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第3章 注目を浴びる『処方』
3.6 ハヤトの情報拡散
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週刊Fに大きくハヤトの記事が載った。
「異世界から帰って来たという青年、自衛隊に入る!」
そういう見出しで、二宮ハヤトの実名を出して、全体的にハヤトの事を揶揄して書いている。記事はそれなりに取材をしているようで、狭山第2中学校及び利根東高校での魔法による身体強化を教えたのがハヤトであるということさらに、いま朝霞駐屯地に滞在しているとまで書いてある。
その上に、二宮家の写真が出ていて、なぜ彼が異世界から帰ったという2カ月後にこのような豪邸に住むようになったか、ということをいやみたらしく述べており。多分、高校で魔法の処方中に生徒がスマホで撮ったものだろうハヤトの写真も載っている。
さらに記事は、豪邸とハヤトが自衛隊の駐屯地にいること、なぞに包まれた“まもる君”を結び付けて、防衛省・政府がなにやら後ろ暗い金を使って、裏でなにか後ろ暗いことをやっているのではないかと結んでいる。問題は、さすがに名前は出していないが、さつきが千葉国大の通い始めたこと、母が専業主婦であり、父が大和製作所に勤務していることまで書いてある。
最初にその記事に気が付いたのは、妹のさつきであり、同じ大学に通っている電車通勤の友人の霧島美和から、電車の中の週刊誌の吊り広告のスマホの映像を見せられたのだ。本日発売とあったので、早速書店に買いに行って中身を見る。
「これ、ちょっと質が悪いわね。いかにも後ろ暗いことをしているように書いて」
言う美和に、さつきは少し動揺したもののまだ落ち着いて返す。
「まあ、こういう風に明るみになるのは時間の問題ではあったのだけどね。特に隠していたわけでないし、お兄ちゃんなんか堂々と異世界から帰ったと言っていたもんね。まあ、魔法の処方のインパクトを考えればよく今まで、こういう騒がれ方をされなかったのが意外な位よ。別にやましいことをしているわけではないもの、慣れるしかないわ」
「でもこの書き方はひどいわ。いかにもハヤトさんのことをほら吹きの悪者みたいに書いて。でもさつきにはこの週刊Fから取材はなかったの?」
美和の問いに、さつきはすこし顔をしかめて返事をする。
「あったわ。学校の帰りに話しかけられて、でもなにか言い方がいやだったから断ったの。中年の男の人できちんとした服は着ていたわ」
千葉国大には、同じ利根東高や、利根市の他の高校から来た1年生がたくさんいるので、学食の外の椅子に座っているさつきを訪ねてやって来る。ほとんどがさつきに魔法を処方されているので、記事のことで心配してやってきたのだ。
「これは、書き方がひどいよ。ハヤトさんがいないと、僕らも魔法による身体強化とまあ知力増強もなかったもんな。まるっきり悪者扱いだ。これは、週刊Fに抗議だ」
ある男子学生の言葉が代表的なもので、皆記事に対して怒っている。
このように、実際に魔法による処方を受けた者は、皆記事に対し怒りを覚え、実際に一斉にその編集部及び会社に抗議の電話、怒りのメールを出している。その数は、あっと言う間に数千に上り、週刊Fのみならず出版社としてF社全体の電話はたちまちパンクし、メールのサンバーもダウンした。
魔法の処方を受けた者は知力が増強するが、それに伴って行動力も上がるのだ。編集長の赤井はその騒ぎに慌てていたが、まもなく上層部の知るところとなり、上階の社長に呼ばれた。社長室で社長の山口が、その週刊誌を持って該当する記事を指して聞く。
「赤井君、この記事なんだな。この騒ぎの発端は?」
「はい、みな二宮ハヤトに対して悪意を持って書いていると抗議する電話です、半分くらいは告訴すると息巻いています」
赤井編集長の回答に山口は言う。
「この程度の記事で、名誉棄損はないだろう。しかも匿名なんだろう?」
「いえ、殆ど名と所属を名乗っています。しかも、殆ど感情的にならず、その内容が極めて理性的で的確だそうです。これは、ちょっと普通とは違います」
赤井の返事に山口はすこし難しい顔になり、考えながら言う。
「名乗っている、しかも感情的にならない。それはすこし厄介だな。しかし、まあそれだけ本が売れるということだからな。しかし、この異世界から帰って来たというのは事実か?」
「本人はそう言っていますし、確かに彼、その二宮氏が魔法の処方を始めに実施したのは間違いないようです」
赤井は答え、山口が考え込んで言う。
「うーん。いささか書き方が悪かったな。その二宮というのに、それだけ人望があるというのは計算違いだ。しかも、やけにその魔法の処方を受けたという連中には行動力があるな」
「ええ、知力が上がるというのは本当らしいですよ。それも5割近く」
赤井が応じて、それに対していささか山口は驚いて言う。「5割!そんなことがあるのか」さらに山口は腕を組んで考えていた、やがて腹を決めて言う。
「赤井、この際、謝れ。この内容では決めつけてはいないので名誉棄損はない。だから、本の回収は無論しないが、抗議をうけて反省しましたと、次回号でお詫びしますと発表しろ。そんな、人より5割も頭のいい何千、何万の連中を相手にできるか!」
「はい、実は私もやばいとは思っていたんです。社長がそう言って頂けるのなら有難いです。今回は、読み違いをして、会社全体に御迷惑をおかけした結果になり申し訳ありません」
赤井は、すこし頭の薄い社長に向かって、深々とやはり少し薄い頭を下げる。それを、社長は一応は宥めるが、尚も対処を指示する。
「まあ、俺も同じようなことをやって来たんだ。しかし、今回はそれだけで収まるとは思えんな。これで、今週号はあっという間に売り切れるだろうよ。しかし、増刷は無論するなよ。それも発表し、加えて、今月号の利益分まあ、2千万円を福祉施設に寄付すると言え。これで儲けることは致しませんとな」
実際に、その日のうちにF社は謝罪広告をインターネットに流し、同時のその旨をマスコミ各社に伝えたので、夜には一応F社に対する抗議はほとんどなくなった。
ちなみに、週刊誌が売れるというF社の目論見は確かに当たり、週刊誌は翌日には完売したが、魔法の処方を受けた者達に限ってはそうではなかった。かれらは、このようなことを書いた会社を儲けさせてはならないと、買ったごく少数をコピーしてスキャンして仲間にまわしたのだ。まあ、これは違法なんだろうけど、承知の上だ。
しかし、二宮家のプライバシーが家族を含めて相当程度さらされたことは事実であり、それは思わぬところに飛び火した。
翌日、いつも与党のあら捜しを探している野党がハヤトに関して、突然質問を始めたのだ。基本的に国会での質問者は、1日前までに質問内容を届ける必要がある。これは当然であり、質問される方も回答はその場で出来るものではないからである。
しかし、ずんぐりむっくりの立民党の宮城加奈子はそのようなことは無視して次のように言い放ち、防衛大臣に質問を始めた。
「これは、回答に準備がいるような質問ではありませんので、防衛大臣にお聞きします。この週刊Fの記事に二宮ハヤトという者について書いてあります。奇妙なことに週刊Fは記事をとりさげたようですが、これは防衛省または官邸から圧力があったからと私どもは確信しています。
まあ、それは置いておいて、記事の内容に、この二宮という者は自衛隊の朝霞駐屯地にこもっていて、記者の面会要求にも応じなかったとのことです。記事にもあるように、なぜ、その異世界から帰ったと自称するような者を自衛隊に住まわせているのですか?また、なんで、その者が記事にもあるような豪邸を買うことが出来たのですか?防衛大臣答えてください」
議長が宮城に苦言を言うが、結局西村防衛大臣に問いかける。
「宮城君、質問に当たってはあらかじめ用意した内容にしてください。しかし、防衛大臣いかがですか?」
西村は手を挙げて、議長の同意を得てしゃべり始める。
「折角ですから、お答えします。まず私もあの記事は読みましたが、事実関係について嘘は書いていませんが、憶測についてはまったく悪意に満ちたものでありまして、出版社が取り消して謝罪したのは当然であろうと思います。さて、先ほどの質問ですが、なぜ二宮ハヤト氏を朝霞駐屯地に滞在させているかということでしたね。
それは、皆さんもご存知の魔法能力の処方を始めたのは彼であり、今すでに魔法能力を発揮できる者達は、全ていわば彼の直接または孫弟子であります。また、この能力は大変有用なもので、一定の年齢を超えると覚えるのは難しいようですが、体力と共に知力が増強されます。
それで、そういう能力を持つ彼に、臨時に防衛省の職員になってもらって、自衛隊員に魔法能力の処方をしてもらっています。一つ目はこれでいいですか?」
宮城は、首を振って言い募る。
「いえ、良くはありません。では何で、彼がいわゆる帰って来てからまもなく、彼の一家はこのような豪邸を買えたのですか?防衛省から何らかの秘密資金供与があったでしょう?」
それに対して西村は平静に答える。
「その点は、私は二宮氏から聞いてはいますが、私が言うべきことではないので、なぜ、どうやって、二宮氏の家を買ったかは申せません。しかし、一切の公的なお金は使っていないことは、はっきり申せます」
宮城は尚もいう。
「国会において、そう言う答えは無礼でしょう。なぜ言えないのですか」
「週刊誌の記事、それもその週刊誌そのものが取り消した記事について、1個人のプライベートの問題なので答えられないということがおかしいでしょうか?」
西村の答えに尚も宮城は言い募る。
「あなたたちの言うことが信じられないからよ。では、その者を証人喚問しなさい」
そこで、議長が割って入る。
「宮城君、最初の質問項目にもないようなことで、しかも水掛け論で時間を使われるのは止めてください。ほかに質問がないのなら退席してください」
「いえ、では質問リストを出した質問に移ります」
宮城は頬を膨らませて言う。
「おい、ハヤト、面倒なことになったな」
朝霞駐屯地で国会中継を見ながら安井が言うのに応じてハヤトは少し憂鬱そうに言う。
「ああ、俺はいいんだけどな。親父とおふくろ、それとさつきがな。おちおち外を出歩けなくなるだろうな。今晩は帰って謝ってくるよ。しかし、もっと俺の名前が知れるのは早いと思ったけど、結構な期間秘密にして保ったな」
「ああ、結局、処方を受けた連中と言うのはハヤトのお陰と言うのは認識しているわけで、賢くなっているわけだよ。そうそう、漏れるようなことはしないよ。だから、週刊Fも、連中の抗議というか攻撃に音を上げて、その日の内に白旗を挙げたわけだな。よほどビビったと見えるな。
しかし、これでお前の持って帰った宝の件は表に出さないとしょうがないだろう。ワールド・ジュエリー(WJ)との話はどうなったんだ?」
安田が最後にそう聞き、ハヤトが答える。
「うん、税金の問題は整理は着いたみたいだ。結局、俺が異世界から宝を持ち込んだのが嘘とは誰も立証できない訳だ。事実だしな。そうした場合に、異世界から宝を持ち込んだ場合の税率なんていう法律はないわけよ。まあ、浦島太郎が乙姫様から宝をもらって帰った場合に、その宝に課税できるか、でその税率はという訳だ。
まあ、なんか税務署は理屈をひねり出して課税するだろうけどね。どっちにしてもグレーゾーンだから、俺はものをWJに預けて、ある程度ずつ払ってくれればいいということにしたわけだ。それで、WJは税務署最近までネゴをしていて、ようやく話をつけてあのお宝の売った時にはその半分は税としてはらうということで決着したらしい。
金が動けば税を払うのは当然だからね。で、俺の方はニノミヤ・カンパニー(NC)を作って、というか作ってもらってWJからの金を受け取るわけよ。会社は、基本的に利益に対して課税だからNCは年間の税引き前の利益に課税され、俺たち家族が給料の形でNCからお金を受け取るわけだ。無論所得税は払うけど、まあ各人年間2千万以下程度だったら大した税じゃないよ。
それから、それで、一応税の関係はクリヤーになったので、WJはもうすぐ、お宝が異世界から来たということを発表して、地球にない宝石を売り始めるらしい。彼らの見込みでは全部で3千億を超えるだろうと言っている。まあ、俺が要求しているのは500億だから、WJとしてはいい商売なんじゃない?」
そういうハヤトの話に安田は「ふえ!お前の話には着いていけないよ」半ば叫び、さらに続ける。
「ところで、そのNCでは何の事業をやるのよ?会社である以上、なにか事業をやんなきゃいけないのじゃないか?」
ハヤトはそれに応えて言う。
「ああ、魔法の処方を中心に考えている。あるいは魔法の能力のあるものを集めて、何かをやるかだな。例えば、何なショーなんかも考えられるよ。安井も入ってくれよ」
「ああ、おれもいつまでも自衛隊はどうかな、とは思っていたところではある。じっくり考えるかな。どうせ、中国が片付くまでは政府は離してくれんぞ。ちなみに、さっきの国会のおばはんはしつこそうだけどまだ何か言ってくるんじゃないかな」
安井はハヤトに応じて言うがハヤトは勘弁してくれと言う。
「いやあ、ああいうのは勘弁してほしいな」
夕刻、ハヤトは安井に送ってもらって家に帰り、大きな声で挨拶する。
「ただいま、帰ってきました。母さん!」
「ハヤト、待ってたわよ、良く帰ったね」
出迎えた母とキッチンのテーブルに座る。母が食事の用意をしながら、お茶を用意している後姿を見ながらハヤトが言う。
「母さん、お手伝いを雇えばいいのに」
「だめよ。私は専業主婦だから、この家くらいは何とかしなきゃ」
母が答えるのにハヤトが反論する。
「でも、だいぶ広くなっているし、家も会社にしているから、人を雇った方がいいんだよ」
「うーん、確かに庭は手が回らないのは事実ね。でも、人を置くほどの手間はかからないし、家の中については今のところは人を雇うつもりはないわ」
母の返事に、ハヤトは「では庭についてはどこかと契約しよう」と言って、明日WJに務めている同級の田川に頼もうと思うのだった。
やがて、さつきが帰り、すこししゃべっているうちに父も少し早めに帰って来て言う。
「さっき、車のラジオで言っていたが、立民党が記者会見を開いて、ハヤトのことを政府に説明を要求するということで、お前を国会への証人として申請するのだと言っているぞ。宮城という女の議員だな」
ちなみに、さつきは赤いセダンを買って通学している。
ハヤトが顔を曇らせて言う。
「父さん、母さん、さつき、ごめんね。ちょっと露出しすぎたな。皆に迷惑をかけるのは申し訳ない」
それから、皆に向かって深々と頭を下げる。「
いいんだ。可愛い息子の事だ。別に悪いことをしているわけではない。それどころか、世のため人のためになっているのだから、私はお前を誇りに思っているよ」
父が言い、それに続いて母も言う。
「そうよ。私たちは恥じることなど全然ないもの。むしろあなたのことを誇れるのだから幸せよ。ハヤトは自分の思うようにやればいいのよ」
さつきも続く。
「私もよ。何たって私は魔法が使えるようになったし、頭の働きも良くなったし、お兄ちゃんには感謝しかないわ」
ハヤトは再度深々と頭を下げて言う。
「ありがとう、みんな。とりあえず、あの国会議員は何とかしなきゃ
「異世界から帰って来たという青年、自衛隊に入る!」
そういう見出しで、二宮ハヤトの実名を出して、全体的にハヤトの事を揶揄して書いている。記事はそれなりに取材をしているようで、狭山第2中学校及び利根東高校での魔法による身体強化を教えたのがハヤトであるということさらに、いま朝霞駐屯地に滞在しているとまで書いてある。
その上に、二宮家の写真が出ていて、なぜ彼が異世界から帰ったという2カ月後にこのような豪邸に住むようになったか、ということをいやみたらしく述べており。多分、高校で魔法の処方中に生徒がスマホで撮ったものだろうハヤトの写真も載っている。
さらに記事は、豪邸とハヤトが自衛隊の駐屯地にいること、なぞに包まれた“まもる君”を結び付けて、防衛省・政府がなにやら後ろ暗い金を使って、裏でなにか後ろ暗いことをやっているのではないかと結んでいる。問題は、さすがに名前は出していないが、さつきが千葉国大の通い始めたこと、母が専業主婦であり、父が大和製作所に勤務していることまで書いてある。
最初にその記事に気が付いたのは、妹のさつきであり、同じ大学に通っている電車通勤の友人の霧島美和から、電車の中の週刊誌の吊り広告のスマホの映像を見せられたのだ。本日発売とあったので、早速書店に買いに行って中身を見る。
「これ、ちょっと質が悪いわね。いかにも後ろ暗いことをしているように書いて」
言う美和に、さつきは少し動揺したもののまだ落ち着いて返す。
「まあ、こういう風に明るみになるのは時間の問題ではあったのだけどね。特に隠していたわけでないし、お兄ちゃんなんか堂々と異世界から帰ったと言っていたもんね。まあ、魔法の処方のインパクトを考えればよく今まで、こういう騒がれ方をされなかったのが意外な位よ。別にやましいことをしているわけではないもの、慣れるしかないわ」
「でもこの書き方はひどいわ。いかにもハヤトさんのことをほら吹きの悪者みたいに書いて。でもさつきにはこの週刊Fから取材はなかったの?」
美和の問いに、さつきはすこし顔をしかめて返事をする。
「あったわ。学校の帰りに話しかけられて、でもなにか言い方がいやだったから断ったの。中年の男の人できちんとした服は着ていたわ」
千葉国大には、同じ利根東高や、利根市の他の高校から来た1年生がたくさんいるので、学食の外の椅子に座っているさつきを訪ねてやって来る。ほとんどがさつきに魔法を処方されているので、記事のことで心配してやってきたのだ。
「これは、書き方がひどいよ。ハヤトさんがいないと、僕らも魔法による身体強化とまあ知力増強もなかったもんな。まるっきり悪者扱いだ。これは、週刊Fに抗議だ」
ある男子学生の言葉が代表的なもので、皆記事に対して怒っている。
このように、実際に魔法による処方を受けた者は、皆記事に対し怒りを覚え、実際に一斉にその編集部及び会社に抗議の電話、怒りのメールを出している。その数は、あっと言う間に数千に上り、週刊Fのみならず出版社としてF社全体の電話はたちまちパンクし、メールのサンバーもダウンした。
魔法の処方を受けた者は知力が増強するが、それに伴って行動力も上がるのだ。編集長の赤井はその騒ぎに慌てていたが、まもなく上層部の知るところとなり、上階の社長に呼ばれた。社長室で社長の山口が、その週刊誌を持って該当する記事を指して聞く。
「赤井君、この記事なんだな。この騒ぎの発端は?」
「はい、みな二宮ハヤトに対して悪意を持って書いていると抗議する電話です、半分くらいは告訴すると息巻いています」
赤井編集長の回答に山口は言う。
「この程度の記事で、名誉棄損はないだろう。しかも匿名なんだろう?」
「いえ、殆ど名と所属を名乗っています。しかも、殆ど感情的にならず、その内容が極めて理性的で的確だそうです。これは、ちょっと普通とは違います」
赤井の返事に山口はすこし難しい顔になり、考えながら言う。
「名乗っている、しかも感情的にならない。それはすこし厄介だな。しかし、まあそれだけ本が売れるということだからな。しかし、この異世界から帰って来たというのは事実か?」
「本人はそう言っていますし、確かに彼、その二宮氏が魔法の処方を始めに実施したのは間違いないようです」
赤井は答え、山口が考え込んで言う。
「うーん。いささか書き方が悪かったな。その二宮というのに、それだけ人望があるというのは計算違いだ。しかも、やけにその魔法の処方を受けたという連中には行動力があるな」
「ええ、知力が上がるというのは本当らしいですよ。それも5割近く」
赤井が応じて、それに対していささか山口は驚いて言う。「5割!そんなことがあるのか」さらに山口は腕を組んで考えていた、やがて腹を決めて言う。
「赤井、この際、謝れ。この内容では決めつけてはいないので名誉棄損はない。だから、本の回収は無論しないが、抗議をうけて反省しましたと、次回号でお詫びしますと発表しろ。そんな、人より5割も頭のいい何千、何万の連中を相手にできるか!」
「はい、実は私もやばいとは思っていたんです。社長がそう言って頂けるのなら有難いです。今回は、読み違いをして、会社全体に御迷惑をおかけした結果になり申し訳ありません」
赤井は、すこし頭の薄い社長に向かって、深々とやはり少し薄い頭を下げる。それを、社長は一応は宥めるが、尚も対処を指示する。
「まあ、俺も同じようなことをやって来たんだ。しかし、今回はそれだけで収まるとは思えんな。これで、今週号はあっという間に売り切れるだろうよ。しかし、増刷は無論するなよ。それも発表し、加えて、今月号の利益分まあ、2千万円を福祉施設に寄付すると言え。これで儲けることは致しませんとな」
実際に、その日のうちにF社は謝罪広告をインターネットに流し、同時のその旨をマスコミ各社に伝えたので、夜には一応F社に対する抗議はほとんどなくなった。
ちなみに、週刊誌が売れるというF社の目論見は確かに当たり、週刊誌は翌日には完売したが、魔法の処方を受けた者達に限ってはそうではなかった。かれらは、このようなことを書いた会社を儲けさせてはならないと、買ったごく少数をコピーしてスキャンして仲間にまわしたのだ。まあ、これは違法なんだろうけど、承知の上だ。
しかし、二宮家のプライバシーが家族を含めて相当程度さらされたことは事実であり、それは思わぬところに飛び火した。
翌日、いつも与党のあら捜しを探している野党がハヤトに関して、突然質問を始めたのだ。基本的に国会での質問者は、1日前までに質問内容を届ける必要がある。これは当然であり、質問される方も回答はその場で出来るものではないからである。
しかし、ずんぐりむっくりの立民党の宮城加奈子はそのようなことは無視して次のように言い放ち、防衛大臣に質問を始めた。
「これは、回答に準備がいるような質問ではありませんので、防衛大臣にお聞きします。この週刊Fの記事に二宮ハヤトという者について書いてあります。奇妙なことに週刊Fは記事をとりさげたようですが、これは防衛省または官邸から圧力があったからと私どもは確信しています。
まあ、それは置いておいて、記事の内容に、この二宮という者は自衛隊の朝霞駐屯地にこもっていて、記者の面会要求にも応じなかったとのことです。記事にもあるように、なぜ、その異世界から帰ったと自称するような者を自衛隊に住まわせているのですか?また、なんで、その者が記事にもあるような豪邸を買うことが出来たのですか?防衛大臣答えてください」
議長が宮城に苦言を言うが、結局西村防衛大臣に問いかける。
「宮城君、質問に当たってはあらかじめ用意した内容にしてください。しかし、防衛大臣いかがですか?」
西村は手を挙げて、議長の同意を得てしゃべり始める。
「折角ですから、お答えします。まず私もあの記事は読みましたが、事実関係について嘘は書いていませんが、憶測についてはまったく悪意に満ちたものでありまして、出版社が取り消して謝罪したのは当然であろうと思います。さて、先ほどの質問ですが、なぜ二宮ハヤト氏を朝霞駐屯地に滞在させているかということでしたね。
それは、皆さんもご存知の魔法能力の処方を始めたのは彼であり、今すでに魔法能力を発揮できる者達は、全ていわば彼の直接または孫弟子であります。また、この能力は大変有用なもので、一定の年齢を超えると覚えるのは難しいようですが、体力と共に知力が増強されます。
それで、そういう能力を持つ彼に、臨時に防衛省の職員になってもらって、自衛隊員に魔法能力の処方をしてもらっています。一つ目はこれでいいですか?」
宮城は、首を振って言い募る。
「いえ、良くはありません。では何で、彼がいわゆる帰って来てからまもなく、彼の一家はこのような豪邸を買えたのですか?防衛省から何らかの秘密資金供与があったでしょう?」
それに対して西村は平静に答える。
「その点は、私は二宮氏から聞いてはいますが、私が言うべきことではないので、なぜ、どうやって、二宮氏の家を買ったかは申せません。しかし、一切の公的なお金は使っていないことは、はっきり申せます」
宮城は尚もいう。
「国会において、そう言う答えは無礼でしょう。なぜ言えないのですか」
「週刊誌の記事、それもその週刊誌そのものが取り消した記事について、1個人のプライベートの問題なので答えられないということがおかしいでしょうか?」
西村の答えに尚も宮城は言い募る。
「あなたたちの言うことが信じられないからよ。では、その者を証人喚問しなさい」
そこで、議長が割って入る。
「宮城君、最初の質問項目にもないようなことで、しかも水掛け論で時間を使われるのは止めてください。ほかに質問がないのなら退席してください」
「いえ、では質問リストを出した質問に移ります」
宮城は頬を膨らませて言う。
「おい、ハヤト、面倒なことになったな」
朝霞駐屯地で国会中継を見ながら安井が言うのに応じてハヤトは少し憂鬱そうに言う。
「ああ、俺はいいんだけどな。親父とおふくろ、それとさつきがな。おちおち外を出歩けなくなるだろうな。今晩は帰って謝ってくるよ。しかし、もっと俺の名前が知れるのは早いと思ったけど、結構な期間秘密にして保ったな」
「ああ、結局、処方を受けた連中と言うのはハヤトのお陰と言うのは認識しているわけで、賢くなっているわけだよ。そうそう、漏れるようなことはしないよ。だから、週刊Fも、連中の抗議というか攻撃に音を上げて、その日の内に白旗を挙げたわけだな。よほどビビったと見えるな。
しかし、これでお前の持って帰った宝の件は表に出さないとしょうがないだろう。ワールド・ジュエリー(WJ)との話はどうなったんだ?」
安田が最後にそう聞き、ハヤトが答える。
「うん、税金の問題は整理は着いたみたいだ。結局、俺が異世界から宝を持ち込んだのが嘘とは誰も立証できない訳だ。事実だしな。そうした場合に、異世界から宝を持ち込んだ場合の税率なんていう法律はないわけよ。まあ、浦島太郎が乙姫様から宝をもらって帰った場合に、その宝に課税できるか、でその税率はという訳だ。
まあ、なんか税務署は理屈をひねり出して課税するだろうけどね。どっちにしてもグレーゾーンだから、俺はものをWJに預けて、ある程度ずつ払ってくれればいいということにしたわけだ。それで、WJは税務署最近までネゴをしていて、ようやく話をつけてあのお宝の売った時にはその半分は税としてはらうということで決着したらしい。
金が動けば税を払うのは当然だからね。で、俺の方はニノミヤ・カンパニー(NC)を作って、というか作ってもらってWJからの金を受け取るわけよ。会社は、基本的に利益に対して課税だからNCは年間の税引き前の利益に課税され、俺たち家族が給料の形でNCからお金を受け取るわけだ。無論所得税は払うけど、まあ各人年間2千万以下程度だったら大した税じゃないよ。
それから、それで、一応税の関係はクリヤーになったので、WJはもうすぐ、お宝が異世界から来たということを発表して、地球にない宝石を売り始めるらしい。彼らの見込みでは全部で3千億を超えるだろうと言っている。まあ、俺が要求しているのは500億だから、WJとしてはいい商売なんじゃない?」
そういうハヤトの話に安田は「ふえ!お前の話には着いていけないよ」半ば叫び、さらに続ける。
「ところで、そのNCでは何の事業をやるのよ?会社である以上、なにか事業をやんなきゃいけないのじゃないか?」
ハヤトはそれに応えて言う。
「ああ、魔法の処方を中心に考えている。あるいは魔法の能力のあるものを集めて、何かをやるかだな。例えば、何なショーなんかも考えられるよ。安井も入ってくれよ」
「ああ、おれもいつまでも自衛隊はどうかな、とは思っていたところではある。じっくり考えるかな。どうせ、中国が片付くまでは政府は離してくれんぞ。ちなみに、さっきの国会のおばはんはしつこそうだけどまだ何か言ってくるんじゃないかな」
安井はハヤトに応じて言うがハヤトは勘弁してくれと言う。
「いやあ、ああいうのは勘弁してほしいな」
夕刻、ハヤトは安井に送ってもらって家に帰り、大きな声で挨拶する。
「ただいま、帰ってきました。母さん!」
「ハヤト、待ってたわよ、良く帰ったね」
出迎えた母とキッチンのテーブルに座る。母が食事の用意をしながら、お茶を用意している後姿を見ながらハヤトが言う。
「母さん、お手伝いを雇えばいいのに」
「だめよ。私は専業主婦だから、この家くらいは何とかしなきゃ」
母が答えるのにハヤトが反論する。
「でも、だいぶ広くなっているし、家も会社にしているから、人を雇った方がいいんだよ」
「うーん、確かに庭は手が回らないのは事実ね。でも、人を置くほどの手間はかからないし、家の中については今のところは人を雇うつもりはないわ」
母の返事に、ハヤトは「では庭についてはどこかと契約しよう」と言って、明日WJに務めている同級の田川に頼もうと思うのだった。
やがて、さつきが帰り、すこししゃべっているうちに父も少し早めに帰って来て言う。
「さっき、車のラジオで言っていたが、立民党が記者会見を開いて、ハヤトのことを政府に説明を要求するということで、お前を国会への証人として申請するのだと言っているぞ。宮城という女の議員だな」
ちなみに、さつきは赤いセダンを買って通学している。
ハヤトが顔を曇らせて言う。
「父さん、母さん、さつき、ごめんね。ちょっと露出しすぎたな。皆に迷惑をかけるのは申し訳ない」
それから、皆に向かって深々と頭を下げる。「
いいんだ。可愛い息子の事だ。別に悪いことをしているわけではない。それどころか、世のため人のためになっているのだから、私はお前を誇りに思っているよ」
父が言い、それに続いて母も言う。
「そうよ。私たちは恥じることなど全然ないもの。むしろあなたのことを誇れるのだから幸せよ。ハヤトは自分の思うようにやればいいのよ」
さつきも続く。
「私もよ。何たって私は魔法が使えるようになったし、頭の働きも良くなったし、お兄ちゃんには感謝しかないわ」
ハヤトは再度深々と頭を下げて言う。
「ありがとう、みんな。とりあえず、あの国会議員は何とかしなきゃ
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A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
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冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
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王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
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カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
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【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
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《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
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冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
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そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
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