婚約破棄のその後に

ゆーぞー

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「今日も目覚めないか」

 あの後すぐにレナードは入院した。医師の話ではかなりの大怪我であり、元通りの生活は難しいとのことだった。レナードはずっと眠り続けており、ジョセフは毎日様子を見にいくが何の変わりもないことを知らされる。静かに眠っているレナードを見ていると、このまま目覚めない方がいいのではないかと思うことがある。医師の話では暴行の加害者とは思えないとのことだが、真相はレナードに聞かなくてはわからない。

 メリアの行方はわからないままだ。身代金の支払いを拒んだせいか、リオンヌ家にも連絡はない。このままメリアのことは諦める、リオンヌ家からはそう通達された。メリアに確かに素行も悪くお騒がせ者だ。だが実の家族から見捨てられるのも気の毒である。確かにレナードとメリアはライラを傷つけたが、ライラはそのことをどう思っているだろうか。知らせるつもりはないが、もし2人の今の状況をライラが知ったらきっと胸を痛めるに違いない。ジョセフはそう確信していた。

 進展がないのであれば、ジョセフは家に戻りたかった。結婚式も控えている。いいかげんライラの手料理が食べたい。そんなことを考えている自分にジョセフは驚いた。今まで仕事を優先してきた。なんでもいいから口にしておけば空腹は解消される。具体的な何かを食べたいと思うこともなかったのだ。

 しかし今考えることはライラの手料理だ。鶏肉やローストビーフを挟んだサンドイッチ。大きなフライパンで焼いたオムレツ。ステーキはさまざまな味付けで出してくれた。スープも野菜が柔らかく煮込まれていて身体中に染み込むような美味しさだった。

 テーブルの上にはたくさんの皿。さまざまな料理の先に見えるのはライラの笑顔。いつも微笑んで自分を見つめてくれる。だからこそ、ジョセフは仕事をする。彼女の笑顔を永遠に見るために・・・。

 思い出したら居ても立ってもいられない。さっさと家に帰ってしまおう。進展があれば連絡が来るだろう。早くライラに会いたい。ライラと一緒に食事したい。

 病室を出て出口に向かっていく。すると・・・。

「クルーソン様!」

 後ろから誰かが追いかけてきた。看護師だ。

「レナード様が目覚めました!」
「何?」

 慌てて病室に戻る。ドアの開いた音でレナードが首を動かした。

「クルーソン・・・」

 小さい声だが確かに自分の名を呼んでくれたことに少しだけ感動した。レナードの目は力がこもっているようで確かな何かを感じさせた。

「お・・・れは・・・」

 レナードは何かを話そうとしている。耳を近づけてジョセフは聞き出そうとした。

「診察をしますので部屋から出てください」

 知らせを聞いた医者が飛び込んできたため、ジョセフは何も聞くことはできなかった。部屋を出る時、ジョセフは振り返ってレナードを見た。レナードはじっとジョセフを見ている。口が動き何かを言おうとしているのにそれが何かわからなかった。

 レナードの聴取は時間をかけて行われることになった。いつ容体が変わるかわからないと医者から言われたためだ。ジョセフは任務を解かれ家に戻るように言われた。

「そなた、式の準備はできておるのか」

 帰宅できると決まりさっさと出ていくつもりだったのに、わざわざ陛下に呼ばれジョセフは言われた。レナードの件で呼び出されなければ、今ごろ式は終わっていたはずである。しかしそんなことは言えない。

「で、新婦はどうだ?うまくいきそうか?」

 ニヤニヤした笑いを浮かべ陛下に聞かれる。ライラを汚されたような気さえして、ジョセフは不快に思った。だがそんなことを言うこともできないし、そんなふうに思ったことも悟られるわけにいかない。いつも通り、曖昧に言葉を発してその場を誤魔化そうとした。

「前に会った時と変わったな」

 陛下を見ると至って真面目な顔をしていた。

「王妃が案じていたが、心配は要らぬようだ」

 何のことだろうか、何か誤解されているのかもしれない。不審に思い陛下の様子をジョセフは窺った。

「朴念仁と思っておったが、そうでないようだな」

 ますますわからない。

「ふふっ、目は口ほどに物を言うと言うが、誠であるな」

 ジョセフは思わず瞬きをした。

「良い良い。さっさと帰れ」

 陛下はそう言って手を払う。何だかよくわからないが、帰れと言うのだから帰ろう。ジョセフはそう思い帰路につくのだった。


 
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