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しおりを挟むジョセフ様のお許しが出たので午後からは宿舎の掃除に取り掛かることにした。何を見ても驚かないようにと念押しされたのだが、何があるというのだろうか。ちょっと、いや、かなりドキドキしている。
「それでは参りましょう」
セオに言われ宿舎に向かう。それぞれバケツや箒、雑巾を持っている。
「ライラ様はジョセフ様の奥方になられるお方です。それなのに何故掃除など・・・」
メイリンがずっと愚痴をこぼしているが、聞かないことにする。徹底的に磨き上げてやる、と私は決意しているのだ。嬉しくてたまらない。ニヤニヤしてしまうのを抑えているくらいである。
汚れはどんな種類のものかしら。訓練後の靴で隊員の人は入るだろうから、きっと泥汚れはあるわね。男性ばかりだと掃除もおろそかになるだろうから埃も溜まっているに違いないわ。
そんな想像をしてまずは何から始めようかと頭の中で色々と考えていた。そんなことをしていると宿舎に着いてしまった。
「ライラ様、よろしくお願いします」
宿舎の入り口にタイロンが立っていた。私を見ると深々と頭を下げてくれる。
「本当によろしいのでしょうか」
タイロンはチラリと私を見ると、オドオドした様子で落ち着きがない。
「いいのよ、いずれはやらなくてはいけないのだから」
そうだ、先延ばししても無意味である。今やれることをやらなくては。
「さぁ、やりましょう」
私は張り切って中に入った。が、入ってすぐ立ち尽くしてしまった。偉そうに言っていたのだが、あまりの光景に絶句してしまったのだ。
私がそこで見えたもの。何かわからないが荷物が散乱しており天井近くまで積まれている。ようやく人が1人通れるくらいの道ができているが、それ以外は全て荷物。
「これは・・・」
声が出ないくらいの衝撃。空気も澱んでいるし、おかしな匂いもする。なんだか目がシパシパして涙が出てきた。
「前任の人たちがいらない荷物を置いていったらしいんです。代々そういったことをしていたらしくて、ついにこんなことに」
タイロンが恥ずかしそうに報告してくれた。これでは会議などできないだろうし、住んでいる隊員の方々は気持ちが休まらないであろう。これではいけない。このままにしておけばきっと将来大変なことになる。
「とにかく、やりましょう」
気持ちを切り替え、私は口と鼻を布で覆った。戦闘開始という気持ちになる。そうだ、ここは私の戦場だ。ジョセフ様は国を護るために戦う。私もここで戦おう。やりがいのある仕事を与えてもらって感謝だ。こんなこと経験できない。
まずは荷物を外に出していくことにした。使わなかったのだから必要のないものだとは思うが、もしかしたら勝手に捨てていいものではないかもしれない。そんなわけで何があるのかを記録することにした。そんな打ち合わせをしていたら。
「タイロン、声をかけてくれて良かったのに」
現れたのは隊員の方が4人。今日は休みらしいが、やることもなく部屋でゴロゴロしていたそうだ。力仕事はお任せしてしまおう。セオが指示を出しながら隊員の人が荷物を外に出し、タイロンがそれを記録することになった。
邪魔になっても仕方がないのでメイリンと奥にある厨房へ行く。埃っぽいし、薄汚れている。ここで食事を作っているとは信じ難い。早速磨き出す。
「ライラ様、手際がよろしいですわね」
メイリンに褒められ、私も気分よく手を動かす。
「そう?掃除は結構好きなのよ。綺麗になっていくのって快感じゃない?」
鼻歌まじりに私は床を磨いていた。少し磨くだけで綺麗になっていくので楽しい。そんなわけで張り切っていたら、床磨きも終わってしまった。セオとタイロンたちはまだ荷物を出している。何がどれだけあるのか、終わる時が来るのかと心配になってしまった。
「何か作っておきましょう」
心配してもしょうがないので、私はクッキーを作ることにした。作り置きしておけば、夜食代わりになるだろうと思ったのだ。小麦粉は多めにあったので遠慮なく使わせていただく。
「そろそろ休憩を挟んだほうがよろしいかと思います」
夢中になって焼いていたら、メイリンから声をかけられた。どうも集中していると他のことが気にならなくなる。私の悪い癖かもしれない。反省しながらも彼らに声をかけようとのぞいたら、そこには何故だかジョセフ様が立っていた。
ジョセフ様がここにいるということは、お仕事は終わったのかしら、そもそも時間は何時?忘れていたけど夕飯の支度もまだだし。掃除は簡単に済むと思っていたけど長丁場になるわね。数日かかるかもしれないわ。と、私は一気に色々なことを考えてしまった。
ジョセフ様はセオと何やら話している。しばらくするとタイロンがジョセフ様へ持っていた紙を渡した。床に敷き詰められていた荷物の記録だろう。まだ途中だろうけど。それに目を通すとジョセフ様は何やら指示を出したようだ。タイロンが何度もうなづいていた。
やはりジョセフ様はかっこいい。見惚れてしまった。あの方が私の旦那様。王命による、だけどね。王命じゃなければお会いすることもできない方なのだ。王命でもいいではないか。心は私のものではないけれど。そんなことを思うと、心の奥の方が苦しくなっていく。その苦しささえも今の私は無くしたくない、そんなふうに思えたのだった。
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