婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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 任務が長引いているのかジョセフ様はまだ戻られない。どんな任務なのか教えてもらえないし、どのくらいで戻られるのかもわからない。そのため、戻られたらすぐにでも式を挙げられるようにと結婚式の準備を続けている。正直、3回くらい式をしたのではと思うくらいの気持ちになっている。

「考えてみたのだけど」

 今朝もお義母様は片方の頬に手を当てて小さくため息をついた。毎朝、お義母様はため息をつく。

「あのレースは地味じゃないかしら」

 あのレースとは、昨日決めたドレスの胸元のレースのことである。国中からサンプルを集め、吟味に吟味を重ねた。山盛りになったサンプルは同じものがいくつか混じっているのではないかと思うほどだったが、お義母様もメイドたちも区別がついていたようで分からなかったのは私だけのようであった。数日かけて決めたレースであったが、一晩寝たらお義母様の意見が変わってしまったようである。

 お義母様の言葉を聞くと、そばにいるオリビアが大きくうなづく。

「私もそう思っておりました!」

 そしてまた議論が始まる。

「少し流行遅れな気がしたのです」
「そうよねぇ」
「ライラ様のお綺麗なお肌に負けず、なおかつ引き立たせるレースはこちらの方がよろしいのでは?」
「でもそれだと、裾とのバランスがおかしくならない?」

 と、議論はどんどんエスカレートしていき、ゼロから選び直しになったりしている。そしてそんなことが毎日続いている。私はそのたびに試着させられたり、意見を求められている。お義母様もメイドたちも疲れを見せないどころか、水を得た魚のように張り切っている。

 そもそも、ドレスは華やかでも私は地味なのだ。絶対ドレスに負ける。ドレス選びが白熱すればするほど、ドレスを着るのが怖くなってくる。そんな心が読めるのか、メイドたちによって毎日顔だの髪だのを磨かれることになった。

「本来でしたらライラ様のお世話はメイドがすべきことです」
「基礎がきちんとされておられますが、やはりお手入れは致しませんと」

 と、オリビアとメイリンに言われて私には数人のお世話係のメイドがついた。

「ライラ様のお肌はまるで高級な陶磁器のようですわ」
「シルクのようでもございますわ」
「そうですわ。私、お手入れさせていただいて気持ちいいですもの」
「私もです。これならジョセフ様も・・・」
「まっ、はしたない」

 お手入れをされながらそんなことを言われ、メイドたちが笑い合う。真っ赤な顔をした年若いメイドが軽く叱られる。彼女たちとも打ち解けたように思う。私なんかに専属のメイドなんてと思ったけど、メイドもつけられない家かとクルーソン家が言われてしまうのだ。


「ライラ様、お疲れではありませんか」

 メイリンがお茶を淹れてくれたので笑顔で受け取る。

「大丈夫よ」

 毎日ドレスのことやアクセサリーのことを話して1日が終わる。無意味なような1日が続いている。でもそれは私に余計な心配をさせないためなのだ。それが分かっているので私はお義母様と終わらないドレス論争を続けている。

「お昼は鶏肉のサンドイッチにするわね」

 昼食は私に作らせてもらっている。奥様になられる方にそんなことは、と言われたのだが、せめてこれだけはと粘ってなんとか作るようになった。鶏肉のサンドイッチはジョセフ様もお好きだった。私が一口食べ終わる頃、ジョセフ様は1個目を食べ終わって2個目に手を伸ばすところだった。ジョセフ様の驚いたような、はにかんだような表情が思い出され、思わず口元が緩んでしまう。

「ジョセフ様、お元気かしら」

 つい口からこぼれ出た。思わずメイリンを見てしまう。メイリンは柔らかな表情で見返してくれた。

「お元気でございますよ」

 そうだ、そうに違いない。ジョセフ様が戻られたら、サンドイッチを山盛り作ろう。呆れるくらいにお肉を焼いて、テーブルの上をお皿でいっぱいにしよう。「お帰りなさい」と言って「お仕事、お疲れ様でした」と明るく言おう。

 想像すると楽しくてやめられなくなった。ドレスを着た私に何と言ってくれるだろうか。もしかしたら何も言わないかもしれない。でも分かっている。何も言わなくても優しい目で私を見てくれるはずだから。

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