ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

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「これをお探しでしょう」

 そう言ってジョンさんが手渡してくれたもの。それはフォークとナイフだった。ありがとう、ジョンさん。と、お礼を言いかけて止まってしまった。ジョンさんが手渡してくれたフォーク。それはフォークと言えるのだろうか。形状がアルファベットのYなのだ。思わずマジマジと見てしまった。

 それにナイフ。先端が小さく彫刻刀のような、医者が使っているメスのような。とにかく私が知っているナイフではなかった。これでお肉とか切れるの?すごく大変じゃないの?優雅じゃなくなると思うけど。

 でもこの世界ではこれが普通なのだろう。私は満足できないけど。やはり自分の世界のナイフとフォークじゃないと食べた気がしない。いや、食べた気になれたとしても作ってくれた人(喫茶店のマスター ここにはいないけど)への冒涜ではないだろうか。

 マスターの顔を思い出す。就職してからずっと、何かあれば通った喫茶店。仕事でミスした時、逆に仕事でうまくいった時、同僚が寿退社した時、ちょっと憧れていた先輩が結婚した時。何かあった時はマスターのハンバーグランチを食べたんだ。今一番食べて気持ちを落ち着かせたい。私にとっては精神安定剤ともいえる食べ物なのだ。

 私は受け取ったナイフとフォークを握りしめた。美味しく食べるために妥協をしてはいけないのだ。あんなチョけたようなもので食べるのであれば、棒1本で食べた方がマシ。

「これで食べられます」

 そうしてできたナイフとフォーク。1組は金色で柄の部分にバラの彫刻がしてあり、花の中心部分にダイヤを埋め込んだもの。このダイヤも何となく頭に浮かんだのだが、本物かどうかは不明。ダイヤっぽいもの、が正解と思う。もう1組はシルバーで同じくバラの彫刻。ダイヤではなく真珠にした。この真珠も真珠っぽい何か、である。

 残り2組はシルバーで何の彫刻もしてないシンプルなもの。ちなみに金もシルバーも色がそうであって実際は違う。シルバーなのかステンレスなのか金メッキなのか。材質のことはよくわからない。

 ダイヤは陛下で真珠はダン様、残りはジョンさんと私でいいだろう。あ、でも私とジョンさんが同じでも構わないのだろうか。この世界、私は最下層の平民なので。と少し卑屈になってみたが、実際はどうなんだろうね。文句言われたら、木で作り直そうかな。

 なんて、思いながら手渡していると。陛下もダン様も何も言わない。あれ?何かマナー的に間違えた?慌ててジョンさんを見たら、やはり呆然とした様子。でもなぁ、この世界のマナーなんてわからないし。国王陛下とか王族とかって、会ったこともない殿上人だよ。そりゃ、失礼があっても仕方ないよね。その失礼を許すくらいの気概がなければ、王族じゃないんじゃないの?

 心の中でそんなことを思いながら、私は気にすることもやめた。とにかくお腹が空いている。ハンバーグを早く食らいたい。ずっといろいろあって疲れているんだ。早く食べたい。食べたい、食べたい。

「リサ、もう諦めました」

 ようやく話し出したかと思えば、ダン様は薄く微笑んでいた。目は遠くを見つめている。

「あなたに魔法を制限することは無理でしょう」

 うん、そうだね。自分でも魔法が簡単にできてしまうから驚いているよ。でももう仕方ないよね。止めることができないんだから。

「リサ、疲れていないか?」

 陛下の声がとてつもなく優しく聞こえる。実際とても心配しているのだろう。とても優しい目をしていたから。

「大丈夫です。何ともありません」

 私は笑った。

「そうか」

 陛下も笑っている。芝居がかっていない、自然な笑顔だった。

「それより、これは・・・」

 陛下はナイフとフォークを見つめている。

「魔法でちょっと変えちゃいました。使いやすいかと思って」

 てへ、と笑いながら反応を見た。

「素晴らしい出来ですね、ティーセットも素晴らしかったけど」

 ダン様が惚れ惚れした顔でナイフを掲げている。目つきは熱を帯びていて、マンガだったらきっとハートマークになっているだろう。

「これは王妃にも見せてやりたい・・・」

 陛下がポツリと言った。では王妃様の分も作ろう。まったく同じものがいいか、それとも少し変えてペアということがわかるようにした方がいいか。悩むところである。が、今はそれよりも。

「いっただっきまぁす!」

 私が元気よく言って、さぁハンバーグを切ろうとした時。

「お待ちください!」

 ジョンさんがまさかの待ったをかけたのだった。
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