異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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19 心外のその先は人外。

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 全力全開でチカラを使ったせいなのだろうか……、チクワの能力がまたもやピコンと上がってレベル7になってしまった。
 これまでのように手から直接ぬるっと出すのではなくて、視界の届く範囲内ならば任意に好きなところから出せるようになる。
 睨むだけでお皿の上にポンっと出せるのは便利だ。
 木箱の中とかにも直接出せるので箱詰め作業が不要となって整理整頓が楽ちん。
 だが実態はそんな生易しい代物ではなかった。レベル6の衝撃が凄すぎて一見すると地味な変化ながらも、私とシルバーはその危険性にすぐに気がついて真っ青となる。
 
 だって視界内ならば目の前だろうが、相手の体内だろうがお構いなしに出せるんだもの。
 つまり対峙した相手に直接、チクワで口を塞いだり喉を詰まらせたり、脳の血管をプチンとしたり、脳みそのど真ん中にチクワをででんと出現させたりなんて芸当も可能に……、しかもそれだけじゃない。チクワの雨を降らせたり、高高度からチクワの塔を堕としてコロニーアタックとかもやれてしまうことにまで考えが至り、戦慄を禁じえない。
 
 ここにきていきなり物騒になった私の能力。
 なんだか発展方向がおかしくなりつつある。
 食べ物ならば食べ物ならしく味で勝負しろよ! よしんば見た目とサイズには目を瞑ろう。大盛りブームとか激辛ブームだとか見映えがいいだとか、あっちの世界でも食べ物を玩具にするかのようなのが色々とあったからな。だけどコレは明らかに違うだろうが! もはや食い物の範疇を飛び出してしまっている。チクワが戦略級兵器だなんてなんの冗談だよ、と私は頭を抱えた。

「神だか管理者だか知らないがオッサンのあほー! 適当な能力を適当に渡すから適当に進化しちゃてるじゃないか! どうすんだよ、絶対にバグってんぞ、これっ!」

 責任者出てこいと空に向かって叫んでみたが、神域の森の木々が風に揺られて枝葉をかさかさと鳴らすばかりで、私の嘆きは虚しく木霊するだけであった。
 あんまりにも腹が立ったので味つきのチクワをだして、みんなでやけ食いパーティをした。

 しばらくしてから、シルバーに摩天楼チクワの惨状跡を見に行ってもらったところによると、あらかた喰い散らかされており片付いていたというので安心するも、その代わりに跡地が一直線の道となって森を横断しており、ちょっとヤバイことになるかもしれないとのこと。
 
 道とはどこかとどこかが繋がるから道となる。
 
 袋小路とか行き止まりとかは? という揚げ足とりはいらない。
 そして道が開通しちゃったら誰かが通るもの。
 わりと魔族とかいう人たちの領域付近にまで道が通じてしまっているらしく、ひょっとしたらアチラから誰かが様子を見にくるどころか、これ幸いと人間領に向けて軍勢を送り込んでくることもありうるとの、怖い見解を述べるシルバーさん。
 またまたーと笑う私に、黙って首を振る銀狼。
 やっべー、もしかして私キッカケで戦端が開いちゃうとか。

「でもでも神域の森の内部を通過するんだったら、凄いモンスターとか獣とかが襲ってきて無理なんじゃないかなあ」

 一縷の望みをかけた私のこの言葉。
 しかし無情にもシルバーに即座に否定されてしまう。

「普段ならばそうじゃが、連中、ついこの前にたらふく美味いものを喰ったばかりじゃからのお。いまさらたいして食いでのありそうにない魔族に食指が動くかどうか」

 なんてこったい! そういえば迂闊に野生動物に人間の食糧を与えちゃ駄目って、昔テレビに出ていたエライ動物学者の先生が言っていた。
 これって美味しいモノに慣れてしまったら、元の生活に戻れなくなって、人の領域を脅かすようになるからだったよな。
 それと同様なことが神域の森でも絶賛拡大中ということか。これまではうちの廃村周りだけで済んでいたのに、ここにきてその動きが一気に加速してしまったと。
 こうなれば毒を喰らわば皿まで……、いっそのことその道中にチクワの雨でも降らせて、森の仲間たちをおびき寄せてうろつかせて侵入者どもを拒ませるか。
 いや、駄目だ。それだと泥沼の未来しか想像できない。
 朝から晩まで延々とチクワ製造機と化している将来の自分の姿が、脳裏にありありと思い浮かぶ。
 たぶんシルバー、レッド、シロの三匹に頼めば楽勝で追い返してくれるんだろうけれども、彼らにはあまり人を傷つけるような真似をさせたくない。自分勝手な理屈とは承知しているが友達の手をこんなことで汚させたくはないのだ。
 おお! そうだ、いい考えを思いついたぞ。

「よし! チクワをバラ撒くんじゃなくてチクワ肥料をバラ撒こう。そして神域の森自身にもりもり復活して道を塞いでもらおうじゃないか」

 この時の私は、これが最善の策だと本気で信じていたんだ。
 でも大自然ってのは人の思惑なんて知ったこっちゃないと嘲笑うからこその大自然。
 それをまざまざと見せつけられることとなる。


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