ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー

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「リサ」

 王子が走り寄ってきた。満面の笑みである。うわぁ、この笑顔。マンガで何度も見た。この笑顔でリサは自分に気があると確信するのである。実際そんな感じでマンガは進行していた。だが途中から手のひらを返し、王子はリサに興味なんてなかったと切り捨てるのである。

 騙されてはいけない。と、私は警戒する。気を許してはいけない。親しくなるべきではないのだ。相手は王子だし、婚約者がいる身。現実的ではない。

 だが、今目の前にいる王子は薄汚れていた。顔にも手にも怪我をしている。簡単に怪我するなと思うが、それだけ真剣に向き合ったのだろう。

「聖女様。今日もお目にかかれて光栄でございます」
「攻撃の乙女らしい、素晴らしい采配でした!」

 サイモンとポールも怪我をしているのにやたらと元気である。特にポールは頭から血をダラダラと流しながらもニコニコしている。

「だ、大丈夫ですか?」

 さすがに気になる。だがポールは流れ出る血を拭うこともしない。

「え?あぁ、大丈夫ですよ。俺は血の気が多いってよく言われますから、少々流れ出たところで問題ありません」

 キッパリハッキリとポールは答える。それは違うんじゃないかと思ったが、ポールに言っても無駄そうな気がする。それよりも笑顔が血だらけで怖い。

「な、治しましょう」

 見ていられなくて、私は心の中でヒールとつぶやく。アニメやラノベでよくあるアレである。周囲に白い光が広がる。正直こんなに簡単に魔法ができてしまっていいのだろうか、と気にはなるが怪我している人を放っておくこともできない。
    
「お、おぉ!」

 ポールが腕を振り上げて大声を出す。その声を合図にあちこちで同じように腕を上げる人が続出した。

「怪我が治ったぞ!」
「疲れもないぞ!」
「俺たちは無敵だ!」
「これから24時間働けるぞ!」
「うぉぉぉ!」

 この反応は何?治療のつもりだったけど、違う何かを与えてしまった?それよりも24時間働くってヤバいでしょ。ブラックというより漆黒でしょ。そんなに働いたらダメだから。

    騒がしくなる集団が怖くなって横にいる王子を見ると、うんうんと満足げにうなづいている。え?何でうなづいてるわけ?独裁国家?

「騎士団の結束を見ると安心するなぁ」

 王子、自分が何言ってるか理解しろ。止めろべきたろ。上司だろ。この国イかれてるぞ。誰か修正しろよ。

    心の中で思いっきり文句を言ってみたが、当然誰にも伝わらない。

「働くことしか脳がないんだから、せいぜい頑張ることだね」

 おいおいおい、サイモン。あんたまで何言ってるの?宰相の息子なら何とかしなさいよ。こんなの普通じゃないんだから。賛成している場合じゃないよ。

「リサ、また魔法を使ったんですね」

 もう何回聞いたかわからないダン様の呆れ声。そしてすでに見放したかのような目。でも使わないといけない状況だったのだ。仕方ないでしょう。

「もういいです。とりあえず、これからのことを相談しましょう」

 そうですね、未来に向けて相談しましょう。それこそが実りあることです。私は王子に背を向けダン様に向き直る。

「魔獣がいつ目覚めるかわからないので、大型の魔獣からノートンが観察を始めています」

 見ると、魔獣の周りを数人の屈強な人たちが取り囲んでいる。おそらく冒険者たちだろう。万が一魔獣が目覚めたりして暴れた場合の対策なのだろう。ノートンはバカでかい熊みたいな魔獣を熱心に観察していた。そばにはマジフカが立ち、ノートンを守っている。

「魔獣を研究する者は少ないのでノートンは貴重な存在です」

 ダン様がしみじみと語る。

「他の国ではおそらく研究が進んでいるのでしょうが、我が国ではできずにいました」

    ノートンはペンを片手に魔獣を眺めている。時々背伸びして魔獣の頭の上を見たり、しゃがみこんで足を見たりしているのだがへっぴり腰なのが見ていて歯がゆい。

    その様子を見ていると、魔獣の横で何やら浮かんでいるのが見えた。マンガのフキダシみたいなもので、何やら文字も見える。よく見てみよう。私は近づいて文字を読んだ。

【ブラックウルシュ リサの魔法により睡眠中。翌日目覚める予定】

 「ブラックウルシュかぁ」

    思わず口に出してしまうと、またもやダン様に睨まれた。もういい加減にしてほしいと思ったのだった。


    



 
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