婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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 それから1週間かけて宿舎の掃除を行った。毎日休みの隊員の人が代わる代わる手伝ってくれた。ついに最後の荷物を出した時は思わず拍手してしまった。何もない空間に喜んだ隊員の人たちは寝転んだり、ゴロゴロと転がったりした。さすがに私はできなかったけど、少しだけやってみたいという気持ちになった。

 隊員の人とも親しくなった。皆さんは本当に親切でいい人ばかりだった。タイロンには毎日料理を教え、彼はみるみるうちに上達していった。レシピはまだ少ないけどそれを確実に作れるようになったら、次の料理を教えていこうと思っている。

 何もかもが順調だった。ジョセフ様とは3食一緒に食事をしている。セオとメイリンも一緒だ。2人は時々私たちを2人きりにしようとしたが、ジョセフ様が頑なに4人での食事を強行した。私もそれに賛成だった。実際2人きりになったらどうしていいかわからないのではないか。間が持てず戸惑ってしまうのではないか。そう思っているので、2人きりにならないことが正解と思った。

 ジョセフ様は私をどう思っているだろう。

 時々そんなことを考えてしまう。王命だから結婚することは仕方ないであろうが、少しでも好印象を持ってもらえればと思っている。私はジョセフ様を傷つけたくはないのだ。妻として好ましくなくても、使用人の1人とでも思ってもらえればそれで良かった。

「ライラ様、こちらを」

 そんなある日、メイリンが封筒を差し出した。

「これは?」

 中身を開けると、それはジョセフ様のお母様からのお手紙だった。

「そろそろお式の準備に入らないといけませんでしょう?ジョセフ様との仲も順調のようですし、近くクルーソン家にお越しいただきたいとのことです」

 手紙は綺麗な字で丁寧に書かれていた。きっかけは王命ではあるけど良い縁で結ばれることを望んでいる、早く会って家族の一員になってほしい。手紙はそんな内容だった。

 手紙を読みメイリンの笑顔を見て、私は来るべき時が来たと落胆した。このままここで掃除や料理や洗濯なんかをして過ごしていくわけにはいかないのだろうか。そもそも私はジョセフ様のような立派なお方の妻に相応しくない。

 私ができることといえば、料理や洗濯や掃除。貴族の娘ではあったけど、貴族の家の妻として何をしたらいいかわからない。貴族の娘としてできることは何一つできないのだ。社交界にデビューしたわけでもないし、ダンスができるわけもない。楽器もできないし、絵も描けない。それらはやらせてもらえなかったのだ。

 そう考えたらゾッとした。元々はレナード様の妻になる予定だった。ジョセフ様はそれを知っている。私がそれなりの教育を受けていると思っているだろう。しかし実際は違う。クルーソン家も伯爵だ。何もできない嫁と知ったらさぞかしがっかりするだろう。

 いや、がっかりどころか激怒して然るべき事柄だ。とんだ嫁が来た、と思うのが当然だろう。しかしこれは王命。話が違うと文句を言うわけにはいかないし、離縁もできない。離縁できない以上、他にどんなに素晴らしい女性に出会ってその人との婚姻を望もうとも果たせないのだ。

 今まで本当に楽しかった。ジョセフ様は私の料理を褒めてくれていつも残さず食べてくれた。もしこのまま何もなく過ごせたらどんなに良かっただろう。

 私の気持ちと裏腹にメイリンは嬉しそうだ。

「奥様はライラ様にお会いするのを楽しみにしておいでです。ドレスをたくさん用意されているそうですよ。ここにいてもおしゃれできないし、私も心配しておりました」

 そうか、せめて少しでも見栄えするようにした方がいいのだろう。確かに妻が使用人のようにみすぼらしいのはジョセフ様の恥になってしまう。でも私が着飾っても何もならないだろう。そこらに落ちている棒切れを綺麗にしたとて、所詮は棒切れ。大したものに化けるわけがない。

「明後日時間が取れるので、屋敷に行こう」

 ジョセフ様が夕飯の後、そんなことを言い出したので私は卒倒しそうになった。ジョセフ様は私をクルーソン家に送ってすぐに戻らなくてはならないらしい。そんなに慌ただしく動かなくてもいいのではないかと思うが、そろそろ婚姻の準備をしないといけないと言われた。何もしないままだと王命に背いたことになってしまうのだ。

 家にいる時でもこんなに気持ちが沈むことはなかった。行きたくない。行って全てを壊したくない。ジョセフ様にこれ以上嫌われたくない。心の奥底は泣き出したくなるくらいなのに、私はいつものようににっこりと笑っていた。



 
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