にゃんとワンダフルDAYS

月芝

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026 キラキラネーム

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 迫る追手の影。
 緊迫した空気の中、背後を気にしながら、サンやパウロとともに懸命に駆け続ける和香であったが、内心で舌をまいていた。

(まさかタヌキがこんなに動けるだなんて……)

 スピードそのものはネコ姿の和香の方がたぶん速い。
 でも野山という自然のコースを疾走する分には、タヌキに軍配があがる。ずんぐりした体形ながら器用に草木をかき分け、地面のでこぼこもなんのその。ホームグラウンドであることを差し引いても、かなり優秀であろう。
 もっともそれは追手の連中にも言えることだろうけど。

 そんな和香たちだが、闇雲に逃げているわけではない。
 追跡をかわしつつ向かっていたのは、巻物に記されてあった第一のヒントとなる場所――天狗岩だ。
 天狗岩は、まるで天狗の鼻みたいにツンとのびた突起があるから、昔からそう呼ばれているそうな。巻物によればその鼻先に立ち、鬼門の方角を眺めれば第二のヒントとなる目印が明らかになるという。
 まぁ、それはさておき……

「にゃにゃなぁ~なぁ~。(ねえ、ずっと気になっていたんだけど、あなた達の名前ってちょっとアレだよね)」

 サンやパウロ、それから追手を率いているであろうフォルもなのだけれども。
 和テイストはみじんもない。とっても洋風である。
 仮にも日本固有種であるホンドタヌキとして、これはいかがなものであろうか?
 出会った当初は、たまたまなのかとおもいきや、第三のタヌキまでもがフォルときたもんだ。

「キュキュッ? ウユ~ンユン。(えっ、わたしたちの名前ですか? あー、少し前にキラキラネームなるものが流行りまして、そのせいですね)」

 サンはけろりと答えた。
 ひと口にタヌキといっても十人十色。
 なかには安住よりも刺激を求めて里への移住を志す者や、あえて各地を渡り歩く旅暮らしを選ぶ変わり者もいる。
 そのまま消息不明となり縁が切れることがふつうだが、ごく稀にちゃっかり生き残るタヌキもいたりして。

 とある旅ガラスならぬ旅ダヌキとなった者が、どんぐり山にぶらりと立ち寄った際にもたらしたのが「知ってるか? 近頃、人間たちの間では、我が子にキラキラネームなるものをつけるのがトレンドらしいぞ」という情報であった。

 キラキラネームとは、名前に独自の当て字を付けた個性的な名前、または人名にはあまり見られない名付けのことを指す。
 例えば男の子の場合だと「光宙でピカチ〇ウ」だったり「赤斗でレッド」「騎士でナイト」とか。女の子のパターンでは「奏日亜でソフィア」や「舞曲でマイメ〇」「七音でドレミ」などなど。
 人気のアニメやゲームのキャラクターを模した名前も多い。語呂合わせや読んだときの言葉の響きに重きを置いて命名するケースもあるという。
 一説では海外でも通用するように、グローバル化を意識したというけれど……

 この話を耳にしたあるパパタヌキが、ポンと腹鼓をひとつ打った。

「ウユユーーン! (そいつはおもしれえ。よし、次の子にはいっちょキラキラネームとやらをつけるとしよう)」

 なにせタヌキは子だくさんである。
 夫婦仲はむつまじく、せっせと励んでは、わりとポコポコ産む。
 そのため子どもの名前を考えるのはけっこうたいへん。
 かといって、一郎や次郎に三郎に花子や幸子ばかりでは、あまりにも芸がない。周囲とかぶりまくりで、ややこしいったらありゃしない。
 そんなときにもたらされたのがキラキラネーム。
 マンネリに陥っていた現状を打破するのにはもってこい。
 悩めるパパタヌキにとっては天恵であった。
 一頭が始めたらすぐに我も我もと続き、あっという間に広がってしまったという次第。

  ◇

 どんぐり山のタヌキたちの間で、一大キラキラネームブームが到来!
 持ち込んだのは旅ダヌキだが、もとをただせば人間たちが発端である。
 よもやの巡り合わせ、とんだバタフライエフェクト?
 和香は「なぁーご。(へー、そうなんだぁ)」と若干顔を引きつらせては、ついと目をそらす。

 そうこうしているうちに、一行はついに天狗岩へと到着した。
 パウロは器用に岩の割れ目やでっぱりを足場にしては、するする大岩をのぼっていく。
 彼が率先してルートを確保してくれたので、後続のサンと和香はさして苦労することなく天狗岩の鼻へと到達できた。
 とたんに広がる世界、その眺望に和香はしばし見惚れる。


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