19 / 55
19話 感動は再会を超えて②
しおりを挟む
side 男たち
「リク様、でしたか。サリス様を保護していただいたようで、ありがとうございます」
サリスフィーナが席を立つと、カランは目の前の金髪を見定めるように言葉を発した。
誰から見ても貫禄のある美を伴った男だ。
まだ若いだろうに、たくさんの人間を傅かせているのは、観察している僅かな時間でも充分にうかがえた。
自分のために、この権力者からサリス様をなんとしてでも取り返さなければならない。
カランは気合いを入れた。
「とんでもありません。私達はサフィ様の僕、サフィ様のために働くのは当たり前のことですから」
リクはカランの言う意味がいまいち理解できないまま、丁寧に応対した。彼がサフィ様と知り合いであることが確かだったからだ。
こちらがサリスフィーナを保護しているのではなく、皆がサリスフィーナに保護されているのだけどな、と思いながら。
サフィ様は、この大所帯になってしまった人数に職を与えるため、森の開拓を思いついたのだ。
しかし彼らは魔獣に怯え、遅々として開拓は進まなかった。
そのためサフィ様は彼らの先頭に立って魔獣をなぎ倒した。
そしてバッサバッサと木を切り倒し、その木で森との境をつくり、皆の安全を確保したのだ。またその根を掘り捨て、がっつりと土を耕しながら進むことで農地を増やしていったのだ。
もはやサフィ様無しで俺らは生きられない。
あの硬いモズラすらゴリンをするようにすりおろす様は、屈強な男達をも唖然とさせているのだから。
「ところで、サリスフィーナ様は当家の跡取りでございまして、できれば若様をこちらにお引渡しいただきたく」
「イヤです」
リクはカランの言葉を最後まで聞かずに、思わず素の意見を吐き出した。
リクの全てはサフィのものだ。
リクはサフィによって生かされているのだ。
サフィと離れるなんて、考えられない。
それに跡取りになられては、困る。
それではサフィ様を手に入れることができなくなってしまうではないか。
「もちろん相応のお金はご用意いたします」
「イヤです」
カランは、リクがサリス様に執着する様子に危惧を抱いた。
サリス様は美しい。
いや、貴族の血を半分引くマリア様によく似たサリス様は元々美しくはあったのだが、会わない間に随分と雰囲気が柔らかくなったというべきか。
まさか、この男、すでにサリス様を手籠めにしてしまっているのではあるまいか。
サリス様を『サフィ』と呼ぶことを許されているのは旦那様と奥様だけだったはずだ。
それをこの男は許されている。
いや、サリス様がそんなことを簡単に許すわけがない!
この男が懸想しているだけに決まっている。無理難題を通して、サフィ様と呼ぶ権利を得たに違いない。
サリス様もこの男に保護されたことで、頷く他なかったのであろう。
だが一応確認はしなければな。
そしてこの男の本質を見極めて、確実に仕留める方法を探さねばならない。
「リク様、まさか貴方、サリス様に手を出したりしてはいないでしょうね」
若干声が低まり、恫喝が含まれてしまったが仕方ない。
「まさか。サフィ様は主人でございます。私はサフィ様の1番の忠実なる僕ですから」
「1番の忠実なる僕は私の方です!」
カランは叫んだ。
「サリス様のお着替えも、お風呂のお世話も、欲しいものを揃えるのも、全て私以上に把握しているものなどいるわけがありません。サリス様が4つの時からお世話しておりますからね!」
「お、お風呂のお世話!なんて羨ましい、まだ一緒に入ったこともないのに……ではなくて。それでも私が1番です。森で拾われ、何もないところからサフィ様にお仕えしてきたのは私です。時間ではなく内容が濃いのですから。今でも一緒に寝てますし!」
「い、一緒に寝てる……それはどういうことですかな。ああいえ、聞かずとも構いません。そうそう、今日からは私が一緒におりますから、リク様はどうぞ他へ行ってください。貴方様ならば選り取りみどりでしょう?」
ふふふ、ははは。
部屋から漏れ聞こえてくる笑い声に、サフィは2人が仲良くなれてよかったと胸をなでおろすのだった。
「リク様、でしたか。サリス様を保護していただいたようで、ありがとうございます」
サリスフィーナが席を立つと、カランは目の前の金髪を見定めるように言葉を発した。
誰から見ても貫禄のある美を伴った男だ。
まだ若いだろうに、たくさんの人間を傅かせているのは、観察している僅かな時間でも充分にうかがえた。
自分のために、この権力者からサリス様をなんとしてでも取り返さなければならない。
カランは気合いを入れた。
「とんでもありません。私達はサフィ様の僕、サフィ様のために働くのは当たり前のことですから」
リクはカランの言う意味がいまいち理解できないまま、丁寧に応対した。彼がサフィ様と知り合いであることが確かだったからだ。
こちらがサリスフィーナを保護しているのではなく、皆がサリスフィーナに保護されているのだけどな、と思いながら。
サフィ様は、この大所帯になってしまった人数に職を与えるため、森の開拓を思いついたのだ。
しかし彼らは魔獣に怯え、遅々として開拓は進まなかった。
そのためサフィ様は彼らの先頭に立って魔獣をなぎ倒した。
そしてバッサバッサと木を切り倒し、その木で森との境をつくり、皆の安全を確保したのだ。またその根を掘り捨て、がっつりと土を耕しながら進むことで農地を増やしていったのだ。
もはやサフィ様無しで俺らは生きられない。
あの硬いモズラすらゴリンをするようにすりおろす様は、屈強な男達をも唖然とさせているのだから。
「ところで、サリスフィーナ様は当家の跡取りでございまして、できれば若様をこちらにお引渡しいただきたく」
「イヤです」
リクはカランの言葉を最後まで聞かずに、思わず素の意見を吐き出した。
リクの全てはサフィのものだ。
リクはサフィによって生かされているのだ。
サフィと離れるなんて、考えられない。
それに跡取りになられては、困る。
それではサフィ様を手に入れることができなくなってしまうではないか。
「もちろん相応のお金はご用意いたします」
「イヤです」
カランは、リクがサリス様に執着する様子に危惧を抱いた。
サリス様は美しい。
いや、貴族の血を半分引くマリア様によく似たサリス様は元々美しくはあったのだが、会わない間に随分と雰囲気が柔らかくなったというべきか。
まさか、この男、すでにサリス様を手籠めにしてしまっているのではあるまいか。
サリス様を『サフィ』と呼ぶことを許されているのは旦那様と奥様だけだったはずだ。
それをこの男は許されている。
いや、サリス様がそんなことを簡単に許すわけがない!
この男が懸想しているだけに決まっている。無理難題を通して、サフィ様と呼ぶ権利を得たに違いない。
サリス様もこの男に保護されたことで、頷く他なかったのであろう。
だが一応確認はしなければな。
そしてこの男の本質を見極めて、確実に仕留める方法を探さねばならない。
「リク様、まさか貴方、サリス様に手を出したりしてはいないでしょうね」
若干声が低まり、恫喝が含まれてしまったが仕方ない。
「まさか。サフィ様は主人でございます。私はサフィ様の1番の忠実なる僕ですから」
「1番の忠実なる僕は私の方です!」
カランは叫んだ。
「サリス様のお着替えも、お風呂のお世話も、欲しいものを揃えるのも、全て私以上に把握しているものなどいるわけがありません。サリス様が4つの時からお世話しておりますからね!」
「お、お風呂のお世話!なんて羨ましい、まだ一緒に入ったこともないのに……ではなくて。それでも私が1番です。森で拾われ、何もないところからサフィ様にお仕えしてきたのは私です。時間ではなく内容が濃いのですから。今でも一緒に寝てますし!」
「い、一緒に寝てる……それはどういうことですかな。ああいえ、聞かずとも構いません。そうそう、今日からは私が一緒におりますから、リク様はどうぞ他へ行ってください。貴方様ならば選り取りみどりでしょう?」
ふふふ、ははは。
部屋から漏れ聞こえてくる笑い声に、サフィは2人が仲良くなれてよかったと胸をなでおろすのだった。
78
あなたにおすすめの小説
ゲームの世界はどこいった?
水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。
そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。
あれ?ゲームの世界、どこいった?
ムーン様でも公開しています
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
コスプレ令息 王子を養う
kozzy
BL
レイヤーとしてそれなりに人気度のあった前世の僕。あるイベント事故で圧死したはずの僕は、何故かファンタジー世界のご令息になっていた。それもたった今断罪され婚約解消されたばかりの!
僕に課された罰はどこかの国からやってきたある亡命貴公子と結婚すること。
けど話を聞いたらワケアリで…
気の毒に…と思えばこりゃ大変。生活能力皆無のこの男…どうすりゃいいの?
なら僕がガンバルしかないでしょ!といっても僕に出来るのなんてコスプレだけだけど?
結婚から始まった訳アリの二人がゆっくり愛情を育むお話です。
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜
亜沙美多郎
BL
前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。
この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。
その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。
騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。
中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。
茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。
転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。
それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。
リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。
Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。
リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。
いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。
しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。
エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。
弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。
お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。
♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡
※独自のオメガバース設定があります。
※予告なく性描写が入ります。
魔王の事情と贄の思惑
みぃ
BL
生まれてからずっと家族に顧みられず、虐げられていたヴィンは六才になると贄として魔族に差し出される。絶望すら感じない諦めの中で、美しい魔王に拾われたことですべてが変わった。両親からは与えられなかったものすべてを魔王とその側近たちから与えられ、魔力の多さで優秀な魔術師に育つ。どこかに、情緒を置き去りにして。
そして、本当に望むものにヴィンが気付いたとき、停滞していたものが動き出す。
とても簡単に言えば、成長した養い子に振り回される魔王の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる