ヒト嫌いの果て

五味

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一章 新世界にて

そして世界は彼女を出合わせる

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そうして一昨日と同じように。

昨日も部屋から出ることなくこの世界の説明を、ディネマとアマルディアから聞いた。
少し詳しい、神霊種の説明。
具体的な亜人の種類。
そもそも霊体種・幽体種とは何か。
他の国。
神様と王様の関係。

昨日は一昨日よりも多くのことを聞き。
やっぱり理解することはできないものがほとんどで。
とりあえず、そういうものなんだと。
ひとまず覚えておくことに終始した。

そうして今日。

目を覚ませば、当たり前のようにディネマに声をかけられる。

「おはようございます、御子様。」

昨日、一昨日と安静にしたからだろうか。
今日は少し体が軽い。

「本日は少し、お加減がよさそうですね。
 短い時間でしたら、外に出られるのもよいかもしれません。」

ディネマからもそうお墨付きが出る。

「そうですか。それはうれしいです。
 では、アマルディア、後程王城の外へ連れて行っていただけますか?」

「かしこまりました御子様。」

「ただし、くれぐれも短い時間になさってください。」

ディネマから少し強めの口調で言われる。

「アマルディアも。先に時間を決め、少なくとも時間内に戻るようにされたほうが良いでしょう。
 それと御子様。本日より新たに二機がお側に控えさせていただきます。
 食事の前に紹介させてください。」

「そうですか。楽しみです。」

その言葉はすんなりと口から出た。

そして応接室に連れられて行けば、そこにはディネマとアマルディアに似た少女がいる。
すぐに挨拶をと思ったけれど、ディネマはそのまま私を食卓へ運ぶ。
体調は良くなり、自分の足で歩けるとは思うけれど、変わらずディネマは私を運ぶ。
どうやら、外出ができるというのは車椅子や補助付きで、という形になりそうだ。
この二日の間に、ディネマは譲らない部分では決して引いてはくれないと理解している。

食卓に果物が用意されたところで、今日から一緒にいるのだろう二人が、アマルディアの少し後ろに控える。

「御子様。どうぞお召し上がりになりながらお聞きください。
 こちらに控えているのは、ナンバー03クレマティア、ナンバー09イリシアです。」

名前を覚えられるだろうか。
紹介された二人を見ながら口には出さずに名前を繰り返す。
用意された果物は変わらずおいしいな。
そろそろ果物以外も食べたいかも。
そんな雑念が頭をよぎったけれど。

「御子様。機械仕掛けのエーテルシリーズ、ナンバー03クレマティア、本日より御身のそばに。」
「同ナンバー09、イリシアと申します。本日よりお願いします。」

クレマティアはどことなく雰囲気がアマルディアに似ている。
番号が近いからだろうかと考え、ディネマが4だったと思いなおす。
イリシアはディネマに雰囲気が似ている。

「御子様、クレマティアは局所戦に優れております。
 市街地などでの戦闘の際、周辺被害を出さぬよう戦うのでしたら、私よりはるかに優れています。」

そう、アマルディアに説明される。
そういえばアマルディアが戦うときには周辺諸共焼き尽くすのだったか。

「そうなのですか。
 それでは市街に出るには心強いですね。」

そう応えると、クレマティアが嬉しそうに答えてくれる。

「はい。市街での護衛はお任せください。
 撤退・防御だけであればアマルディアだけで十分ではありますが、私もお供させていただきます。」

そういえば攻撃しないで逃げるという選択肢があったことを思い出す。
王城まで逃げ帰ってしまえばよほどのことがない限り安全だ。
そんなことを思いながらアマルディアを見る。

「御子様。敵対したものを生かしておく理由がありません。
 私が御身をお守りし、こちらに戻ってくる間に、クレマディアが愚か者を滅します。」

そういうことらしい。
相変わらず勇ましいこたえが返ってくる。
そしてクレマディもそれが当然と考えているようだ。
特に異論をはさむことなく一歩下がる。

「初めまして、御子様。ナンバー09イリシアです。どうぞよろしくお願いします。」

アマルディア、クレマディアに比べると柔らかな語り口で話しかけてくる。

「私以下、15番までは純粋にアマルディア姉さんのダウングレード機体です。
 出力を抑え、調整機構に重点を置かれています。
 そのおかげで万事を恙なく高水準で行うことができますので、何なりと申し付けてください。」

加減が苦手なアマルディアを、加減ができるようにしたということなのだろう。
ただ今の生活では、何なりとといわれても、特に頼むことがないのも事実で。
少し困ってしまう。

「イリシアには本日より私とともに御子様のそばに控えていただきます。
 私は特に連続稼働可能な時間が短く、御身のそばに常に控えさせていただけるわけではありません。」

意識のある間は常にアマルディアもディネマも側にいてくれたけれど、そういえば二人は眠ったりするのだろうか。
少なくとも、適度な休息は取ってほしい。

「わかりました、ディネマ。
 私が寝ている間は、皆もきちんと休んでください。」

そういえば、アマルディアから即座に否定が。

「いいえ。御身がお休みになっている間こそ警護が必要です。
 故に私とクレマディアでしっかりとお守りさせていただきます。」

「夜半に突然目が覚めて、何か御用の時もあるでしょう。
 本日より私とイリシアで交代にてお側に控えさせていただきます。」

アマルディアに続けるように、ディネマからも否定の声が上がる。
それはつまり、ここ数日は二人とも休みなく私のそばにいたということだろうか。
少し不安になる。
彼女たちは大丈夫なのだろうか。

「それで、あなた達は大丈夫なのですか?
 ディネマはあまり長時間活動できないといっていましたが。」

「ディネマをはじめ、内向きの作業を行う期待は連続稼働限界が128時間と確かに短くなっておりますが、私は10年ほどでしたら連続で稼働できますので問題ありません。」

10年間、休憩なしで活動できるというアマルディア。

「私は1年程度とアマルディアに比べれば短くなっておりますが、その間にはほかの機体も来ますので、問題にはならないかと。」

クレマディアは1年。
では、イリシアはとみれば。

「私もクレマディアと同程度です、御子様。
 私が姉さんたちをちゃんと休ませますので、ご心配なく。」

「皆、本当にすごいのですね。」

それ以上の言葉が出てこない。

「ディネマが特別短く感じますが、いえもちろん十分すぎるほど長いのですが、ほかの三人と比べるとという意味です。
 何か理由があるのですか?」

「はい、御子様。
 戦闘を行うわけではない私どもは、連続稼働をあまり長期にわたって行う必要がないのです。
 そのため、その機能の代わりに、このように他の機能が搭載されています。」

そういって、相変わらず何もないところから紅茶のセットを取り出し、手元においてくれる。
おもえば、毎日違う果物に、違うお茶、違う服が用意されていた。
そういったことができる代わりに、ということなのだろう。

「では皆はどの程度の休息が必要なのでしょう?」

「基本的に24時間です御子様。
 もちろん直前の状態や、連続稼働時間をすべて利用したとなれば、相応の追加が必要となりますが。」

1年動いて、一日休み。
それはとてもではないが、彼女たちにさせたくない。

「わかりました。可能な限りでかまいません。
 毎日各々休息をとってください。
 私だけ休んで、あなた達がたえず動いているというのはあまり好ましくありません。」

言葉にすれば、それが非常によくないことだと、その思いを強くする。

「かしこまりました御子様。」

そうアマルディアが代表するように応えてくれる。
それを聞き、食事を止める。
そして紅茶に口をつけながら、今日のこの後を少し考える。

この後しばらく室内で過ごせば、きっとまた疲れが出始め、ベッドの住人になることは予想できる。
なら外出は早いうちがいいだろう。
明日も出かけられるほど体調がいいとは思えない。

「では、アマルディア。
 少し休んだら、早速ですが城外に出かけてみたいと思います。
 特に何が見たいという希望があるわけではないので申し訳ないのですが、外がどのようなものなのかを見てみたいと考えています。」

「かしこまりました、御子様。」

「では、御子様。
 外に出られるのでしたら、そのように準備させていただきます。」

そうして、食事を終えればディネマにまた運ばれ寝室へ。
ゆったりとした服を着せられ、髪も背に流していただけだったのを、やけに豪華な服に、ドレスといっても言い過ぎではないような華やかな服、かかとが少し高くなった靴を履かされ、髪も丁寧に編み込まれる。

「あの、ディネマ。
 これは少し華美にすぎませんか?」

ディネマが満足したように一つ頷き、一歩引いたところで尋ねてみる。
この作業の間、イリシアはディネマを手伝っていたが、ほかの二人は何も言わずに控えていた。

「そうでしょうか?
 この世界における、高貴な方の一般的な装いですが?」

彼女がそういうのならそうなのだろう。
自分が高貴といわれても自覚はないが、どうやら位階と呼ばれるものは高いようだし。
ただ慣れない。
外出の準備だけで少し疲れてしまった。

そして、これから、初めての世界に出ていくのだと思うとやはり緊張する。
思考は少しネガティブに。
前の世界と印象が変わらなかったら。
何か問題が起これば。
そもそも大丈夫なのだろうか。

「では、アマルディア。
 よろしくお願いします。」

「お任せください、御子様。」

自信に満ちたアマルディアの言葉がやけにうれしい。

「そういえば、場外へはどのように出ればいいのでしょう?
 長く歩く必要があれば、それだけで体調を崩しかねないのですが。」

「場外へは直接転移します。
 オレイザードのそばへと転移するには周辺へ被害が出ますが、城外であればその心配もありませんので。」

そういうとアマルディアが私を抱き上げる。

「では、アマルディア、一時間ほどで戻ってください。
 御子様も。少しでも体調が悪くなればアマルディアに戻るように伝えてください。」

てっきりディネマもついてくるのかと思えば、彼女はこの場に残るようだ。

アマルディアのそばには、ほかの二人が。

「では御子様、まいります。」

そうアマルディアが言うと同時に、唐突に周囲の景色が変わる。

視界には一面の青。
ところどころに緑。
遠くには太陽が3個。

思わず息をのむ。

視界をあげれば、別の太陽が5個燦然と輝いている。
城内で出会ったのが、骨と鎧と半透明の人たちだったせいか、外は暗いものと思っていた。

視界を下ろせば、巨大な城が足元に。
そこから広がる町並みはずいぶんと遠くまで。
そこで初めて自分がアマルディアに抱えられて地面にいないことに気が付く。
ただ、不安はなく感動が胸にあった。

「御子様。足元に広がるのがこの基底界における最大の都市レルネンディア。
 王城を中央に円状に広がり、その半径はおおよそ120キロメートルです。」

一つの都市で半径120キロ。
端から端まで240キロ。
東京から名古屋まで、それに足りないくらいの距離が一つの都市。

「北側に大型の生命が住んでおり、東側に亜人が多くなっております。
 どこか御子様の興味を引くところはありますか?」

イリシアからの問いかけに改めて、視界を下に向け周りを見渡す。
アルマディアに抱えられているため、限界はあるけれど、一か所妙に緑の濃いエリアがあるのが目に入る。
その他の場所には見える範囲では建造物らしきものがあるのに加え、そのエリアは少し異質に映る。

「イリシア。
 あちらの緑の濃いエリアは、なんでしょう?
 都市内に森林があるのでしょうか?」 

そう告げると、また視界が唐突に切り替わる。

遠くに見えていた、緑のエリアが近くに。
そこで改めて、このエリアが森だとわかる。
そして何か、違和感を感じる。

「こちらは都市南部、主に精霊種が住むエリアです。
 小柄なものが多いので、御子様では視認は難しいと思いますが、今も幾人かはこちらをうかがっております。
 接触されますか?」

小柄だとしても、森だとわかる程度に、木の枝や葉が見て取れる距離にいるのに視認ができないのはよほど精霊種が小さいのだろうか。

「そうですね。友好的な相手であるのなら、話してみたいとは思いますが、後々でいいです。
 今は、ほかの場所も見てみたいですし。」

そう応え、改めて足元を見ればやはり違和感が。
そう、遠近感がおかしい気がする。
木だとわかるのに、そこまで鬱蒼としているわけではなさそうなのに、地面が見えない。

「気になったのですが、アマルディア。
 今私たちは、どの程度の高さにいるのでしょう?」

「地表からですと、4キロほどとなります、御子様。」

地表から4キロの位置にいて、枝ぶりが分かる木。
そして中央の方には、今の私の視線よりも高い位置に伸びている木が。

すこし、くらり、と。
眩暈にも似た感覚を覚える。
悪いものではなく、ただ圧倒された結果として。

「あの、アマルディア。
 私たちと同じようなサイズの方々がいる場所はどのような感じなのでしょうか?」

そう告げれば、また視界が変わる。
視界には、とても小さく町並みのようなものが見える。
まるで、航空写真でも見ているかのようだ。

「では御子様。下に移動します。」

そうアマルディアが告げれば、また視界が変わる。
下を向いていたその視界には、金属のように見える地面が。
視線をあげれば、店舗らしき建物が。
人通りはそれなりにある。
視界を歩く人は、肌が緑色だったり、明らかに石でできているものだったり、二足歩行をする大きな犬であったり、やっぱり骨であったり。

いろいろな見た目の人々が思い思いに。

そして視界には、前の世界にもいた”アレ”が。

思っていたほどではないにせよ。

懐かしい感覚が。

数日の間忘れていた感情が。

ああ、そういえば恩人であるあの老人が彼らがいることを隠したくないといっていた。

つまり、この感情は消えないのだと。

理解した。

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