婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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「いいお嬢様よねぇ」

 そう言いながらもメイリンは浮かない顔をしている。

「そうだよなぁ」

 セオも腕組みしたまま、顔つきは沈んでいる。朝食後、ジョセフは出かけて行った。ライラはご機嫌よくそれを見送った後、洗濯をするのだと張り切って部屋に戻って行った。何度もメイリンが止めたにも関わらず、ライラは自分がやりたいからと言い張りメイリンも折れることになったのだ。

 彼らはジョセフから、王命により婚姻することになったと手紙をもらい駆けつけた。ジョセフは元々口数が少ないうえ、今は任務をこなすのに忙しくまともに話す時間も取れない。
そのため、足りない情報を埋めるのは2人の想像しかなかった。

 当初2人はライラのことを王妃様のお気に入りの令嬢なのだと思っていた。ジョセフの功績の褒美として婚姻を許されたのだと思ったのだ。しかし彼女に会ってわからなくなった。

 貴族の令嬢であれば、使用人もつけずたった1人で来るなどあり得ない。持ち物もごくわずか。ドレスや宝飾品も持って来ていない。王妃のお気に入りであれば、そんなことはないだろう。では彼女は何者なのだろうか。

「子爵家のご令嬢と聞いてはいたが・・・」
「なんで掃除ができるのかしら」

 ライラは来てすぐに掃除をして部屋を整えていた。蜘蛛の巣が頭についているのに、それを厭わずただひたすらに床を磨き上げていた。その手腕はベテランの使用人のようであった。

 貴族の家の娘が自分で掃除をするなどあり得ない。そういったことは使用人がするからである。自分でやってしまえば、あの家は使用人も雇えないのかと後ろ指を指されてしまう。ライラの家がそこまで落ちぶれていたとは思えない。

「料理の手際も恐ろしくいいのよ」

 メイリンは朝見たことを話した。ライラは包丁で野菜を刻みながらメイリンと話をした。時々は手元を見ない時もあったうえ、手順も流れるようにスムーズであっという間に料理を仕上げていった。

「貴族でも本人が好きというならやらせる家もあるだろう」

 確かに、通常貴族の令嬢は料理はしない。だが本人がやりたいというなら、それを尊重する家もないわけではないだろう。

「そんなレベルじゃないのよ。ステラよりも上よ、あれは」

 興奮したようにメイリンが出した名前は、クルーソン家の料理人であった。ステラは10年近くクルーソン家で料理を担当している。彼女よりも上ということは、ライラはどれだけの経験を積んでいるのだろうか。

「なるほど」

 セオは腕を組み直すと、眉間に皺を寄せた。彼はライラを王妃付きの侍女だったのだと考えていた。王妃様お付きの侍女は特別で、きっと掃除や洗濯などもできないといけないのではないかと思ったのだ。全て人任せの貴族のご令嬢では、ジョセフのような騎士の妻は務まらないだろう。その辺りを踏まえて王妃様はライラを推薦したのだ。彼はそう思った。

「ともかくだ、ジョセフ様の様子を見たかい?」
「えぇ、あのジョセフ様がねぇ」

 2人はニンマリと見つめ合って笑った。

「食事中のお嬢様に見惚れて食べることを止めるなんてね」
「そうそう、あのジョセフ様がニマニマと笑っているなんて」

 ジョセフは他人から見ると感情のない人間と思われていた。事実あまり表情が変わることはない。小さい頃からそうだったのだが、決して感情がないわけではない。2人は彼が生まれた時から仕えているため、彼のことはよくわかっていた。ジョセフは今まで見たことがないくらいにテンションが上がっている。鼻の下を伸ばしてデレデレした様子を見せている。彼らしかわからないのだが、彼は明らかにライラにベタ惚れ状態なのだ。

 良い人を紹介してもらえた。2人は王妃に感謝したのだが、ひとつミスを犯している。それはこの土地が新婚には適さない場所であるということである。街から離れた僻地。ただひたすら高原が広がっている。そんな場所に宿舎が立っているのだ。これではいずれ、ライラは嫌になってしまうのではないか。

 クルーソン家では結婚に関して本人の意思に沿うという考えがあり、貴族にしては珍しくジョセフの兄も婚約していない。そのせいもあり女性と接する機会も少なかったので、ジョセフは女性を褒める言葉も知らない。そもそも人に気をつかう性格でもないため、ライラのために何かをしようと積極的には考えないだろう。

 2人の関係が破綻しないよう、自分たちが動けばいい。それが使用人というものだ。彼らはそう心に決めた。

「ジョセフ様が幸せならいいわね」
「そうそう、いいお方に巡り会えたものだ」

 彼らはそう言ってもう一度笑い合った。ライラが何者でも構わない。王命は覆すことはできないし、ジョセフは彼女に夢中なのだ。ライラがジョセフを見限らないよう尽力しよう。

「大旦那様にもいいご報告ができるぞ」
「そうねぇ」

 2人は呑気にそんなことを言い、自分たちの仕事に戻っていくのだった。
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