拝啓、聖騎士様。もうすぐ貴方を忘れるから離縁しましょう~履いてない!?聖女逃亡手記~

花虎

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いつも以上に温度の無いフィグルドの問いかけに、エカルラートは頬をひくりと引きつらせた。そこへ、ここぞとばかりにソファの後ろから出てきたイサラが、ぼそりと追い打ちをかける。
 
「……多分、終わってない……」
「ちょっと、イサラ!裏切ったわね!?」
「……僕の癒しを邪魔した……当然だと思う」
 
じとっとした目でイサラがエカルラートのさぼりを報告してくる。
 
「し、仕方ないじゃない!最新のファッションを見つけたら可愛いものに着せたくなるじゃない!」
 
フィグルドとイサラは「いや、そんなのはお前だけだ」と心の中で突っ込む。しかし、エカルラートは大仰な動きで嘆いてみせる。
 
「私はね!女性も肌を見せる時代がくると確信しているの!見て、この芸術的で美しい鎖骨!くびれ!へそ!」
「え?私そんなでも……」
 
 リナリアはどう考えても海外モデルのように美しいエカルラート達に比べれば平凡である。慌てて否定するが、興奮したエカルラートの耳には届いていないらしく、リナリアの肩をがっと掴むとそのままフィグルドの方へ押し出した。

「女性の魅力を引き出す最高のファッションよ!」

押し出されたことで、お腹を隠していた手が外れる。フィグルドは思わず再び晒された腹部に視線が釘付けになりながら。
 
(結婚したら、もう一度着てもらおう)
 
心の中でひっそりと、だが執念深く誓った。フィグルドはなんとか消えかけている理性でもって視線をリナリアのお腹から剥がすと、エカルラートを鋭く睨みつけた。

「それと、任務を放棄することは別だ。さっさと仕事に戻れ」
 
厳しくそう言い放つ。エカルラートががっくりと肩を落とすと、リナリアは可哀そうになってよしよしと慰めてあげる。だが、それは完全に逆効果であった。フィグルドのまわりの空気がパリッと火花のような静電気を放ったことに気づき、エカルラートは観念した。
 
「じゃぁね、リナリアちゃん、私は孤独に調査に行ってくるわ」
 
よよ、と芝居がかった仕草でエカルラートが背中を丸めて部屋を出ていく。リナリアはそれを見送ると、未だ入口に立ったままのフィグルドに視線を戻す。

 どうしたんだろう?と、彼をよくよく見ると、扉を開けた時と同じ体勢のままだ。
 
「……リナリア様」
 
じっと上から見つめられて、なんだか少し居心地が悪い。この世界で女性はあまり露出しないと教えられたからか。日本ではヘソだしコーデだってあったはずなのに、やけに恥ずかしい。

「はい……」
 
何を言われるのだろう?と身構えつつ答えると、フィグルドは真顔のまま続けた。
 
「お腹を出していると、冷えて腹を壊します。温かくしてください」
「……あ、……はい」
 
まるでお母さんのようなことを言われた。と、面食らっていると、イサラが背後で噴き出したのがわかった。フィグルドの鋭い視線が、今度はイサラの方へ向く。
 
「イサラ、お前も。警護は休憩じゃないぞ」
 
釘をさされて、イサラがやぶへびだった、と首を竦めた。
 
「もうすぐ日が落ちる。治安が悪くなる恐れがあるから、気を付けるように」
 
聖騎士の団長らしい注意をすると、イサラは殊勝に了解しました、と答える。二人のやりとりを見ながら、リナリアは不思議に思って首を傾げた。
 
「あの、フィグルドさんは……」
「夜の街へもう一度調査に出ます。食事はこちらに運ばせますので、ご安心を」
 
彼らの警護に、昼も夜もないんだ、と改めて思い知らされる。

 自分は常に彼らに守られているということに感謝しつつ、リナリアはしっかりと頷いたのだった。





 さすが陽気な国、まだ本格的な夜が来る前から、都市部の人々は酒盛りで盛り上がっているようだ。

 さすがに少し中心地から外れているこのコテージが立ち並ぶ宿の区画にまでその喧噪が微かに届いてきている。

 日が傾き、気温も落ちてきたので、せっかくだからと涼みにコテージの外へと足を踏み出す。

 エカルラートに着せられた踊り子の衣装は、実はちょっとリナリアも嬉しかった。アラビアン風の衣装を一度着てみたかったのだ。

 肌に涼しい風があたり、くるりとその場で回ってみる。ふわりと腰についた薄布が広がるのが楽しい。少しだけお姫様気分だ。

 それから、フィグルドの顔を思い出して、ふふ、と思わず笑顔がこぼれる。普段、ほとんど表情の変わらない彼が、さすがに驚いていたことは、リナリアもわかるようになってきた。よく似合っていると褒められて、なんだか胸が騒めいた。

 エカルラートやイサラにも言ってもらったが、彼らに言われるのとは違う、くすぐったいような、恥ずかしいような感覚。

 リナリアは、なんとなく他の四人の聖騎士達を友達と感じるようになってきていた。けれど相変わらず、フィグルドだけは聖女と聖騎士という境界線を越えない。

 だから、だろうか。

視線を遠くへ飛ばすと、オレンジ色の太陽が地平線に沈みかけている。

 感傷的な気分を振り払うように、そろそろ衣装を着替えておこう、と部屋に戻ろうとした時。

突然、目の前に黒づくめの男達が現れた。

 驚いて身体が硬直した隙を見逃さず、男はリナリアの腹に一発、拳を入れて意識を失わせる。倒れたリナリアを素早く担ぎ上げると、彼らはコテージを後にした。




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