべてがつながっており、ひとつの巻物のよう。それをドンと地面に突き立て、一部がスルリとほどけてはだけたような姿。
人間たちや、ドラゴンたち、または白銀の魔女王のところなど、これまでの旅にていろんなお城を目にしてきたルク。
彼の中ではお城とは、かなり重要な意味と位置づけがされた建造物との認識。
なのに目の前のコレは、お城と呼ぶにはどこか乱雑がすぎる。
これでは見る者に威容ではなく異様さばかりを植えつけ、またお世辞にも防備が緻密に設計されているようにもおもえず、景観を重視しているともとても考えられない。
これらを踏まえてルクは「ちょっとちがうかも」との見解を示しました。
ともあれここまで来たのに、中に立ち入らないという選択はありません。
壁は高く、表面はのっぺりとしており、ルクならばともかく他の二頭はとても越えられそうもありません。
水色オオカミのチカラで氷の階段や橋でもこしらえて、一足とびに越えようかとルクは提案しましたが、協議の結果、せっかくなので少し道なりに散策してみようということになりました。
壁を左側にして進んでいく一行。
道はゆるやかにカーブをえがいており、じょじょに内へ内へと、流砂の渦のごとき経路をたどっている。また中へと進むほどに壁も高くなり、床にもわずかながら傾斜が生じ、視界もどんどんと薄暗くなっていきました。
いまのところ特筆すべき点は何もありません。
とても単調で退屈な坂の一本道。
ときおりルクが宙に氷の足場をつくっては、空へと駆けあがり、現在位置を確認。
まちがいなく一行はグルグルと回りながら、中央の塔へと近づいておりました。
はじめのうちこそは、ルクのそんな姿に感嘆の声をあげていたクルセラとシュプーゲルも、じきに慣れて無反応に。存外に飽きは早いもの。
それがちょっぴりかなしいとルクが内心でおもいはじめていたころ、足下に変化が見られました。
肉球ごしに伝わって来るのは、湿り気。
砂の海の夜の凍えとも、水色オオカミのふしぎな氷ともちがう、ひさしぶりに味わう感触に、「「「えっ!」」」と三頭が揃って声をあげました。
地面に鼻先をめいっぱい近づけて、様子をうかがうクルセラ。「水の気配が残っている。でもこんな場所にどうして」
「わからん。位置的には砂の海のかなり中央よりのはずだが」同様に周囲を調べていたシュプーゲルも、首をかしげるばかり。
「とりあえず先に進もう。たぶんあの塔にまで行けば、なんらかの答えがあるハズだよ」
ルクの言葉によって、一行はふたたび歩きはじめる。
じきに目的地へとたどりついた彼らを待っていたのは、またしてもおおきな門。
ですが今度はトンネルのようにはなっておらず、奥は短くて、すぐに塔の内部へとつづいていました。
吹き抜けの天井。
視界をさえぎるモノが何もない、がらんどうとした建物内部。
カラになった深い四角い堀が足下にあって、底にはひび割れてこわれた巨大な石のたまごみたいなのが転がっているばかり。
壁際にみえる階段がはるか天辺へとむかっている。
どうやらアレを登っていけば、この建物の頂上へと行けるみたい。だけれども地上へと通じているのかは現時点では不明。
さて、どうしたものかとルクがクルセラやシュプーゲルと相談しようとした矢先に、彼の視界にジジジと違和感が生じる。
茜色の瞳に宿ったチカラがふいに発動したのです。
焼けるほどの夕焼けを彷彿とさせるほどに、瞳の色味が強まる。
彼の視線が吸い寄せられたのは堀の中のたまご岩の残骸でした。
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