婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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 物音がして目が覚めた。快適な目覚めだ。生まれて初めてというくらい。欲を言えば、布団が若干カビ臭かったこと。昨日は掃除だけで終わってしまったので仕方がなかった。今日は天気もいいはずだから、布団を干そう。シーツも洗濯しないと。やることがいっぱいある。

 起き上がって着替えをする。持ってきた服は全て動きやすいワンピース。レースやフリルのついたドレスなんて持っていない。ジョセフ様は呆れるだろうか。嫁入りにきちんとしたドレスの1枚もないなんて非常識であろう。実際、賠償金や慰謝料をもらったのだから買うことはできた。しかしそんな時間もないまま慌ただしく出発してしまったのだ。

 昨日のジョセフ様の様子を思い出す。体格も素晴らしくガッチリとしていた。目つきは険しかったが、それは騎士だから。優しい顔立ちの方だと悪者も甘く見てしまうだろう。それだけ彼が優秀な騎士ということだ。

    私が作った料理もあっという間に平らげてくれた。空腹だったせいかもしれないが、気にいってもらえたなら嬉しい。そもそもあれだけの体格なのだから、料理も私の3倍くらいは余裕で食べられるだろう。

    今日はもっと多く用意しなければ。気持ちよく食事をしてもらえるように努力しないと。いくら王命とはいえ気に入らない人間と暮らすのは耐えられないはずだ。

 窓を少し開ける。外はまだ薄暗い。この夜明け前の瞬間が私は好きだ。誰にも汚されない空間が与えられたような気がするからだ。大きく深呼吸をする。冷たい空気が体に染み込んでくるけど、それが心地よい。

 深呼吸を何度か繰り返していると、ブシュッという音が何度か聞こえてきた。何だろう。外をみると、ジョセフ様が剣を振り回している。あれは剣が風を切る音なのか。少し離れたこの場所まで聞こえてくるということは、それだけジョセフ様が力強いということだろう。

    こんなに朝早くからお一人でいつも鍛錬をなさっているのだろうか。日中は職務もあるだろうし、上官がいざという時に動けないと問題だろう。時間を見つけて自己鍛錬をされるなど、やはり素晴らしい騎士の方なのだ。王妃様が褒められるのも当然だ。


 そんな方が私の夫なのだ。彼はどう思っているのだろうか。私のような取り柄もなく美しくもないつまらない女を妻にされて、本当は憤慨さなっているのではないだろうか。よくよく考えてみても、奮闘の結果が私との結婚なんてひどい話だ。もしかしたら人生に落胆して剣を振るうことでその気持ちを紛らわせているのかも?

 そんなことを考えながら、ぼんやりとジョセフ様の様子を眺めてしまう。筋骨隆々ってああいうお身体をいうのかしら?今まで男性といえば、父や弟や使用人としか接していない。筋肉とは程遠い体つきだった。鍛えることで鋼の肉体になると聞く。確かに剣も通らないのでは、と思うお身体だ。

 突然ジョセフ様は着ていた衣服を脱いでしまった。上半身裸である。それは見事な体型で・・・。って冗談ではない。私は今、男性の裸体を覗き見ているという状態だ。

 急激に恥ずかしくなってすぐに窓を閉めた。ジョセフ様は気が付いていないと思いたい。いくら夫になる人とはいえ、覗き見したなんてはしたない。ますます嫌われてしまう要素が増えてしまった。

 私は両手で両頬をパチン、と叩いた。落ち着け、私。この場から離れた方がいいと判断した私は、とにかく平静を装い下へ向かった。台所には水瓶がある。とにかく落ち着くためにも水を飲む。

「あ、すまない」

 突然ドアが開いた。そこにいたのはジョセフ様。上半身裸だ。上から見ていたが、まさかこんな至近距離。

「キャー!」

 思わず叫び声が出た。

「驚かせて申し訳ない。水を飲もうと思って。まさかもう起きていたとは気づかず・・・」

 本来ならここはジョセフ様が住むはずだった。だからジョセフ様が入られるのは問題はないのだ。たとえ上半身が裸でも。

「ど、どうされたのですか?」

 声を聞いてセオとメイリンが駆けつけてくれた。

「ジョセフ様、未婚のお嬢様の前でそんな格好・・・」

 状況を理解してくれたのかメイリンが呆れた顔で言ってくれた。

「いや、しかし・・・」

 私は慌てながらも水を差し出す。受け取ったジョセフ様はゴクゴクと一気に飲み干した。

「お嬢様、お休みになれませんでした?」

 セオが不安な顔をしている。普通の貴族の令嬢なら1人で眠るなどありえないかもしれないが、私なら平気だ。むしろありがたいことだ。今までは夜中に両親や弟がわざと騒いで私を眠らせないようにしたり、朝早くというより夜中のうちに使用人に起こされて仕事をさせられるということがよくあったのだ。全く起こされずに一晩眠れるなんて、ここは天国かと思うくらいである。

「よく眠りましたわ」

 私はにっこりと微笑む。受け答えの時は笑顔で、というのは親の教えだ。

「我々は年寄りで朝は早いので」
「ちょうど食材が届いたので受け取っていましたの。毎朝この時間に来るようです」

 毎朝来るとは勤勉な商売人だ。家には3日に1回しか来なかった。そのため食材が足らなくなるとよくお使いに行かされた。貴族のお嬢さんが商店に行くと安くしてもらえると使用人が言うので、両親がいない時は仕方なく行っていたのだ。あまりに頻繁に行くので顔を覚えられてしまい本当に貴族の娘か不審がられたが、それでも安くしてくれたし時々はお菓子をこっそりもらったりした。こう考えると私は本当に貴族の娘だったか自分でも疑わしい。

「食材ですか。私も見ていいですか?」

 今日は何を作ろうか、テンションが上がる。

「もしかして、朝もお作りくださるのですか?」

 メイリンが驚いたように私を見ている。え、作らせてもらえないの?と、私も驚いてメイリンを見た。

「だめ、ですか?」
「いや、お願いしよう」

 横にいたジョセフ様に言われ思い返す。ジョセフ様はまだ半裸の状態で立っていた。どこか嬉しそうな顔をしている。気のせいかもしれないけど。

「お寒くありませんか?」

 目を逸らしてしまったが、それは許してほしい。

「お早く着替えてください。お嬢様に失礼ではありませんか」
「そうですよ、今のジョセフ様は立派な変態です。未婚のお嬢様の前にそんな格好でいらっしゃるなんて」

 変態って言い過ぎではないのかと思ったが、2人に叱られるジョセフ様は小さな子どものようにも見えてどこか微笑ましかった。





 
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