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「ブラックウルシュはもう少し牙が短いです。これはブラウンウルシュでしょう」
ダン様はそう言うが、フキダシにはやはりブラックウルシュとなっている。牙が長めのタイプかもしれないじゃないの。でも知らない動物だし確証はない。そもそもフキダシが見えてるなんて言ったら、絶対またいろいろ言うに違いないのだ。ここはお口チャック。黙っておこう。
「それにこの森でブラックウルシュが見つかった例はありません」
ダン様は誇らしげにニヤリと笑う。何だか得意げだ。確かに魔獣のことは私より詳しいだろう。私なんぞに指摘されるのはプライドが許さないに違いない。これは余計なことを言わないに限る。男のプライドを壊したら、立ち上がるのに時間がかかるからね。
正直言って私はブラックでもブラウンでもどっちでもいいのだ。ウルシュ本人だってそう思っているだろう。それよりもいつ解散になるかのほうが気になる。さっさとここから逃れたい。でも解散になったら授業に戻ることになる。なんかそれも面倒だ。
「ウルシュが出るのも珍しいですけどね」
いつの間にか王子がすぐそばにいた。ニコニコしている。何がそんなに嬉しいのだろうか。王子はニコニコしたまま私のほうにススス、と寄ってくる。うわぁ、面倒くさい。それで私も一歩遠ざかる。王子も近づく。私遠ざかる。
もしもこんな2ショットを誰かに目撃されたらどんなことになるか。教室にいたあのクラスメイトたちを思い出すと、いないはずなのに罵詈雑言が聞こえた気がした。恐ろしい話である。しかし私がどんな気持ちでいるか。何も知らずに王子は無邪気にニコニコしているわけだが、その笑顔が憎たらしい。
「何してるんですか!」
王子の接近をいかに阻止すべきかとウロウロしていたらダン様に怒られた。これは王子が悪いんです。王子の教育をもっと真剣にやってください。と、心の中で訴える。婚約者がいる身なのだから、行動には自覚と責任を持ってもらわないと困るのだ。私には王子とどうこうなろうとか思っていない。しかし私にその気がなくても周囲から誤解されるのは困るのだ。それは私の身の破滅に繋がるのだから。
とはいえそんなことを話すわけにもいかない。何も言えずに私はダン様を睨んだ。不敬と言われようが関係ない。だが、私の睨みなど関係ないようだ。ダン様の視線は今は魔獣に向けられている。
「さすが聖女様、女性が魔獣についての知識があるとは思いませんでした」
「やはり攻撃の乙女だけあるな」
サイモンとポールがうなづきながら言っている。勝手なこと言うなよ、と思ったが面倒なので横目でチラリと見るだけにしておく。しかしそれを聞いてダン様の目つきが変わった。
「確かに」
ダン様がじっと私を見た。黙ったままだ。怖いよ。
「どこで知識を得たのですか」
静かに、だが威圧を感じる言い方だった。
「い、いや・・・」
フキダシが見えるとは言えない。
「ほ、本で読んで・・・」
とりあえず誤魔化そう。
「本?」
と、ダン様の目がクワッと見開いた。
「どこで読んだのですか?」
ダン様か近づいてくる。思わず後退りしてしまうが、ダン様は構わずズイズイとやってくる。ものすごく近い。
「そ、それは…」
さて何て言えばいい?頭の中でいくつかの回答が浮かぶが、そのどれもが却下すべきものだった。だってネットとか、立ち読みした雑誌でとか、昔借りたマンガでとかあり得ないことばかりが出てきたのだ。いや、あり得なさすぎでしょ。切羽詰まると訳がわからないことになるね。
「やはり、聖女様だから知識は神の啓示で受けるのでしょうか」
「いや、攻撃の乙女は魔獣の知識はハンパねぇのよ」
2人とも私をどういうふうに見ているのか。聖女でも攻撃の乙女でもないぞ。おかしなことを言わないでほしい。
「ど、こ、で!読んだのですか!」
圧。圧が怖い。ダン様の目が怖い。
「そ、それは。孤児院にたまたまあった本で・・・」
「あぁ?」
ダン様の声は、昔見た任侠映画で聞いたような声だった。どう聞かれようと答えることができない。
「そりゃ、魔獣を見たら即わかるのではないですか?」
王子が相変わらずニコニコしながら言うとダン様の目がよりいっそう鋭くなるのだった。
ダン様はそう言うが、フキダシにはやはりブラックウルシュとなっている。牙が長めのタイプかもしれないじゃないの。でも知らない動物だし確証はない。そもそもフキダシが見えてるなんて言ったら、絶対またいろいろ言うに違いないのだ。ここはお口チャック。黙っておこう。
「それにこの森でブラックウルシュが見つかった例はありません」
ダン様は誇らしげにニヤリと笑う。何だか得意げだ。確かに魔獣のことは私より詳しいだろう。私なんぞに指摘されるのはプライドが許さないに違いない。これは余計なことを言わないに限る。男のプライドを壊したら、立ち上がるのに時間がかかるからね。
正直言って私はブラックでもブラウンでもどっちでもいいのだ。ウルシュ本人だってそう思っているだろう。それよりもいつ解散になるかのほうが気になる。さっさとここから逃れたい。でも解散になったら授業に戻ることになる。なんかそれも面倒だ。
「ウルシュが出るのも珍しいですけどね」
いつの間にか王子がすぐそばにいた。ニコニコしている。何がそんなに嬉しいのだろうか。王子はニコニコしたまま私のほうにススス、と寄ってくる。うわぁ、面倒くさい。それで私も一歩遠ざかる。王子も近づく。私遠ざかる。
もしもこんな2ショットを誰かに目撃されたらどんなことになるか。教室にいたあのクラスメイトたちを思い出すと、いないはずなのに罵詈雑言が聞こえた気がした。恐ろしい話である。しかし私がどんな気持ちでいるか。何も知らずに王子は無邪気にニコニコしているわけだが、その笑顔が憎たらしい。
「何してるんですか!」
王子の接近をいかに阻止すべきかとウロウロしていたらダン様に怒られた。これは王子が悪いんです。王子の教育をもっと真剣にやってください。と、心の中で訴える。婚約者がいる身なのだから、行動には自覚と責任を持ってもらわないと困るのだ。私には王子とどうこうなろうとか思っていない。しかし私にその気がなくても周囲から誤解されるのは困るのだ。それは私の身の破滅に繋がるのだから。
とはいえそんなことを話すわけにもいかない。何も言えずに私はダン様を睨んだ。不敬と言われようが関係ない。だが、私の睨みなど関係ないようだ。ダン様の視線は今は魔獣に向けられている。
「さすが聖女様、女性が魔獣についての知識があるとは思いませんでした」
「やはり攻撃の乙女だけあるな」
サイモンとポールがうなづきながら言っている。勝手なこと言うなよ、と思ったが面倒なので横目でチラリと見るだけにしておく。しかしそれを聞いてダン様の目つきが変わった。
「確かに」
ダン様がじっと私を見た。黙ったままだ。怖いよ。
「どこで知識を得たのですか」
静かに、だが威圧を感じる言い方だった。
「い、いや・・・」
フキダシが見えるとは言えない。
「ほ、本で読んで・・・」
とりあえず誤魔化そう。
「本?」
と、ダン様の目がクワッと見開いた。
「どこで読んだのですか?」
ダン様か近づいてくる。思わず後退りしてしまうが、ダン様は構わずズイズイとやってくる。ものすごく近い。
「そ、それは…」
さて何て言えばいい?頭の中でいくつかの回答が浮かぶが、そのどれもが却下すべきものだった。だってネットとか、立ち読みした雑誌でとか、昔借りたマンガでとかあり得ないことばかりが出てきたのだ。いや、あり得なさすぎでしょ。切羽詰まると訳がわからないことになるね。
「やはり、聖女様だから知識は神の啓示で受けるのでしょうか」
「いや、攻撃の乙女は魔獣の知識はハンパねぇのよ」
2人とも私をどういうふうに見ているのか。聖女でも攻撃の乙女でもないぞ。おかしなことを言わないでほしい。
「ど、こ、で!読んだのですか!」
圧。圧が怖い。ダン様の目が怖い。
「そ、それは。孤児院にたまたまあった本で・・・」
「あぁ?」
ダン様の声は、昔見た任侠映画で聞いたような声だった。どう聞かれようと答えることができない。
「そりゃ、魔獣を見たら即わかるのではないですか?」
王子が相変わらずニコニコしながら言うとダン様の目がよりいっそう鋭くなるのだった。
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