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しおりを挟む「ライラ」
ダイニングの部屋に向かう途中でジョセフ様に声をかけられた。ジョセフ様もいつもとは違う服装だ。紺色のジャケットによく見ると金色の糸が混じっていて、それがジョセフ様の立場を表現しているようだ。高貴な服。そんな言葉が浮かぶ。高貴な人だから高貴な服が似合うのだ。引き締まった体型にピンと伸ばした背筋。仕事中は緊張した目つきをしていてそれが凛々しく感じていたが、今は優しい目でこちらを見ている。
素敵・・・。
心の中でそっと呟く。本当に彼は素敵な人だ。私には勿体無いくらい。それに比べて私は・・・。なんだかまともにジョセフ様の顔が見られなくなった。思わず俯きそうになる。
「とても綺麗だ」
しかしジョセフ様が私のそばに来て耳元で囁いた。思わず顔を上げてジョセフ様を見つめてしまう。優しい瞳で私を見返すジョセフ様。
今なんて言った?と、思わず聞き返したくなった。でもジョセフ様は貴族としてきちんとした教育を受けた方。着飾った女性を見たらお世辞として褒めるのだ。決して自惚れてはいけない。私は気持ちを引き締める。貴族の男性が女性を褒めるのは当たり前のことなのだ。・・・でも、レナード様に褒められたことはなかったけど。それは当たり前ね。褒められるほど会ってはいなかったもの。
「今まで忙しかったが、これから少し時間もできる。母にも頼んでいるが、これから準備をしないといけないな」
レナード様はなおも話し続ける。耳元で話すのでくすぐったいけど、避けるわけにもいかなくなり我慢している。
「準備?」
ジョセフ様がじっと私を見つめた。まるでおかしなことを聞いたみたいに。
「結婚式の準備だ。新居についても決めないといけない。セオとメイリンも引き続き仕事をしてもらおう」
「結婚式?」
思わず疑問形になってしまった。何となく式はしないような気がしていた。ジョセフ様が式をしたがるとは思えなかったし、私は今まで通り宿舎で家事をして過ごせればそれでよかったのだ。
「ライラはどうしたい?是非意見聞かせてもらおう」
ジョセフ様が何故か張り切ったように言う。言い方が隊を率いるリーダーらしく、どこか会議を始める議長のようだった。
「ゆっくり聞きたいところだが、あまり時間がない」
そう言ってジョセフ様は小さくうなづきながら、私に手を差し出してきた。私もその手に自分の手を乗せる。ジョセフ様のエスコートで私たちはダイニングルームへ向かった。
クルーソン家のダイニングは落ち着いた場所だった。人によれば質素とか地味という表現をするかもしれない。テーブルや椅子なども装飾を抑えているが、素材は高いだろうなと思う。目利きではないからわからないけど、私はこちらの方が落ち着く。実家のダイニングは装飾が馬鹿みたいにゴテゴテついていて、掃除が大変だった。そこで食事することはあまりなかったけど、入るだけで目がチカチカした。
正面にはお義父様とお義母様が並んで座り、向かって右側にはお義兄様たち、左側にはジョセフ様と私が座る。目の前のお義兄様たちにいつも通りの笑顔を向けたが、お2人は強張った表情をされた。お義父様も同じような表情でぎこちなく会釈をする。
やはり良く思われていないのだ。私は悟った。本来ならここに座れる人間ではないのだ。涙が出そうになるのを堪え、とりあえずテーブルの板目を見て誤魔化す。
「まぁ、ライラったら。とても綺麗だわ。そう思うでしょ?」
お義母様が大袈裟なくらいに褒めてくれる。
「あ、ああ。王妃様に推薦いただくだけはある」
「良いご縁をいただき、ジョセフも喜ばしいことだな」
「素晴らしい義妹で安心しました」
聞かれたお義父様、お義兄様たちが慌てたように言うのを聞いて、私はなおも笑顔を向ける。
「ライラ、この家ではあまり女性が訪ねてきたことがないの。特にライラのような若い女性をお招きしたのは初めてなのよ」
「エ、エマ・・・」
「こんな綺麗な女性とお食事するのが初めてなもんだから、みんな緊張しちゃってるの」
「母上」
お義母様に言われて、狼狽しているお義父様にお義兄様たち。言われていることが嘘か本当かわからないけど、話題を変えるように皿が置かれた。
「料理長のローガンが張り切ったのよ。いただきましょう」
目の前のお皿には美味しそうな野菜料理が乗っていた。やはり伯爵家の料理は私が作るものとは違う。私の拙い料理を食べさせられてジョセフ様には申し訳なかったな、と思いながらいただく事にした。
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